これからの薬剤師=ヘルスケア・マイスター

高橋 こうして住宅やオフィスなど、様々なシーンで個人の健康データを集められるようになっても、有効活用できなくては宝の持ち腐れです。ここでキーとなるのが薬剤師です。AIが解析した情報から微細な病気の兆候を薬剤師がキャッチし、アドバイスしていく。このような形で、かかりつけの健康アドバイザーの役割を果たす未来の薬剤師を、我々は「ヘルスケア・マイスター」と名付けました。

「Beyond Pharmacy(未来の薬局)」より、ヘルスケアマイスターのイメージ。未病改善のためのかかりつけ健康アドバイザーの役割を担う。服装も白衣から親しみやすいデザインに(イラスト:kucci)

安達 昨年11月に可決・成立し、今年9月に施行される改正薬機法*6では、薬剤師の役割が大きく変わります。薬剤師には投薬だけでなく「服用期間を通じた継続的な薬学的管理と患者支援」が求められるようになってきました。改正法では、あくまでも「必要があると認める場合」の患者支援ということですが、これをチャンスとして捉えれば、薬局を起点として薬剤師の役割を再構築していくという将来像も描けそうです。

小谷 一般の人から見ると、薬局の薬剤師は病院と連携して医学的根拠を共有しており、「医学的な信頼性の高いアドバイスをしてくれる人」です。この信頼感を生かして、患者支援だけにとどまらず、薬局で薬剤師が人々の日々の健康相談に乗るような存在になれれば、新しい薬局と薬剤師像が生まれるはずです。

安達 一方で、新型コロナ対策のための時限・特例措置としてオンライン診療の規制緩和が行われ、普及に向けた機運が高まってきています。それだけでなく、「空間×ヘルスケア2030」が具現化した社会においては、未病の改善を進めるうえで、「診療」以前の「相談」の段階でもオンライン化は進んでいくでしょう。例えば、かかりつけのヘルスケア・マイスターに、気軽に「オンライン健康相談」をするような習慣が普及していくことが考えられます。個人の健康データは常時更新されながら蓄積されているので、端末とネットワークさえあればどこにいても相談ができるわけです。

小谷 医師不足の地方や、移動が難しい高齢者や障害者だけでなく、忙しくて通いきれない“診療難民”の人たちにとっても、オンライン診療は有用です。都市部の一般的な病院利用者も、わざわざ病院に出向いて長く待たされる必要がなくなる。新型コロナの感染が収束しても、顕在化したオンライン診療のニーズは高まりつづけると考えられます。

高橋 だからこそ「Beyond Pharmacy(未来の薬局)」は、わざわざ出向くに値する場となっている必要があります。2030年には、住宅やオフィスのような空間にも、スクリーニングやヒーリングの要素は盛り込まれているはずです。このとき、未来の薬局では、一般的な住宅やオフィスなどの空間と比べて、より高機能・高品質なスクリーニングやヒーリングを提供できる場である必要があるでしょう。また、ヘルスケア・マイスターには、対面ならではのきめの細かいコミュニケーションが、薬局空間には、居心地のよさの演出が求められてきます。

小谷 薬局がコミュニティーの場としても機能すれば、人々の幸福感の高まりにも寄与します。ソーシャル・キャピタル(社会や地域における人々の信頼関係や結びつき)の高まりと幸福度の高さとの間に相関があることは、様々な既存研究から明らかになっています*7

 我々が目指すのは「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会です。幸福度を高める空間をいかにつくり上げていくかも、「空間×ヘルスケア 2030」の大きなテーマとなってきそうです。

*6 <関連記事>「KEYWORD: 改正薬機法」(Beyond Health)などを参照のこと
*7 内閣府 経済社会総合研究所「幸福度研究について」などでも言及されている