Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。

健康意識の高い顧客が多く訪れるドラッグストア。そこで流通し、人気を集めるオーガニックコスメの火付け役ともいえるのが、ナチュラル&オーガニックコスメメーカーの「カラーズ」だ。2012年に「マツモトキヨシ」のPB(プライベートブランド)「アルジェラン」を立ち上げ、2016年に自社ブランド「ザ パブリック オーガニック」をスタート。国産植物原料にこだわった製品クオリティの高さと、優れたコストパフォーマンス、そしてSDGsへの積極的な取り組みは、ドラッグストアコスメに革命を起こしている。その原動力と描く未来について、同社代表取締役の橋本宗樹氏に聞いた。

「国産植物原料のドラッグストアコスメ」にこだわる理由

カラーズ代表取締役の橋本宗樹氏(写真:齋藤暁経、以下同)

ドラッグストアで販売されているコスメといえば「プチプラ(低価格)」のイメージがありますが、国産植物原料にこだわった理由は何でしょうか?

 実は私はジャーナリスト志望だったこともあり、日本の地方の現状に危機感を持ったのがきっかけです。東京・神奈川・千葉・埼玉の合計面積は国土全体のわずか3.5%程度なのに、全人口の約30%が集中してしまっています。このまま地方からの人口流出が続くと、2040年には地方自治体の50%近くが消滅する可能性があるという報告もあります。そうなると福祉や医療、公共サービスを受けるのが難しくなり、さらに人が離れていく。そんな悪循環はすでに始まっていると思うのです。

 私たちが出会ってきた植物原料の生産者さんは、まさにこの問題に直面してきました。しかし彼らは強い信念を持ち、試行錯誤を繰り返して健康な森林や土地を育てることで、地元を盛り上げ、地球にも体にもいいものを作り続けようとしています。例えば、私たちがお世話になっている熊本県の鶴田有機農園の鶴田さんは、約50年前に作物のミカンの味が落ちていることを感じ、京都大学の先生のアドバイスで有機農法に転換したそうなのですが、当時、化学肥料や除草剤を使わない農業は周囲から異端視され、子どもが村の旅行に連れて行ってもらえなかったり、村八分のような状態になったといいます。そんな苦境を10年も経て、現在では有機農法を推進したとして国から叙勲を受けるまでになっているのです。

 こうした苦労の末に生まれた、柚子やヒノキなど日本ならではの植物精油は、品質の良さが海外の化粧品市場でも知られています。でも残念ながら今までの日本では、これら優れた原料のマーケットは一部の専門店や美容意識の高い人たちに限られ、流通量も少なかった。その結果、高価格になり、市場が拡大せず事業としての成立が難しかったのです。価格を下げるためには生産量を上げる必要があり、マスマーケットで展開することでこそ、経済的な循環が広がる。その壁を突破するのが、私たちの役割だと考えました。

ドラッグストアは一番身近な「美容・健康ステーション」

 昔から欧米では、小売店やドラッグストアに当たり前のようにオーガニックコスメが並んでいます。「特別なもの、高いもの」ではなく、普通の人の日常に溶け込んでいるのです。だから日本でも、誰もが気軽にオーガニックコスメを手に取れる環境を作りたい、と考えました。その情熱を正面から受け止めてくれたのが、全国に約1700店舗を展開するマツモトキヨシさんでした。「利益は減っても、一緒に本物のオーガニックコスメを育てよう、啓蒙しよう」とタッグを組めたことで、「アルジェラン」の開発がスタートしたのです。地域に密着するドラッグストアは、子どもから高齢者まで幅広い層に美と健康が提供できる、一番身近な存在です。これ以上の環境はないと感じました。

 ドラッグストアで販売する以上、価格を抑えることが大前提ですが、精油の配合量など中身の妥協はしていません。目指すべき価格と品質のゴールを最初に決めて、あらゆる工程を見直していきました。私たちのスタッフは、いい意味で「あきらめが悪い」。普通にコストを積み上げていくと実現不可能に思えたものが、関わる人すべての努力のおかげで、美容感度の高い人たちからも評価を得られる製品になりました。でも一方で「この価格で本物のオーガニックなんてありえない」と信じてもらえなかったり、オーガニック風の派手なパッケージの製品に負けてしまうこともあり、そこは正直ジレンマがありますね。

研究機関と連携して効果を検証するなど、エビデンスにもこだわっている理由は?

