学校にも社会にも体や性について学べる場がない現実

 一方、日本ではこの4月から「生命(いのち)の安全教育」と題した授業を小中学校で段階的に導入していくことになり、予期せぬ妊娠や性被害から子どもたちを守る教育がようやく始まるものの、学校現場における健康教育はまだまだ不十分だ。国の教育の基準である学習指導要領には「妊娠の経過について取り扱わない」ことが定められており、新たな性教育においても性行為などについては触れない方針だという。こうした“寝た子を起こすな”的背景があるため、本来であれば若者の体や性の悩みに寄り添ってくれる場所であるはずの保健室も、体や性の相談にはほとんど機能していないのが現状だ。

 医療現場でも思春期外来を開設し、若者たちの相談場所としての機能を果たそうとする動きはある。しかし、利用する立場からいえば医療機関を受診すること自体ハードルが高いのに、病気でもない悩みは相談しにくい。その結果、若者たちは正しい健康知識を得る機会のないまま、思春期で揺らぐ自分の心と体と性の問題に向き合わなければならない。そして、悩みや不安があっても気軽に相談できる場所が身近にないため、仕方なくネットで入手した誤った情報を信じて対応を間違え、正しい知識さえあれば避けられたはずの最悪の状況に追い込まれていく──。

 こうした若者の健康に関する社会課題の解消に向けて、スウェーデンのユースクリニックのような“若者たちのための街の保健室”をつくり、ちょっとした体や性の相談にも気軽に応じていきたいと2019年から動き出したのが群馬県高崎市の産婦人科病院を拠点に女性の健康づくりを支援するNPO法人ラサーナだ。理事長の福田小百合さんは活動開始の経緯を次のように語る。

 「私が勤務する産婦人科の舘出張(たてでばり)佐藤病院(以下、佐藤病院)では、女性の生涯にわたる健康づくりのサポートに力を入れてきました。この活動の中で、健康づくりのスタート地点にいる少女たちがあまりにも自分の体のことを知らなさすぎる現実が見えてきたのです。女性の健康の基本となる生理に関する知識もなく、自分に起こっている生理が正常かどうかの判断もできない。同時に学校にも社会にも自分の体について学べる場がないことにも気づかされました」(福田さん)。

 実は、佐藤病院には思春期外来がある。しかし、娘が母親に相談しなければ本人の受診には至らず、実際に利用する若者は少なかった。「最初から“病院に来て”といっても、ハードルが高い。病院は治療や処置などの後方支援に徹し、病院の外に気軽に相談できる場所をつくることが必要だ」と思い始めたときに知ったのが、スウェーデンの街中に点在するユースクリニックのことだった。