Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。そのテーマの一つが、未来のワークプレイス「Beyond Workplace」だ。

今後、オフィスはいらなくなるのでは──。ちょうど1年前の今頃、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に一気にテレワークが進むと、にわかにオフィス不要論が沸き起こった。その矢先、2020年7月にオフィススペースを3年で半減させる方針を打ち出したのが、富士通だ。社員との信頼関係の下、場所や時間にとらわれない働き方「Work Life Shift」を推進する同社は、オフィスをコミュニケーションの場と再定義し、立地やつくりを見直すオフィス改革を進めている。改革をけん引する執行役員常務CHRO(最高人事責任者)の平松浩樹氏は、「ハードだけでなく、カルチャーチェンジに挑む」と話す。

富士通執行役員常務CHRO(最高人事責任者)の平松浩樹氏(写真:川田 雅宏、以下人物は同)
富士通執行役員常務CHRO(最高人事責任者)の平松浩樹氏(写真:川田 雅宏、以下人物は同)
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 「Work Life Shift」を打ち出してから約9カ月余り。富士通では目下、全国の拠点のリロケーションとリノベーションに取り組んでいる。拠点の立地を見直し、空間のつくりを改め、結果として、オフィス面積を半分程度に絞り込んでいく。

 リロケーションでは、既存の拠点をベースとしてオフィスの立地を再検討している。同社総務本部長の小山晃生氏は「社内外のコラボレーションを進めるに当たり、拠点をどこに置くのが適切か、利便性の観点から見直しを進めている」と説明する。

 賃借ビルの一部では、解約を申し入れ、既に退去した拠点も出始めている。「解約済みは床面積で言えば目標の2~3割程度。この他にも、申し入れを済ませ、移転先を検討中の拠点もある」。小山氏は現在の状況をこう明かす。

 リノベーションでは、コラボレーションを念頭に、コミュニケーションを取りやすい空間への再構成を図っている。一部にはソロワーク用の空間も用意するものの、全体としてはグループワーク向けが大半を占めるつくりに改める。

 「例えばチームビルディングのために互いを知る、ブレーンストーミングでアイデアを出し合う、そうしたコミュニケーションに適した場所としてオフィス空間を改めていきたい」。同社執行役員常務CHRO(最高人事責任者)の平松浩樹氏は力説する。

時間や場所にとらわれない自律的な働き方を目指す

 改革に当たり富士通が推奨しているのが、場所や時間にとらわれない自律的な働き方だ。「ハブオフィス」「サテライトオフィス」「ホーム&シェアードオフィス」という3タイプのワークスペイスを目的に応じて自ら使い分け、効率良く、快適に働いてもらうことを目指している。

 そうした働き方は、社員にとっても会社にとっても好ましい、と平松氏は見る。

 「何より生産性を上げられる。しかも、自らの成長に向けた学習の時間やリフレッシュの時間、さらには家族との時間を確保しやすくなるなど、ウエルビーイングの向上にもつながる」(平松氏、以下「」内は全て平松氏)

 場所や時間という視点から働き方を見直そうという取り組みは、既に5年前の2016年から手を付けてきた。

 第一弾は、サテライトオフィスの展開。狙いは、効率性や機動力の向上だ。「営業担当やシステムエンジニアが出先で仕事を終えてから、拠点に戻らずに済むように、残務を処理する場としてサテライトオフィスを社内外に置き始めた」

 2017年には、テレワークの導入に乗り出した。目標としたのが、社員の半数がテレワークを利用し、週1回、在宅勤務を行うようになること。「そこまでいけば、残る社員も遠慮せずにテレワークを利用し、在宅勤務を選択するようになるのでは、と期待を寄せていた」

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 ところが期待に反し、在宅勤務の利用は思うように伸びなかった。

 「社員には、オフィスでないと仕事はできないという思いが強かった。一方で私たち担当部門も、それが現実で、在宅勤務を全員に広めるのは無理との思い込みがあった。結果として、育児や介護を抱える社員が利用する補完的な勤務形態という位置付けにとどまっていた」

 そこに転機が訪れる。言うまでもない、新型コロナウイルスの感染拡大だ。2020年4月、政府が7都府県を対象に緊急事態宣言を発出すると、富士通は勤務形態を原則、在宅勤務に移行させた。このいまだかつてない経験が、2つの気付きをもたらす。

 一つは、場所や時間にとらわれない働き方が決して不可能ではないということだ。「当初は多少混乱があったが、最終的には全社員が在宅勤務に移行できた。テレワークは不可能でないと改めて気付かされた」

在宅勤務で「生産性が下がった」という声は少数

 もう一つは、自律した働き方に挑む意欲である。「在宅勤務をいつまで続けることになるのか、社員は不安を抱いていた。それでも、アンケートを実施すると、コロナ禍が過ぎてもオフィス勤務と在宅勤務を自ら選べるようにしてほしいという声が、約8割に上った」

 在宅勤務が続くと、コミュニケーションの機会が減り、ストレスが生じがちだ。しかし一方で、通勤時間がなくなる等、自由時間を確保しやすくなる。平松氏の見立てのように、在宅勤務は多くの社員に受け入れられていたのである。

 折しも緊急事態宣言下、ニューノーマルにおける働き方はどのようになるのか、日本中で議論が噴出していた。そうした時代の流れに歩調を合わせ、富士通では2020年7月、ニューノーマルにおける新たな働き方への変革を打ち出す。