 私は12年前、イタリアでオーガニックコスメを作っていたときに、香りのよさに思わず深呼吸したくなりました。これほど気持ちがいいと感じるのはなぜだろうと好奇心がかき立てられ、調べてみると、精油には心身に働きかけるさまざまなデータがあることがわかりました。「ナチュラル&オーガニック」というと、効果というよりは感覚、精神的なものというイメージもありますが、科学のアプローチで分析したいと思ったのが始まりです。

 「アルジェラン」だけでも購入者数はのべ1600万人を超えていますが、皆さんにきちんと効果を伝えようとしたとき、科学的なエビデンスデータは不可欠です。もちろん研究機関でデータを取るためにはお金もかかりますが、製品の本質を理解し、納得して使ってもらえれば、効果はさらに高まると思います。

環境保護にも積極的に取り組んでいますね。

 自然との共生を目指すカラーズにとって、環境保護は必然です。製品の容器の一部には、植物原料のバイオマスプラスチックを採用しています。そして温室効果ガス削減への取り組みとして、今期は約23%のカーボンオフセットを実現しました。2030年にはカーボンニュートラルを達成し、2040年には創業以来排出したすべてのCO2を回収することを目標にしています。

 化粧品原料にも多く使用されるパーム油の生産のため、インドネシアやマレーシアでは熱帯雨林を伐採して農園開発が進み、生物多様性の喪失や労働問題が起こっています。私たちは、パーム油を使用する化粧品メーカーとして、インドネシアのボルネオ島で年間1ヘクタールあたり400本の植林もスタートしています。

厳しくジャッジした上で購買という一票を投じてもらいたい

世界的にも、地球環境や人に優しい「CLEAN BEAUTY(クリーンビューティ)」と呼ばれる化粧品がトレンドになってきています。

 「クリーンビューティ」の流れは、持続可能という点では素晴らしいことですが、本来、化粧品という消費財ビジネスはサステナブルとは真逆にあることも忘れてはいけないと思います。私はリアリストなので、世の中から消費財がなくなるとは思わないし、一方的に「悪」だとも思いません。

 いま、世界中で「サステナブル」「クリーンビューティ」「オーガニック」といった言葉はファッションのように使われる風潮があり、中身がともなっていないケースも見受けられます。私たちは一過性のブームではなく計画的に、本当に持続可能な事業を創造していくことが必要なのではないでしょうか。そして消費者には、厳しくジャッジした上で購買という一票を投じてもらいたい。ユーザーの正しい選択によって世の中が良くなっていく、そんな時代がもう始まっていると思います。

 私たちが国産植物原料にこだわったり、環境に配慮した資材を採用したりすることは、まだまだ限定的な貢献に過ぎないと思います。ただ、ドラッグストアという全国展開の大きな販路で、今後も私たちがこだわりを追求していくことで、影響力が増し、仲間が増え、原料のニーズと供給が高まっていけば、さらに産業として育っていき、地方衰退という悪循環にも一石を投じられるのではと思っています。

「私の根底には、権力や常識に立ち向かうパンク精神が常にある」と語る橋本氏。この先も攻めの姿勢で、地方にフォーカスした新しい事業を仕掛けていくという

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

【お知らせ】
Beyond Health特別セッション [日経クロスヘルスEXPO内]
これが近未来の新市場「空間×ヘルスケア 2030」の全貌
2021/10/22(金) 10:00 ~ 11:20(オンライン)

<聴講無料・事前登録制>


[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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