Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会を描くためのビジョンとして「空間×ヘルスケア 2030」を提案している(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。

木に囲まれた空間は心身に好影響を与える──。2021年3月17日に開催された「内装木質化等の効果実証事業」の成果報告会では、そんな実態がデータとともに示された。オフィスや商業施設などの内装を木質化することの効果を科学的に検証した結果だ。ほかにも、幾つかメリットがあることが浮かび上がった。報告会の様子を2回にわたってリポートする。

 「内装木質化等の効果実証事業」は、林野庁の補助事業「内装木質化等促進のための環境整備に向けた取組支援事業」のひとつとして実施したものだ。木材利用促進のため、民間の非住宅建築における内装木質化ニーズの掘り起こしを狙いとしている。

 オフィスや商業施設などの内装を木質化することでどのような効果が得られるのかを、この事業では実際のプロジェクトで科学的に検証している。明らかにしようと試みたのは次の4つのテーマだ。

(1)生産性・経済面への効果の実証
(2)心理面・身体面への効果の実証
(3)屋内環境に及ぼす効果の実証
(4)新たな内装木質部材の効果の実証

 2020年の夏に取り組み事業者を募集し、13件の提案を採択した。今回の報告会は新型コロナウィルス感染症拡大への対応として、30人を定員とする木材会館での開催と同時に、ウェビナー方式でのライブ映像配信を実施した。

報告会のライブ配信の様子。新型コロナウィルス対策として、会場の定員は少数にとどめた。主催者、来賓の挨拶の後、13の事業者が順に登壇して成果を発表した。一部の事業者は感染予防の観点からオンラインでの参加となった
報告会のライブ配信の様子。新型コロナウィルス対策として、会場の定員は少数にとどめた。主催者、来賓の挨拶の後、13の事業者が順に登壇して成果を発表した。一部の事業者は感染予防の観点からオンラインでの参加となった
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 ここでは報告会に登壇した13事業者の発表の中から、特に心理面・身体面への効果に注目して、複数の事例をピックアップした。木に囲まれた環境が心身にどのような影響を与えるのか。その実証を試みた意欲的なプロジェクトを紹介する。

飲食店の集客に効果あり、売上も倍増

 本事業では「飲食店の内装を木質化した場合、どのような効果が現れるのか」について検証した事例がいくつかあった。

 不動産開発やホテル運営を主な事業とする7garden(東京都中央区)の実証事例もそのひとつだ。同社が運営するホテル1階のカフェの内装を実際に木質化し、その効果を調べた。

 カフェの空間をおよそ半分に区切り、一方の壁には尾鷲産のヒノキ材を貼って木質化。もう一方はコンクリートに塗装を施した従来の内装のままとした。

7gardenが実証を行った自社施設の内装。カフェの空間をおよそ半分に区切り、一方の壁はヒノキ材による木質化、もう一方はコンクリートに塗装を施した従来の内装のままとしている(出所:日本住宅・木材技術センター「内装木質化等の効果実証事業 成果報告会」資料、以下同)
7gardenが実証を行った自社施設の内装。カフェの空間をおよそ半分に区切り、一方の壁はヒノキ材による木質化、もう一方はコンクリートに塗装を施した従来の内装のままとしている(出所:日本住宅・木材技術センター「内装木質化等の効果実証事業 成果報告会」資料、以下同)
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 木質化エリアと、非木質化エリアを区分したカフェ空間内において、利用客の着席率や支払い意欲、五感に与える影響などを、アンケートやPOS(販売時点情報管理)データなどから分析して比較している。

 まず、POSシステムのデータを分析した結果、入店した利用客は好んで木質化エリアに着席した。木質化エリアの着席率は、非木質化エリアの約2倍になった。客単価や滞在時間については差が見られなかったものの、着席率の差がそのまま売上の差に現れている(下図)。

POSシステムのデータを分析して、木質化席と非木質化席の着席率および売上を比較した。木質化席は非木質化席の約2倍の着席率となっている
POSシステムのデータを分析して、木質化席と非木質化席の着席率および売上を比較した。木質化席は非木質化席の約2倍の着席率となっている
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 156件の来客者アンケートも分析した。その結果から見えてきたもののうち、特に興味深いのは、「来客者は木質化された店内を見たことが入店の動機となっている」という点だ。約7割の来客者が木を使った内装に引き付けられ入店した。

 7garden事業開発部長の平川喬氏は「木質内装には潜在的に人を引き付ける魅力があり、集客に寄与する可能性が高い」と分析している。

 飲食店を対象にした事例はほかにもある。一般社団法人大阪府木材連合会(大阪市住之江区)が実施した事例も飲食店の内装を木質化して、その影響を調べたものだ。この事例では、大阪市内にある小規模レストランの内装を木質化リフォームして、訪問客や従業員へのアンケート、および心拍計による調査を実施した。

 同会特別顧問の京都大学 川井秀一名誉教授は、心拍計による調査結果から「従業員については木質化以後、心地よさを感じている可能性がある」と解説する。さらに経営者へのヒアリングからは「木質化以後の来客リピート率は約1割増加した」との見解を得ている。