 「私たちは顧客にソリューションを提供する会社。そうしたソリューション提供企業として、ニューノーマルにおける働き方やオフィスの在り方を、いち早く社内外に示していく必要性を感じた」。平松氏は当時の心境をこう明かす。

 ここで示されたのが、先ほど紹介した「ハブオフィス」「サテライトオフィス」「ホーム&シェアードオフィス」を使い分ける「ボーダーレスオフィス」というコンセプト。「ハブ」にはイノベーションの創出を、「サテライト」には拠点としての一体感を、「ホーム&シェアード」には時間の有効活用や立地の利便性をテーマに掲げた。

 「ハブ」や「サテライト」のリノベーションでコミュニケーションを取りやすい空間への再構成を図るのは、求められる役割を踏まえてのことだ。

 「デスクワークやチームミーティングは在宅勤務で対応できることが、それまでの経験を通じて分かった。ではオフィスには何が求められるのか、改めて問い直した。その結果、コミュニケーションの場という答えに行き着いた」

 在宅勤務との使い分けを前提にすれば、オフィスは全社員の利用を想定しなくてもよくなるため、必要な床面積は絞られる。それらのスペースとしてどの程度を確保する必要があるかをシミュレーションしたところ、当時の半分程度で済むことが明らかになったのである。

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コミュニケーションの取りやすさを重視したオープン型のフロアが目立つ「ハブオフィス」(上)。<br>「サテライトオフィス」の一例(下)(写真提供:富士通)
コミュニケーションの取りやすさを重視したオープン型のフロアが目立つ「ハブオフィス」(上)。
「サテライトオフィス」の一例(下)(写真提供:富士通)
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 2021年4月初旬時点で、オフィスの出社率は約2割にとどまる。ニューノーマルにおける働き方として在宅勤務は定着し、場所や時間にとらわれない働き方を社員の多くが実践しつつあるようだ。

 では、そうした働き方の生産性を、社員はどう実感しているのか。アンケート調査の結果によれば、生産性を維持しているという回答は全体の約50%。残る半分は生産性が上がったという回答と生産性が下がったという回答が半々を占めたという。平松氏は「思ったほど生産性の低下を訴える声は多くなかった」と評価する。

 この結果を読み解く一つのポイントは、コミュニケーションにあるようだ。「生産性が下がったと回答した社員は、コメントを見る限り、コミュニケーションに課題意識を持っている。今後感染拡大の状況が改善し、週1回でも対面で集まる機会を持てるようになれば、生産性に対する評価は変わっていくはずだ」。平松氏は将来に期待を寄せる。

遠隔勤務やワ―ケーションも働き方の選択肢に

 場所や時間にとらわれない働き方で、問われるのは自律性である。社員の自律性は、どのようにして醸成すればよいのだろう──。

 「そこで必要になるとよく言われるのは、成果主義の徹底だ。自律的な働き方を認めるなら、仕事の成果を基に評価するしかないという考え方がある。しかし富士通の考え方は、全く異なる」。平松氏は口調を強める。

 何がどう異なるのか。富士通が重視するのは、会社と社員の信頼関係だと言う。「会社の目的、価値観、ビジョン、そうしたものに社員が共感し、信頼関係を築けて、初めて仕事を任せることができるようになる」

 上司が細かく管理するのではなく、部下を信頼し安心して任せる。その前提には、組織が向かう方向や重んじる価値を共有していることが欠かせない。「オンラインが常態化する中、そうした関係を築くためのコミュニケーションの大切さを改めて痛感している」

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 とはいえ、立ち止まる時間はない。富士通にとり、社員の自律性の醸成と働き方の多様化は、車の両輪のようなもの。そして、働き方の多様化はさらに広がりを見せている。

 2021年3月、富士通は大分県との間で相互の連携・協力を通じた持続可能な地域社会の構築を目指し、包括協定を結んだ。連携・協力の対象分野としては、「遠隔勤務を活用した移住による地方創生」「ワ―ケーション推進による関係人口の創出」「多様な知見・スキルを活用した地域課題の解決」の3つを掲げる。これにより、遠隔勤務やワーケーションも多様な働き方の選択肢となる。

 平松氏は「これらの取り組みは社員のウエルビーイングやエンゲージメントの向上にもつながる。もっと多様な働き方に挑戦したい、さらにクリエイティビティーを発揮したい、そう望む社員とは、Win-Winの関係を築ける」とメリットを強調する。

 新型コロナウイルスの国内感染者数が第4波を迎えようとする今、ニューノーマルを語りにくい状況にはあるが、今後、後戻りはあり得ない、と平松氏は言い切る。

 「満員電車に揺られ、例え台風でも大雪でもオフィスにさえ来ていれば仕事している、とみなされる状況はおかしいし、リスクマネジメント上も好ましくない。ダイバーシティやワークライフバランスを考えても、確実に今のほうが望ましい」

 平松氏は今取り組むオフィス改革の先に、カルチャーチェンジを見据えている。「今後は、上司と部下の信頼関係の構築に向けたコミュニケーションが非常に重要になる。『1on1』のコミュニケーション、教育、評価などの仕組みを総動員しながら、社員の自律度を上げていくことに努めていく」。社員の自律度アップに向けた富士通の挑戦は続く。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)