Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会を描くためのビジョンとして「空間×ヘルスケア 2030」を提案。同プロジェクトの1つとして、「Beyond Mobility(未来のモビリティ)」について、Visionary Flagを掲げている。今回紹介する「分身ロボットカフェ」は、Beyond Mobilityで重要な論点として挙げている「移動の自由」について、新たな1つの方向性を示す取り組みとして注目すべきものだ。

分身ロボットとは、入院などの理由で外出困難な人、海外在住や子育て、介護などの理由で行きたいところにいけない人がネットを介して遠隔操作するロボットのこと。6月22日、東京・日本橋にオリィ研究所とカンカクがオープンした「分身ロボットカフェDAWN ver.β」では、離れた場所から分身ロボットを遠隔操作することで、難病や重度障害で外出困難な人がカフェのスタッフとして就労している。新しい“移動”の概念といえるだろう。

「分身ロボットカフェDAWN ver.β」の店内。それぞれの座席の分身ロボット「OriHime」がメニューなどを説明、大きなサイズのOriHime-Dがコーヒーなどの飲料を運ぶ(写真:日経BP 総合研究所)

 分身ロボット「OriHime」(オリヒメ)の開発・提供を手掛けるオリィ研究所(東京都中央区)は6月22日、「分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」常設実験店を東京都中央区日本橋にオープンした。完全キャッシュレスカフェ「TAILORED CAFE」などを運営するカンカク(東京都港区)との共同運営となる。オリィ研究所では、2018年から期間限定で分身ロボットカフェの実証実験を4回行ってきたが、今回が初めての常設店舗となる。

 分身ロボットカフェDAWN ver.βでは、ALSなどの難病や重度障害で外出困難な人々などが、客席に置かれた小型のOriHimeを遠隔操作して席に座った来店客からオーダーを取ったり、全長約120cmのOriHime-Dを遠隔操作して飲み物を配膳するなどして、カフェのサービススタッフとして働く。また、OriHimeのパイロット(OriHimeを遠隔操作する人をパイロットと呼ぶ)が遠隔操作でコーヒーをつくるロボット「NEXTAGE」を操作して、来店客の目の前で「フレンチプレス方式」でコーヒーを提供する「テレバリスタ OriHime×NEXTAGE」の実証実験も行う。「NEXTAGE」はカワダロボティクス(東京都台東区)が開発・販売している協働ロボットである。

「移動困難になった後、どう自分らしく生きるか」

 6月21日のオープニングセレモニーで、吉藤オリィ(吉藤健太朗)氏は「人はいつか移動困難になる。しかし、移動困難になった後、どのように自分らしく生きたらいいかというロールモデルを持っていません。OriHimeや分身ロボットカフェを研究することによって、移動できなくなった人でも、その後にもう一度働きたくなる選択肢を持つことができるようになると考えています」と、分身ロボットで働く場をつくることの意義を語った。

オープニングセレモニーであいさつする吉藤氏(写真:オリィ研究所)

 分身ロボットカフェDAWNのアドバイザーを務め、先天性四肢欠損の障害がある作家の乙武洋匡氏は、「自分で体を動かすことができない人にとって、この社会は、暮らすこと、働くこと、友達と会うことなどが難しい状態に長らくありました。そんな状況を変えてくれたのがOriHimeです」「最初の実証実験のとき、私に接客をしてくれた方は難病で10年以上家から出ておらず、ずっと仕事もしていませんでした。その方は『今回、カフェのシフトに入ったことでお給料がもらえる。このお給料で、10年以上心配をかけてきた家族にお寿司をご馳走したい』と語ってくれました。(常設店のオープンで)こうした思いをできる方がこれから少しずつ増えていくと思うと本当に胸がいっぱいになりました」とスピーチした。

オープニングセレモニーでの乙武洋匡氏。分身ロボットカフェDAWNのアドバイザーを務める(写真:オリィ研究所)

分身ロボットのパイロット約50人がシフト制で働く

 分身ロボットカフェDAWN ver.βは、面積約300m2(うちカフェエリア190m2)で、店内は4つのエリアに別れる。OriHimeがオーダーやドリンクの運搬などの接客を行うAエリア、元バリスタのパイロットが遠隔操作で来店客の目の前でコーヒーをいれる「テレバリスタ OriHime×NEXTAGE」を実施するBエリア、WiFiや電源を完備したカフェラウンジのCエリア(OriHimeによる接客なし)、そして、協賛企業のPRやオリィ研究所の製品体験コーナーなどがあるPRゾーンだ。AエリアとBエリアは完全予約制となっている。

Aエリアでオーダーを受けるOriHime。オーダー時以外も含め、OriHimeパイロットとのコミュニケーションは来店客にとっての魅力の1つとなっている(写真:日経BP 総合研究所)
注文された飲み物を運んできたOriHime-D。床のバーコードを読み取り、黒い線に沿って進んでいく(写真:日経BP 総合研究所)
「テレバリスタ OriHime×NEXTAGE」と題したBゾーンでは、来店客の目の前でロボット(NEXTAGE)がコーヒーをいれる。来店客は、OriHimeパイロットとコミュニケーションを取りながら、大きなロボット(NEXTAGE)がコーヒーをいれるところを間近で見ることができる。エンタテインメント性の高い接客だ(写真:日経BP 総合研究所)
PRゾーンにも説明員としてOriHimeが配置されている。今回の実証実験が初参加のパイロットには初心者マークがついている(写真:日経BP 総合研究所)

 カフェでは、登録した約50人のパイロットがシフトを組んで接客を行う。難病や重度障害などで外出が困難な人たちのほかにも、例えばオーストラリア在住で子育て中の人も、「距離」を克服して働くパイロットとして参加している。雇用形態はアルバイトが中心(パイロットにより異なる)。賃金は非公開だが、東京都最低賃金以上を保証しているという。

カフェで稼働する分身ロボットは日々改良

 カフェの設備面のバリアフリー監修は、一般社団法人WheeLog(ウィーログ)が担当。店内はフルフラットに設計されている。回遊導線・什器類は車いすの来店客にも配慮し、ストレッチャータイプ・電動タイプを含む車いすも入場可能としているほか、人工呼吸器などの医療機器や電動車いすの充電用に電源も貸し出す。オストメイト・介助ベッド付設のバリアフリートイレも設置している。

 食事支援については、嚥下障害などで食事支援が必要な来店客への対応として、各種調理器具の貸し出しを実施。ドリンクメニューでは嚥下対応ドリンクを用意するほか、とろみ調整剤の提供も行う。監修は、「スナック都ろ美(スナックトロミ)」(食事支援が必要な子どもの親のコミュニティ。NPO法人D-SHIPS32が運営)が、機材選定・スタッフ研修などを担当している(関連記事:「スナック都ろ美」の挑戦──嚥下障害の子どもと家族に楽しい食を)。

「分身ロボットカフェDAWN ver.β」が1階に入居する「日本橋ライフサイエンスビルディング3」。1階の店舗入り口のスロープは12分の1以下の勾配に抑えた。特別協賛の三井不動産が場所を提供している(写真:日経BP 総合研究所)

 カフェで稼働する分身ロボットは、パイロットや来店者の声を集め、カメラの画角や取り付け位置など、日々改良を加えている。仮説検証のスピードアップを目指し、オリィ研究所は今年5月に本社をカフェと同じ「日本橋ライフサイエンスビルディング3」に移転している。運営面では、特別協賛企業3社・協賛企業8社の支援を得たほか、クラウドファンディングで2156人から4458万7000円の資金を集めたことで話題となった。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

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[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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