Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。そのテーマの一つが、未来の薬局「Beyond Pharmacy」だ。

昨今、自動化・機械化が進む薬局業務。医師の処方箋通りに薬を袋に詰めて、説明とともに交付するという薬剤師の仕事の大半は、近い将来、ロボットに置き換わる日も遠くないとみられる。そんな中、薬局の薬剤師は何をなすべきなのか。

今回取り上げるのは、福岡県を中心に100店舗以上展開する大賀薬局(本社:福岡市博多区)。薬剤師の「専門性」を発揮する職場づくりに努め、いまや全国区となった薬剤師のヒーローまで誕生させた。その狙いと今後の展望について、代表取締役社長の大賀崇浩氏に聞いた。

大賀薬局社長の大賀崇浩氏(撮影:諸石 信、以下同)
大賀薬局社長の大賀崇浩氏(撮影:諸石 信、以下同)
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 大賀薬局は1902(明治35)年に創業し、119年目を迎えた老舗企業。「調剤薬局事業」と「ドラッグストア事業」の二つを柱とする。店舗数は2021年3月末現在、114店。パートを含めた全社員1423人中、薬剤師数は九州有数の546人に上る。

 注目は、大賀薬局のドラッグストアは、調剤薬局が併設している店舗はもちろんのこと、そうでない店舗においても全店に薬剤師が在籍している点だ。

 法規制上、ドラッグストアは、すべての店舗に薬剤師を置かなくてもよい。OTC医薬品のうち、副作用のリスクが比較的低い第2類と3類の医薬品は、都道府県が実施する試験に合格した「登録販売者」が店にいれば販売できるからだ。一方、医療用から一般用に転用されたばかりの要指導医薬品や特にリスクの高い第1類医薬品は、薬剤師による対応と情報提供が義務付けられている。

 大賀社長は次のように話す。

 「ドラッグストアに薬剤師がいれば、あらゆる薬をそろえられ、特殊な医薬品も含めて、お客様に合わせた最適な医薬品を提供できる。また、病院で処方された医薬品との飲み合わせ、薬と食品との食べ合わせ、そのほか健康相談や栄養剤に関するアドバイス、受診勧奨も専門的な立場から行える。ただ安いだけ、ただ品揃えが豊富なだけじゃなく、大賀薬局に行けば、どの店舗でもいつでも薬剤師がいるから安全で安心だと感じてもらえ、それが自分たちの強みだと思っている」

 大賀社長によると、九州で本格的なドラッグストアを開業したのは、おそらく大賀薬局が初めてとのこと。今から30年ほど前だ。明治時代に医薬品に特化した商店として創業し、1960年台の医薬分業の黎明期には調剤薬局を開設して、出店を拡大。そして1990年代に入って、米国の潮流を受けて、新たな業態だったドラッグストアに挑戦した。

 「『ドラッグストア』と言っても、薬を扱う専門店というのが先代のこだわり。だから専門性の高い薬剤師がいるのは当たり前」(大賀社長)という発想なのだ。

こうしてオーガマンは誕生した

 そんな大賀社長自身は薬剤師ではない。「登録販売業者の資格は持っているが」と前置きした上で、こんな懸念を口にした。

 「一般の人から見ると、薬剤師と登録販売業者の区別がつかない、違いがわかららないというケースも少なくない。両方、同じように白衣を着ていて、名札には職種が書いてあっても、そこまで見ていなかったり、見ても特段気に留めていなかったりする」

 薬剤師と登録販売業者では知識の量が断然違うことは自らがよくわかっている。「比べ物にならない」と大賀社長。にもかかわらず、一緒くたにされがちなのは、「薬剤師の存在意義・存在価値が世間に広く知られていないため」。そんな発想から生まれたのが、薬剤師のヒーロー、その名も「薬剤戦師オーガマン」だった。

薬剤戦師オーガマン(画像提供:大賀薬局)
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薬剤戦師オーガマン(画像提供:大賀薬局)
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薬剤戦師オーガマン(画像提供:大賀薬局)

 オーガマンとは何者なのか。構想から3年の2019年夏に誕生。同年10月に動画投稿サイト、ユーチューブにプロモーション動画が公開されると、SNSを中心に話題を集め、いまや人気は全国区だ。

