Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その注目テーマの一つが、未来のワークプレース「Beyond Workplace」だ。

コロナ禍を背景に、テワレークの拡大によるオフィス需要の後退を伝えるデータや記事が増えている。しかし、ただ数字を追うだけでは、変化の度合いや方向性など、実態を見誤る可能性がある。オフィスビルは今、どんな環境にあって、どのような方向に向かっているのか。数字やデータの裏にある実像について、大和証券の大村恒平シニアアナリストに話を聞いた。

大村恒平氏 大和証券エクイティ調査部次長、シニアアナリスト
大村恒平氏 大和証券エクイティ調査部次長、シニアアナリスト
おおむら・こうへい 大和証券SMBC(現大和証券)において機関投資家向け営業などに従事した後、2013年から投資銀行部門でREITの引き受け業務を担当。不動産証券化協会認定マスター。日経ヴェリタス「第33回人気アナリスト調査」でREIT部門2位(写真:川田 雅宏、以下同)
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2021年3月には東証REIT指数が、約1年ぶりに2000ポイントを上回るなど、オフィスビルなどで運用するREIT(不動産投資信託)の価格に回復傾向が見えています。新型コロナウイルスについては依然不透明な状況が続いていますが、REITは有事から平時に戻ったと見ていいのでしょうか。

 YESかNOかと言えば、YESです。

 東証REIT指数2000ポイントは、分配金利回りで言うと3.55%に相当します。一般的に、加重平均分配金利回り4%が「有事と平時の分岐点」とされています。2012年後半のアベノミクス以降、REITの分配金利回りは低下傾向にあり、上がる局面があっても4%を超えることはありませんでした。それがコロナショックで4%を大きく上回る状況が続いてきたわけですが、今年に入ってからは4%を下回る水準で推移しています。

 こうしたことから、REITのバリュエーション(価格水準)は有事から平時への移行を織り込んだ、という見方ができるでしょう。株価指標のPBR(株価純資産倍率)に当たるNAV倍率(資産価格から価格水準を測る指標=投資口価格÷1口当たり純資産価格)が1倍前後に収れんしてきたのも、その証左です。

空室率10%超えの見方もあるが

気になるのが、オフィスビルの空室動向です。コロナ禍によるテレワークの拡大などで、オフィス面積を減らす企業が増えていると聞きます。2021年2月の都心5区の空室率は、供給過剰の目安とされる5%を超えました。大村さんは今後の空室率はどう推移していくと考えていますか?

 企業によるオフィス面積の縮小などで、近い将来オフィスビルの空室率が10%を超えるという見方もありますが、私はそうは思いません。

 空室率は供給と需要という2つのファクターがあります。新しいオフィスビルが稼働したり、テナントが退去して空きが出たりするのを、需要でどれくらい戻せるかという話です。コロナショック前の2018年から2019年にかけては、旺盛な需要が供給を上回り、都心5区の空室率は低位で推移していました。一方、2020年末のデータを見ると空室率は4.49%で、供給要因が前年比+2.61%ポイント、退去等による需要要因は+0.33%ポイントとなっています。つまり、都心5区の空室率を押し上げた要因は、需要の問題よりも、新規オフィスの大量供給によるインパクトが大きく、仮にコロナ問題がなくても、ある程度上昇していたのではないでしょうか。

 さらに、2020年は4~5月に緊急事態宣言が発出されたこともあり、ブローカーによるテナント候補への営業ができづらかったという側面もあります。結果的に大量供給を埋め戻すに至らず、空室率の上昇につながったわけです。

 当社では、2021年末の都心5区の空室率を6.16%(供給要因+0.72%ポイント、需要要因+0.96%ポイント)と予想しています。空室率はここから一気に2ケタ台に向かうのではなく、上昇ピッチは鈍化していくのではないでしょうか。

需要の二極化とABWへの対応

オフィスビルの需要に関し、最近はどのような傾向が見られるのでしょう?

 大きな流れとして、「二極化」が挙げられます。

 都心にあるハイスペックなプレミアム物件は、コロナ禍でも根強いニーズがあり、利便性の高い都心の主要駅周辺の物件が選好されています。

 一方、郊外のターミナル駅周辺にあって、100坪を超えないオフィスビルも安定的なニーズが認められます。テナントは主として中小企業ですが、業績不振などによる退去があったとしても、床面積がそれほど広くないため、埋め戻されやすいのが特徴です。

 苦戦を強いられているのが、これらに属していない「二極化の中間に位置するオフィス」で、こうした傾向は今後も続くと見ています。

 とはいえ、これらが在宅勤務の拡大によるオフィス縮小によるものかと言えば話は別です。REITのオフィスビルでも、コワーキングスペース向けの貸し出し面積が増えるなど、ワークプレースの多様化による変化は出ており、ABW(Activity-based working=時間と空間を自由に選択する働き方)への対応も話題に上ります。

 しかし、「どうあるべきか」という問いに対しては、オーナーも、テナント企業も、明確な答えを持つに至っていないように思います。現在のREITは、将来像を模索している段階であり、適切なモデルをつくる知見を蓄積しているというのが実態ではないでしょうか。

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オフィスビルにもESGの波

2030年に向け、大村さんは、オフィスビルはどのように変わっていくと見ていますか?

 1つ目は設備の変化です。5Gのネットワーク環境の構築など、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応は急務です。こうした設備に優れる物件は業容を拡大しているIT系企業からの引きも強く、賃料が上がっていくのではないかと思います。

 2つ目は開発の変化。オフィス縮小の進展は別として、分散化による用途の多様化が進めば、ホールやレジデンシャル部分のある大規模再開発が加速することも考えられます。このクラスだと、REITが施設全体を買うことは難しく、区分所有という形で保有することになるでしょう。

 3つ目は評価の変化。投資の世界ではESG投資が拡大しており、投資に当たり、企業のE(環境)、S(社会)、G(企業統治)の取り組みを重視する機運が高まっています。ESG投資は、今後はオフィスビルの評価への適用が見込まれ、ヘルスケアも注目されるテーマの1つとなることでしょう。

どういうことでしょう?

 例えばESGの「E( Environment)」の評価軸として、温室効果ガス対策があります。温室効果ガスの取り組みを企業の投資判断に役立てようとするわけですが、これはオフィスビルにとっても重要なテーマで、海外では環境に配慮したビルの家賃が上昇しているという論文があります。いわゆる「グリーンプレミアム」です。一方、これとは逆に、ESG対応を怠った物件からテナントが流出してしまう現象も起きており、こちらは「ブラウンディスカウント」と呼ばれます。

 ヘルスケアを「社員の健康」と読めば、ESG投資の「S(Social)」の部分に当てはまります。ESG投資がさらに浸透すれば、「社員の健康に資する施設」という視点でオフィスビルを評価する機運も高まるのではないでしょうか。企業の「健康経営」による評価は、既に始まっていると言えますが、オフィスビルはこれからといった段階です。評価のポイントとして、どのようなコンセンサスが生まれるのか、注目して見ています。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)