Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その注目テーマの一つが、未来のワークプレイス「Beyond Workplace」だ。

コロナ禍でテレワークが拡大しているが、必ずしも成功事例ばかりではない。社員のコミュニケーションやマネジメントに課題を感じる企業もあり、アフターコロナは元の働き方に戻したいと考える企業も多いようだ。こうした課題を解決し、テレワークを有効に機能させるにはどうすればよいのか。2016年から全社員テレワークというソニックガーデン代表の倉貫義人氏に話を聞いた。

 コロナ禍を機に拡大中のテレワークだが、オフィスへの出社を前提にしたワークフローの変更に頭を悩ませている企業も多い。テレワークの課題とは、通信環境などの技術課題を除けば、コミュニケーションとマネジメントの問題に集約される。

 そんな中、独自のマネジメント手法で注目を集めているのが、ソフトウエアの受託開発を手掛けるソニックガーデンだ。同社の設立は2011年。2016年に本社オフィスを廃止し、それ以来全社員がテレワークで業務を遂行している。

 「創業当初はガチガチの管理体制だったのですが、管理に労力を割いても成果につながらず、チームの空気も悪くなる一方でした。そこで、チームとして結果が出せるならば、他のことは自由にしようと、根本から発想を変えたのです。例えばノルマなし、副業OK、休暇は取り放題といったことを少しずつ取り入れていきました。そうした中で、社員からワーキングホリデーで海外に行きたいとの希望が出たり、勤務地不問の求人票に関西圏から応募が寄せられたりして、テレワークが始まったのです」

倉貫 義人氏 ソニックガーデン代表
大手SIerにてプログラマやマネジャとして経験を積んだのち、社内ベンチャーを立ち上げる。2011年、ソニックガーデンを設立。ソフトウエア受託開発で、月額定額&成果契約の顧問サービスを提供する新しいビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開(撮影:武藤 奈緒美、以下同)

“ザッソウ“を支援する
仮想オフィス「Remotty」を自社開発

 ソフトウエア開発という仕事柄、社員は必ずしも一カ所に集まる必要はなく、通信環境とパソコンさえあれば仕事は成り立つ。その意味ではテレワークに適していると言えるが、だからと言って一人で完結する仕事でもない。クライアントとの対話はもちろんのこと、チームで動く以上は社員同士の交流も必須。ソニックガーデンでは雑談と相談を合わせて「ザッソウ」と呼び、仕事に欠かせないものと位置付ける。

 「隣席の先輩に『ちょっといいですか』と声をかけるようなザッソウは仕事をする上で重要ですから、”物理オフィス”で仕事をしていた頃も、チームのメンバーが話やすいレイアウトを工夫していました。テレワークではチャットやテレビ会議といったツールを使いますが、チャットは相手の状況が分からないし、テレビ会議は日時調整が必要で『ちょっといいですか』の気軽さがない。そこで8年前に自社開発したのが仮想オフィスツール『Remotty(リモティ)』です。画面上には勤務中の社員の顔写真が2分間隔でアップロードされるので、チャットで呼びかけやすく、会話が必要ならばそこからZoomの会議室に入れる仕様になっています」

「Remotty(リモティ)」のメイン画面(提供:ソニックガーデン)

 一般に勤務中の様子をPCカメラで撮影・共有することには賛否がある。社員の勤怠管理に必要との主張もあれば、監視される息苦しさを問題視する声もある。しかし、ソニックガーデンは管理や監視のために、この機能を開発したわけではない。目指すのは、あくまでチームのパフォーマンスの最大化だ。

 「チームにとってこの機能が必要な理由は3つあります。第一に信頼関係の構築のため。顔が見えることで、お互いに信頼感や安心感が生まれます。第二にステータス確認のため。2分間隔で静止画が上がり、ほぼリアルタイムで状況が分かれば、ザッソウが行いやすくなります。第三に一人も取り残さないため。社員の中には淡々と仕事をこなして最低限のことしか発信しないタイプがいます。チャットベースで仕事をしていると、発信がない人はネット上から存在が消えてしまい、周囲も気を配ることが難しくなるので、本人の疎外感につながりかねません。人間が組織において気持ちよく働くには周囲が自分に気にかけてくれているかという要素が大きく、これは学術的にも明らかなので、そのための環境づくりという観点で設計しました」

経営を支える
社員の良識とオーナーシップ

 ちなみにソニックガーデンはコアタイムなしの完全フレックスタイム制だ。このスタイルならば勤怠管理は必要ない。しかし、いくら自由でも夜間しか仕事をしない社員はいない。なぜならチームでパフォーマンスを最大化するという意識が共有されているので、他の社員やクライアントとコミュニケーションできる時間帯に勤務するのが当たり前になっているからだ。その上で、幼稚園の送迎や通院・付き添いなど、各自の事情を踏まえて補完し合い、協力する体制が整っている。

 また、本社オフィスは廃止したものの、社員の仕事場として「ワークプレイス」という制度を設けている。

 「自宅だと家族がいて仕事がしにくい、集中できないといった場合は、自宅から通いやすい場所に仕事場を借りてよいことになっています。その一つ、自由が丘(東京世田谷区)の『ワークプレイス』はマンションタイプで、冷蔵庫やデスクなど必要な備品類も会社の負担で揃えてあり、複数の社員が利用しています。借りる場所や賃料に制限はありませんが、会社が出す補助金の範囲内に収まっているようです」

 こうした場合、経費や補助金は限度額いっぱいまで使いたくなるのが人情かもしれない。しかし、社員への情報開示が徹底している同社ではそうはならない。経費や補助金が増えれば会社の利益が減り、利益が減ればボーナスが減ることが周知されているからだ。ルールや規制で縛るのではなく、各自の良識やオーナーシップに任されているのがソニックガーデンのマネジメントの大きな特徴と言えるだろう。

YouTubeやラジオも使った
社内コミュニケーションの円滑化も

 現在、社員は50人超。全員テレワークなので、他でどんなプロジェクトが動いているのかが見えにくく、社員同士、話したことがないケースもある。そこで社内のコミュニケーションを円滑にするために力を入れているのが、YouTubeやラジオなどでの情報発信だ。

 「社員や社内プロジェクトを何かしらのコンテンツで紹介したいのですが、社内報をつくっても読まない人は読まないですし、強制することは当社のカルチャーに合いません。そこでテレビ番組みたいに、自主的に見たくなるものとして動画コンテンツを制作し、社内YouTubeで公開しています。また、時折、社長ラジオとして、私が考えていることや最近の活動について音声で発信しています。これも場所や時間に関係なく、自主的かつ気軽に聞いてもらえればいいなと。こういった情報は文章で出すと重くなりますが、言葉ならばふんわりと伝えていけるのが利点です」

 とはいえ、同社はバーチャル空間のワークスペースやデジタルツールの活用に固執しているわけではない。実はリアルのコミュニケーションにも有効性を感じ、目を向けているという。

 「テレワークで生産性は上がりますし、コミュニケーションも効率化できますが、それだけでは不十分。本人が感じていることや将来への不安、思いといったものはZoomでどれだけ話しても出てきません。やはり一定の時間を共に過ごすことが大事なのです。そのため、以前は半年から四半期に一度、2泊3日の合宿を行っていました。内容はビジョンや価値観の共有などを目的としたワークショップで、最終日はみんなで遊びに行きます。コロナ禍が収束し、気兼ねなく旅行ができるようになれば、また合宿をやりたいと思います」

独自のマネジメント手法をまとめた『ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる「雑談+相談」』や、これからの時代に合った働き方を問いかける『未来ビジネス図解 働き方シフト』などの著書も人気

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)