 そのプロモーション動画はこちら

 食事を終えた老夫婦の男性が、今日は具合がいいから大丈夫だとして薬を飲まずに横になった途端、オーガマンが現れる。場面は移り、薬局で調剤を終えたオーガマンが患者に「やくいくてちょう(薬育手帳)」を渡す。だが、それを奪い取る敵が現れ、助けに向かうオーガマン。注射器のような武器で敵を撃退し、勝利をおさめると、子どもたちが集まり、オーガマンは一人ひとりに手帳を渡す。それを大切に家に持ち帰った男の子の祖父が冒頭の老夫婦の男性だった。手帳を手にした孫から「お薬を残さずに飲んでね」と伝えられた祖父は以前の態度を一変させ、笑顔でうなずく──。こんなストーリーだ。

 爆破やCGも駆使した戦闘シーン。後半流れるロック調のテーマソングが何とも印象的でくせになる。

 「もともと大の仮面ライダーファンだった」と打ち明ける大賀社長。2016年にやっていた仮面ライダーエグゼイドはゲーム好きでもある医師が変身した。ん? 医師のヒーローはいても薬剤師のヒーローはいない。そのことに気づいた大賀社長は、子どもたちの憧れの的となるヒーローを通じて「薬剤師という職業を知ってもらうきっかけになれば」との思いから、「薬剤戦師オーガマン」を着想した。

 “デビュー”まで3年かかったのは、細部の詰めに時間をかけたため。福岡で映像・イベント会社を経営する中高時代の後輩の協力も仰ぎながら、オーガマンの背景やスペック、デザインの設定にこだわり抜いた。

 最も力を注いだのは、「ヒーローならではの大義づけ」と大賀社長。「ヒーローは“ゆるキャラ”ではない。どんな敵と戦って何を守ろうとしているのかの大義が欠かせない」。

 では薬剤師は日々何と戦っているのか。薬剤師の重要な役割として、薬漬け医療や過剰投与のチェック機能がある。処方箋を点検し、飲み合わせや本当に飲み切れるかを考え、医師に薬を変えたり、減らしてもらったりする。問題ない処方であれば、患者に正しく服用してもらい、治療効果を高めていく。こうして薬が必要なくなる状況へと導き、結果的に医療費の削減にも寄与する。

 だが、現実は患者が治ったと勝手に判断して飲むのをやめたり、飲み忘れたりする「残薬問題」が発生。飲まれずに廃棄される薬は年間約500億円に上るとも言われる。本来、残さずに飲めば、効力が高まり、結果的に薬の量が減らせるはず。そこで、オーガマンの使命は、病状の悪化や医療費の無駄遣いにつながる残薬問題の撲滅とした。同時に病気予防の大切さも伝えていく。

 「薬飲んで、寝ろ」──。決め台詞は至ってシンプルなワンフレーズにした。

子どもをターゲットにしたワケ

 残薬問題の解消を啓発するためのツールが、お薬手帳としても使える「やくいくてちょう」。薬の飲み忘れを防ぐために、服用後に「チャージゲージ」に色を塗ったりシールでチェックしたりする欄を設け、きっちり飲み切ったら、病気をばらまく「ヤバイ仮面」をやっつけられるという仕様だ。子どもが楽しめるよう工夫を凝らしている。

 オーガマンもやくいくてちょうも、子ども向けなのだが、そこに大賀社長の狙いがある。

 「薬の飲み忘れが多いのは圧倒的に高齢者。そんなおじいちゃんやおばあちゃんにとって最強のインフルエンサーともいえる孫から、『お薬飲んで健康で長生きしてね』『お薬忘れないでね』と声をかけられれば、悪い気はせず、素直に言うことを聞いて、飲み忘れは確実に減っていくはず」と考えた。

 大賀社長が大事にしているのは、手帳の名にもある「薬育」。薬に関して正しい知識や使用方法などを教育していくことだが、その薬育を子どもから高齢者に波及させることにしたわけだ。

 加えて、医療財政にも目を向けている。「43兆円にも上る医療費の削減は、日本における最大の課題。国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)では、『すべての人に健康と福祉を』とうたっているが、幼少のころから、医療財政に少しでも興味・関心を持ってもらうようにすることが大事で、オーガマンがそのきっかけづくりになれば」と、大賀社長は語る。

