木質化でストレスが上昇するケースも

 日本福祉大学健康科学部福祉工学科(愛知県半田市)の事例では、心理的効果として意外な結果が現れた。この実証事例は、大学関連施設、子育て施設、地域交流施設、障害者就労施設といった、用途や利用者の異なる4種類の施設の内装を木質化し、アンケートとストレス指数の評価によってその影響を調べたものだ。ストレス指数は就労前と就労後の2回、唾液中のアミラーゼ測定によって評価した。

 アンケート結果は総じて好印象で、ストレス指数も木質化後には上昇幅が小さくなるなど、ストレスの抑制効果が見られた。

 ほかと異なる結果が現れたのが、障害者就労施設だ。従来の非木質化空間では、作業前に比べ作業後のストレス指数の平均値は下降した。しかし、木質化後の環境では、作業後にストレス指数が上昇した。これは、ストレス指数の上昇幅が内装の木質化後には小さく軽減された他の施設における結果と大きく異なるものだ(図3)。

図3●ストレス指数の平均値を木質化前後で比較したグラフ。左が子育て施設の例、右が障害者就労施設の例
図3●ストレス指数の平均値を木質化前後で比較したグラフ。左が子育て施設の例、右が障害者就労施設の例
[画像のクリックで別ページへ]

 この結果について、本事例を主導した日本福祉大学健康科学部福祉工学科の坂口大史准教授は次の様に解説した。「障害者は環境の変化に敏感だ。内装を木質化したことで慣れた環境が急に変化し、不安を感じたのだと考えられる。中長期的な検証を行えば、また違った結果が現れるのではないかと思う」

定量的な実証に挑戦した取り組みを評価

 本事業においては、これまで紹介した以外にも、木質の家具や什器を導入した事例や、金融機関や小児科医院など専門施設を対象にした事例、木材の乾燥方法による違いを検証したものや、木を粉末状に加工した塗り壁材と通常のスギ板を比較した事例など、バラエティーに富んだ取り組みがあった。

 全体的にアンケートやヒアリングなど主観に基づく調査が中心で、抽象的な結論が多く見られた。定量的な検証に挑戦した事例でも成果にはバラツキが目立ち、現時点では明確な実証が得られたとは言いがたい。検証を実施した事業者からも、データの精度に対する疑問や継続調査の必要性を主張する場面があった。

 講評のため壇上に立った、森林研究・整備機構森林総合研究所木材研究部門木材加工・特性研究領域チーム長の杉山真樹氏は、こうした成果に対して「木質空間が心身に与える影響というのは、評価手法が確立されていない。被験者の主観以外に評価が難しいこの分野において、定量的な実証に挑戦した事業者の試みを評価する」と話した。さらに、「今回の事業をきっかけに、今後新たな評価手法が確立されることを期待する」と言及した。

 一方、同じく講評の壇に立った東京大学大学院農学生命科学研究科の恒次祐子准教授は、事業者個々の挑戦について評価をしつつも、「模様、色、香り、樹種、手触りなど、木材のどのような点が効果を及ぼしたのか、そうした点の検証が欲しい」と話し、より踏み込んだ検証の実施を促した。

 最後に、東京大学の有馬孝禮名誉教授が総括として、「現在の結果や成果も長期的に見た場合、疑問や変化が現れる。こうした調査は長期間行うことが重要だ」と継続調査の重要性を指摘し、本事業の報告会を締めくくった。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

【お知らせ】
Beyond Health特別セッション [日経クロスヘルスEXPO内]
これが近未来の新市場「空間×ヘルスケア 2030」の全貌
2021/10/22(金) 10:00 ~ 11:20(オンライン)

<聴講無料・事前登録制>


[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

詳細はこちら