Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その注目テーマの一つが、未来のワークプレイス「Beyond Workplace」だ。

新型コロナウイルスの感染拡大が社会的な問題とされる中、オフィス内の感染対策は極めて重要な課題となっている。日本サステナブル建築協会はこのほど、中長期的なオフィスのウェルネスとニューノーマル(新常態)への対応を視野に、建物の感染対策を評価するツールを開発した。

 2021年6月2日、一般社団法人日本サステナブル建築協会(JSBC)は、オフィス版の建物の感染対策チェックリストを同協会のホームページに公開した。このチェックリストは4月6日から暫定版を公開していたもので、各方面からの意見を反映し、ブラッシュアップを経て今回、正式にリリースした。

 新型コロナウイルスの感染拡大が社会問題化する中、適切な対策を示す指針が必要とされている。これに対応するように内閣官房の「新型コロナウイルス感染症対策推進室」をはじめ、各行政機関や学会、各種団体などは、感染対策の具体的な方法やガイドラインを広く公開している。だが、JSBCは「それらの多くは暫定的な対応を前提としており、建築計画、設備計画に言及したものは少ない」と指摘する。

 確かに、既存の感染対策の大半は、換気や消毒といった即実行可能で緊急性の高い対策を優先している。感染対策やガイドラインの主目的が緊急事態への対策であるならば、これは当然の方針といえる。

 一方で、JSBCは「感染症への対応を中長期で考えた場合、感染症対策は暫定対策にとどまらず、しっかりと建物の性能や仕様として導入するべきだ」と言及する。つまり、ニューノーマルが提唱されるアフターコロナにおいては、建築物に「感染対策」という性能評価が必要になるというわけだ。

 こうした考えに基づき、JSBC 内に設置した「SDGsスマートウェルネスオフィス研究委員会(委員長:村上周三氏)」が今回のチェックリストを開発した。建物の感染対策の導入状況を評価するツールとして活用できる。

エクセルシートに記入するだけでスコアリング

 チェックリストは主にオフィスを対象とした。オフィスは不特定多数の人間が出入りし、接触する機会が多いため、感染機会も多様となる。また、オフィス空間は専門性の少ない基本的な建物性能である例が多い。そこでまずオフィス向けのツールを開発し、その後、他用途の建物に転用していく方針としている。

 なお、商業施設などの接客が伴う施設では、不特定多数の人間が出入りする点は同じでも、全く別の感染対策が必要になるので、このツールをそのまま転用することはできない。

 では、具体的なツールの活用方法についてみていこう。チェックリストと評価マニュアルは、日本サステナブル建築協会のホームページからダウンロードできる。

 チェックリストはエクセルファイル(xlsx形式)で公開されている。使い方は簡単だ。リストの各項目の「取組状況」欄に取り組みの有無を選択入力するだけ。リストにはオフィスビルの室用途ごとに、全40項目の重要な対策がまとめられており、取り組みがある場合は「1」を、ない場合は「0」を、ドロップダウンリストから選択する(下図)。

チェックリスト入力の例。全40項目に対して、取り組みがある場合は「1」を、ない場合は「0」を、ドロップダウンリストから選択入力するだけで自動的にスコアリングしてくれる(出所:日本サステナブル建築協会発行SDGsスマートウェルネスオフィス研究委員会作成の資料。特記以外は以下同じ)

 入力結果は「結果表示」のシートに自動反映され、内容に応じて「取組レベル」を4段階で表示。また、取り組み状況をレーダーチャートに図示してくれる(下図)。

チェック結果表示シートの例。リストの入力に応じて、室用途毎の取り組み状況の比率や取り組みレベル、レーダーチャートなどの各結果に反映する

「気づき」のためのツール

 3月30日にオンライン開催された「グリーン建築フォーラム第15回シンポジウム」では、このチェックリストの開発の背景や今後の活用方法などについて発表があった。

2021年3月30日に行われた「グリーン建築フォーラム第15回シンポジウム」の様子。チェックリストの概要と、開発の背景について様々な立場からの解説がなされた。プログラムの最後には慶應義塾大学の伊香賀俊治教授を司会に、講演者らによるパネルディスカッションを実施し、オフィスのウェルネスとニューノーマルへの展望について議論した

 まず開発の背景について、シンポジウムに登壇した、千葉大学の林立也准教授は「当初は今あるガイドラインや安全基準で用は足りるのではないかと考えていた。しかし、その多くは管理事業者や入居者側の視点に立った指針がほとんどで、ビルオーナーや設計・計画者の視点によるものはなかった。中長期的な視点に立った場合、これをフォローする必要があると考えた」と話す。冒頭でも言及したように、「アフターコロナの建物には、感染対策という性能が必要だ」との考えが、開発の背景にあったという。

 同様に登壇した、CSRデザイン環境投資顧問(東京都千代田区)の堀江隆一代表取締役社長は「米国では新型コロナの拡大以降、NYヤンキースタジアムやエンパイア・ステートビルなど、公共性の高い有名建築が次々とWELLの格付けを取得している」と解説。米国では、国際認証制度「WELL」がCOVID-19タスクフォースを創設し、2020年6月に「健康・安全性格付」を開始した。これは、建物や施設の健康・安全性を評価する制度だ。堀江氏は、近年の米国の動向として「健康や感染対策などの、いわゆるウェルネス分野の評価が建物の賃料などにも影響している」と指摘する。

 林氏は「今回のチェックリストは、ビルオーナーなど施設の供給側が感染対策をはじめとした取り組みを外部にアピールできるものとして開発した。米国と同じようにわが国でも今後、建築物にウェルネス分野の評価が必要になった際、公共性のあるガイドラインとして活用してもらうことを想定している」と話す。

 アピールに適した建築物のウェルネス評価としては、WELLや「CASBEEウェルネスオフィス評価認証」など、評価基準や認定制度がすでに存在している。そのため、シンポジウムでは「WELLやCASBEEなど既存の評価基準や認定制度と、今回のチェックリストの違いは何か?」と聴講者から質問が挙がった。

 すると堀江氏は「今回のチェックリストはWELLの評価基準とおおむね重複した内容となっている。基本的な方向性は同じものだ」と返答。林氏も「CASBEEウェルネスオフィスとも、詳細は異なるがおおむね同じ。CASBEEなどの簡易版、または補完ツールと考えてもらいたい」と説明した。

 さらに林氏は、WELLやCASBEEなどの第三者認定機関の評価を得るにはコストと時間が掛かる点を指摘しつつ、「チェックリストはコストをかけず簡単に、感染対策をスコアリングできるものを目指した。今、必要とされているのは、すぐに実行可能な評価ツールだ」と、チェックリストが手軽に実践可能な点を強調した。

 これを受け、SDGsスマートウェルネスオフィス研究委員会委員長の村上周三氏は、チェックリストは、現時点においては認証事業に用いられず、あくまで「建物のウェルネス分野に対する『気づき』を誘発するためのツールと考えている」とまとめた。

 JSBCは現在、「住宅向けのチェックリスト」を開発中だ。今後は住宅やオフィスだけでなく、様々な建物用途への展開も視野に開発を進めていく。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

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[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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