 いまやオーガマンは引っ張りだこだ。もともとオーガマン誕生時は、福岡県内の幼稚園や保育所を回って、「やくいくショー」を行う計画を立てていた。ショーが15分、握手会と記念撮影が15分、合計30分くらいの内容だ。そうして薬育の普及とともに、大賀薬局のファンづくりも進めていく。

 順調な出だしを切ったものの、新型コロナウイルス感染症の影響で、昨春からは幼稚園や保育園回りができなくなった。

 ところが、である。その裏であるプロジェクトが始動。福岡で活動するヒーローたちが活躍する特撮ドラマ「DOGENGERS(ドゲンジャーズ)」が作られることになり、オーガマンの参戦が決まったのだ。ドラマは昨年4月から3カ月にわたって、九州朝日放送で日曜午前10時から放映。また、ニコニコ動画でのディレイ配信が行われたこともあり、大人も含め、全国の特撮ファンから大いに支持を集めた。

 実は、今月からはドゲンジャーズ2期目の作品がスタート。九州朝日放送に加え、TOKYO MX、熊本朝日放送、鹿児島放送でも放映される。

 オーガマンは現在まで幼稚園や保育所回りは再開できないままだが、特撮ドラマで人気を不動のものしたことで、商業施設などでのショーを頻繁に頼まれるようになった。テーマはもちろん薬育だ。毎週末はほぼどこかの会場に呼ばれているという。

 「オーガマンに会えた子どもたちはみんな目を輝かせ、手紙やプレゼントを持ってきてくれることもしばしば」と大賀社長。「こうしたやり取りは、社員のやる気にもつながっている」と明かす。

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ショーを終えると、毎回ファンから手紙やプレゼントが。「薬飲んで、寝ろ」はオーガマンのきめ台詞
ショーを終えると、毎回ファンから手紙やプレゼントが。「薬飲んで、寝ろ」はオーガマンのきめ台詞
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「調剤師」と呼ばれることを何より嫌うオーガマン

 大賀社長が目指す薬育の普及は、何も自薬局だけの取り組みにとどまらない。「やくいく手帳」は「ドゲンジャーズ」の劇中にも登場しているため、テレビ放送やネット配信開始を機に全国の薬局から設置について問い合わせが寄せられるようになった。そこで、大賀薬局の監修で、オーガマンの薬育手帳を発展させた番組オリジナルの薬育手帳を作成し、希望する全国の薬局へ約100万部を無償で配布。裏表紙に協賛企業の広告を入れることで、制作・配送費を賄っている。

 ところで、オーガマンは「調剤師」と呼ばれることを何より嫌う。医師の指示のまま調剤するのではなく、医師と対等に話せる薬剤師であり、地域の人にとってより身近な「健康のスペシャリスト」であるとの自負からだ。

 今年1月には、オーガマンは、福岡市幼稚園連盟を通じて、オリジナルで作成した「けんこうDVD」を福岡市の幼稚園117園に無償提供した。このDVDは、新型コロナウイルスやインフルエンザの感染予防に向けた、手洗い・うがいの正しい方法や、薬の正しい飲み方をオーガマンがわかりやすく説明したものだ。

 健康のスペシャリストとしての活動の場を広げるオーガマンに対し、福岡市も業務を委託。新型コロナウイルス感染症予防のメッセージ発信をオーガマンに託し、それを市のホームページやSNS上で紹介するプロジェクトが今年3月にスタートした。情報発信は7月末までを予定する。

オーガマンポーズをとる大賀社長
オーガマンポーズをとる大賀社長
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 オーガマンの活躍はついに国境を越え、既に海外進出も果たしている。マレーシアのテレビ局が今月3日から、ドゲンジャーズ第1シリーズの放映を開始したのだ。マレー語の吹き替えで、折に触れ、薬育の大切さが説かれている。

 「将来はオーガマンのようになりたい」──。大賀社長によると、テレビ番組やショーを通じて、子どもたちからはそんな声も多く寄せられるという。彼らが大人になって活躍したら、残薬問題が解消し、日本の医療財政が好転する可能性は十分ある。そう、薬剤師のヒーローが日本の医療を救うのだ。決して夢物語ではないだろう。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)