あらゆる空間でスクリーニングを

高橋 「空間×ヘルスケア 2030」の実現は、様々なテクノロジーの進歩や普及が前提となっています。このとき、ヘルスケアビジネスは業種を超えて大きく拡がっていきます。特に注目しているのはスクリーニングです。これまでスクリーニングは病院内で行われていましたが、これからは薬局をはじめ、住宅やオフィスなど、空間のあらゆる場所でセンシングして、病気の予兆、あるいは再発などをスクリーニングできるようになってきます。

小谷 最近話題の線虫によるがんスクリーニング*4を例に説明してみましょう。線虫は尿に反応し、ステージ0か1の段階のがんでも90%の割合で識別できます。線虫によるスクリーニングでは、今のところがんの部位までは特定できませんが、反応が出た人が、がん検診を受けるキッカケとなります。

 例えば「Beyond Home(未来の住宅)」のトイレにこの技術を実装しようとした場合、線虫の研究をするベンチャー企業、トイレ機器メーカーだけでなく、様々な事業者が関わってきます。誰の尿かを識別するために顔認証システムが使われるかもしれません。ネット経由でサーバーにデータを蓄積するには、通信やIT関連の事業者も関わってきます。また、利用者が毎日スクリーニングすることで、がんの罹患リスクを大幅に下げることができます。そうなると、保険の利用料や自治体の優遇措置なども考えられます。

安達 スクリーニングのためのセンシングは様々な技術が出てきていて、今、面白い分野ですね。寝室でさりげなく呼吸や睡眠状態を測る技術が出てきています。ワイヤレスで2.4GHz帯の電波を人体に当てて、反射する電波の位相のずれを測定するという手法です。車のハンドルをにぎるだけで血圧を推定したりする技術も数年前に既に登場しています。難しいとされていた血液でさえ、非侵襲で血糖値を測定できるようになりました。

*5 <関連記事>「『指に光』で血糖値測定、実用化近付く」(Beyond Health)
(写真:行友 重治)

高橋 「Beyond Home(未来の住宅)」では、風呂場や脱衣所、階段の手すりなど、あらゆる場所がセンシングやスクリーニングのデバイスになります。脈拍、体温、血糖値、酸素濃度など様々なデータが、本人が意識することなく採取されていくイメージです。スクリーニングだけでなく、例えば、顔の画像から肌の状態や自律神経活性の程度なども分かります。大きな壁面に美しい高精細映像を映せば、癒しの効果も出てくるでしょう。病院外の空間に広がるヘルスケアビジネスには、まだ未開拓の大きなチャンスが眠っているのです。

Beyond Home(未来の住宅)。センシングやスクリーニングのテクノロジーが、ふろ場や、トイレ、階段の手すりなど各所にそれと意識させないような形で設置されている。空調、照明などを最適化して良質な睡眠をとれるようにしたり、室内で楽しく運動ができる仕掛けも。玄関ではエアフィルターなどによる感染症対策を施している(イラスト:kucci)