働く意味の再定義が進む

徳永 本日のディスカッションでは、前半でコロナ禍を通じて見えてきた働き方の問題点について整理したいと思います。これを受けて後半は、未来のワークプレイスについて具体的な議論を進めていきます。まずは議論の手がかりをいただきたく、ヤフーで大胆な働き方改革に取り組んでいらっしゃる岸本さんに、改革の成果やそこから見えてきた課題についてお話しいただこうと思います。

■岸本氏によるプレゼンテーション
「ウェルビーイング」と「つながり」が課題に

 我々は2020年に働き方を大きく変える決断をしました。簡単に言うとオンライン前提の働き方に移行しました。「オンラインに引っ越します。」と表現した広告も展開しています。目的は個人と組織のパフォーマンスを上げることです。

(囲み内の資料提供:ヤフー)
(囲み内の資料提供:ヤフー)
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 もともと当社では、「どこでもオフィス」という制度を2014年から導入しております。「在宅勤務」という言い方ではなく、「どこでもオフィス」です。この制度は、社員が一番パフォーマンスが上がると考える環境で、月に5回まで働いて良いというものです。この回数制限を2020年に撤廃しまして、一人ひとりが主体的に「いつでもどこでも働ける」制度を導入しました。

 働き方をオンラインに移行することで、副業も今まで以上にやりやすくなりました。当社では社員の副業も推進しているのですが、社外から副業人材を受け入れる「ギグパートナー」という制度も始めました。こちらは大変多くの方にご応募いただいて、最終的には 100名程度の方が勤務しています。

 オンライン前提の働き方に移行した背景を、簡単に説明させていただきます。コロナ禍による第一弾の緊急事態宣言中から移行したのですが、このときに社員に対して頻繁にサーベイを行い、その状況を確認しました。その結果、まず従来のオフィス勤務に比べて、パフォーマンスは「変わらない」あるいは「向上した」と答えた社員が、約90%に上りました。コンディションに関しても「変わらない」もしくは「向上した」が約90%でした。また、「高い生産性を維持して働くためには、何日くらい出社するのが必要か」と聞いたところ、毎日行かなくていいだろうと答えた社員も90%。このような結果から、我々は正式にオンラインに移行する決断をいたしました。

 新しい働き方において我々には大きく2つの課題があると捉えています。1つ目が「ウェルビーイング」、もう一つが「つながり」です。

* ウェルビーイング:個人が幸福な状態にあること。身体的な側面だけではなく、精神的、社会的にも満たされている状態を指す

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 ウェルビーイングに関しては、「在宅勤務では仕事とプライベートの切り替えが曖昧になってしまい、なかなか仕事から抜け出せない」「家庭と仕事の区別がつかなくて気づいたら長時間労働になっていた」という状況がありました。どうしても直接的なコミュニケーションが減ってしまうため、人によっては精神的に不安定になってしまうケースが、少なからず出ています。

 2つ目のつながりについては、コミュニケーションが目的指向になるため、自分の所属している組織以外のコミュニケーションは結果として減少しているのが事実です。オフィスで働いていたときは、全館フリーアドレスにしていました。社内での偶発的な出会いから生まれるイノベーションを目的に導入したのですが、オンラインに移行することによって、そういった機会が失われてしまっているのが現状です。そこをいかに補完していくかが、大きな課題になっています。

 また、会社とのつながり、いわゆる帰属意識が薄れつつあるような気もします。「あれ、自分はどこの会社で働いているのだろう」という冗談みたいな声も、社内から聞こえてきます。これは時間が経つにつれて、やはり大きな課題になってくるのではないかと思っています。

徳永 松岡さん、林さんは、今の岸本さんのお話をお聞きして、どう思われますか。

松岡 ヤフーのオフィスについては、開設当初から拝見しています。アメリカのヤフーも取材して、元CEOのマリッサ・メイヤーさんの取り組みなどもずっと見てきました。やはり先進的な企業というのは、様々なチャレンジに積極的に取り組み、そのたびに進化していると思います。一方で伝統的な日本の企業は、会社でどんなチャレンジをするかではなく、会社に入ること自体が社員の目的になっていました。「何のスキルを持つか」「何の仕事をしたいか」がすごく大事なのに、それより「どこの会社に行きたいか」が重視されてきたわけです。今の岸本さんのお話をうかがいながら、働く人の持っている価値観が変わらざるを得ない時代が、とうとう来たなと思いました。

松岡利昌氏(日本オフィス学会 会長)
松岡利昌氏(日本オフィス学会 会長)
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 現在の働き方改革の流れの中で、働くことの意味の再定義がされているのだと思います。社会に必要とされている価値をきちんと提供し、それに公正な対価が付いてくることが労働であって、オフィスという場所や働く時間は本来関係ありません。例えば大昔は内職や個々人がそれぞれの場所で仕事をすることが普通でしたが、なぜ人々がオフィスや工場に集まるようになったかと言えば、より生産性が上がるからでしょう。いま、その原点の考え方に戻っており、その過程において様々な課題が出てきているのだと思います。

 兼業・副業については、労働者が自分の得意技を活かしてどこで働くかは、労働者の側に決める権利があり、企業が決めることではないと思います。その人が企業と約束した役割を果たす限り、企業はそれ以上言及するべきではありません。言葉を選ばずに言えば、兼業・副業で自由に必要な労働を需要のあるところに切り売りすることによって、個人の持つスキルが社会で活かせるわけですので、中長期的な視点で見れば、社会全体の経済成長に寄与すると考えています。

林 貴子氏(新生銀行 常務執行役員・人事担当)
林 貴子氏(新生銀行 常務執行役員・人事担当)
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