写真やVRでも木質化の効果が顕著

 実店舗ではなく写真やコンピューターグラフィックス(CG)を用いて、内装木質化の影響を検証した事例もある。東京大学大学院農学生命科学研究科による実証事例では、飲食店舗の内装の写真を対象者に見せて、その印象と評価を調査した。20代から60代の男女計400名を対象に、インターネットでのアンケート調査を実施。木材率(内装に木材を使用している割合)を段階的に変えたカフェの内装写真30枚を掲示して、その印象と支払い、入店意欲などを調べた。

 調査の結果、木材率が高い写真ほど、店舗の印象、入店意欲ともに向上する傾向が見られた。実証実験を主導した東京大学大学院農学生命科学研究科の前田啓助教は「特に少人数での入店意欲向上に効果が大きい」と報告している。

 この事例では他にも、カフェに滞在して心拍や時間感覚、内装の印象などを評価するといった検証も行った。滞在の対象としたカフェは木質と非木質の実店舗のほか、仮想現実(VR)空間のカフェも対象とした。VRによるカフェは、木材率や使用木材の色を変えたものを5種類用意して、ヘッドマウントディスプレイを装着した状態で架空の滞在体験をした。

東京大学大学院農学生命科学研究科によるVRカフェ空間の画像。木材率や使用木材の色を変えたものを複数用意して検証した
東京大学大学院農学生命科学研究科によるVRカフェ空間の画像。木材率や使用木材の色を変えたものを複数用意して検証した
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 調査の結果、木質内装のカフェにおいては若干、時間経過が速く感じる傾向が見られたが、明確な結論を得るには至らなかった。木材の色の違いについては、暗色の木材を使用した内装の場合、「高級感がある」との印象が強くなり、支払い意欲の向上に寄与する可能性が示唆されている。脈拍などを元に評価したリラックス効果については、実店舗、VRのどちらでも目立った効果は得られなかった。

 今回の報告会で発表された事例のうち、飲食店における影響を検証した事例は3件あった。いずれもリラックス効果など来訪者の心身面への影響について可能性は示唆されているものの、定量的な評価は得られていない。飲食店における木質化の効果として目立ったのは主観的なイメージ向上と、それに伴う入店意欲や支払い意欲など経済面での影響だった。

50年杉と100年杉に差があるか

 内装木質化に使う木材の樹齢にまで踏み込んで検証した事例もある。畦地製材所(三重県尾鷲市)が行った「100年杉の効果の実証」実験だ。

 樹齢100年相当のスギから得たブランドスギ材「100年杉」と、樹齢50年ほどの「50年杉」、そして化粧板を使った一般的な複合フローリングの3種を床材に用いて、3棟の試験用の居室を用意。7人の被験者が各居室にそれぞれ34時間滞在して、滞在中の心理・身体面での影響を調べた。

畦地製材所の事例で用いられた検証用の施設。3棟の居室(左写真)の内部(右写真)には、「100年杉」「50年杉」「複合フローリング」の3種類の床材を施工した
畦地製材所の事例で用いられた検証用の施設。3棟の居室(左写真)の内部(右写真)には、「100年杉」「50年杉」「複合フローリング」の3種類の床材を施工した
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 検証方法として、被験者へのヒアリングのほか、身体各部位に取りつけた温度センサーによる定期的な皮膚表面温度測定、唾液中のアミラーゼ測定によるストレスチェックなどが行われた。

 皮膚表面の平均温度や足と頭の温度差、ヒアリングした被験者の体感においても、床材の違いによる明確な差異は確認できなかった。ただ、唾液アミラーゼについては、100年杉だけが大きく低減した結果を示した。

 これは100年杉フローリングに、ストレスの低減効果があった可能性を示唆するものだ。しかし一方で、50年杉や複合フローリングには目立った影響は現れていない。「樹齢を重ねた木材がストレスの軽減に寄与する」という仮説を採るならば、50年杉にも相応の唾液アミラーゼ減少の結果が確認されていなければならず、今回の結果では「樹齢を重ねた木材の効能」と考える仮説は成立しにくかった(下図)。

畦地製材所の事例の検証結果。左上は被験者ヒアリングの結果、右上は被験者の皮膚表面温度の平均、左下は頭部と足の温度差、右下が唾液中のアミラーゼ濃度
畦地製材所の事例の検証結果。左上は被験者ヒアリングの結果、右上は被験者の皮膚表面温度の平均、左下は頭部と足の温度差、右下が唾液中のアミラーゼ濃度
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 畦地製材所代表の畦地秀行氏は、この結果に対し「検証期間が短かった。100年杉だけにストレス軽減効果が確認された点を正しく評価するには、さらに長期間の検証と分析が必要だ」として結論を保留している。

 樹齢の異なるスギ材の性能を定量的に評価しようとするユニークな試みだったが、今回の実証実験においては、統計的な有意差は認められなかった。

 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の杉山真樹氏は、畦地製材所の事例について「審査の段階でも、樹齢による違いを観測するのは至難の業ではないかという意見が多かった」と話す。一見、実証が非常に困難な試みだと思われたが、他に例のない挑戦的な提案が評価された格好だ。今後の追跡調査や、より長期間の実証試験に期待がかかる。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

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[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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