Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会を描くためのビジョンとして「空間×ヘルスケア 2030」を提案していく。このほど、それを実現するための新プロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」をスタートさせた(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。

同プロジェクトでは、2030年に実現を目指す「空間」をイメージして、イラストで分かりやすく表現した未来の旗印(Visionary Flag)を示していく。第1弾として、住宅・オフィス・薬局の未来像を描いた「Beyond Home(未来の住宅)」「Beyond Office(未来のオフィス)」、そして「Beyond Pharmacy(未来の薬局)」という3つの旗を掲げた。

このうち今回の記事では、「Beyond Home(未来の住宅)」に焦点を当て、どのような未来像をイラストに投影したのかを説明していく。ただし、このイラストはまだ完成形ではなく、たたき台の段階だ。これを原案とし、皆さんと議論しながら新たな知見を加え、2030年に向けて新たな「空間×ヘルスケア」を創造していく考えだ(本イラストや記事内容に対する議論、お問い合わせはこちらにお寄せください)。

Beyond Healthが、2030年に実現しているべき「住宅」空間をイメージしてイラスト化したBeyond Home(未来の住宅)。今回の記事では、ここに盛り込んだ内容について解説していく(イラストレーション:©kucci,2020)
Beyond Healthが、2030年に実現しているべき「住宅」空間をイメージしてイラスト化したBeyond Home(未来の住宅)。今回の記事では、ここに盛り込んだ内容について解説していく(イラストレーション:©kucci,2020)
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 Beyond Homeには大きく3つの要素がある。(1)生体データや行動データ、環境データなどあらゆるデータを測定・蓄積する、(2)データを活用して健康に導く働きかけをする、(3)命を守ったり健康を増進させたりする仕掛けを施す、である。

 これにより、住宅は単に寝食する空間ではなく、意識的または無意識的に健康を作り出せる空間になる。もちろん、対象は高齢者や病気を抱える人だけではなく、健康な人も意識した住宅である。あらゆる状況の人のヘルスケアに資するBeyond Healthとは──。(1)~(3)の順番に紐解いていこう。

 なお、イラストはあらゆる要素を一つの住宅に盛り込んだため巨大な空間になっている。実際には、状況に応じて一部の要素だけを取り入れることが想定される。また戸建て住宅に限らない。集合住宅であれば、住戸部分と共用部に分けて機能実装するのも効率的だろう。

トイレでカラダの変化の予兆を把握

 まずは(1)の生体データや行動データ、環境データなどあらゆるデータを測定・蓄積する、という要素。これについては、住宅のあちらこちらに様々なセンサーが設置され、生活しているだけで、あらゆるデータをさりげなく取得できる未来図を描いた。

(イラストレーション:©kucci,2020)
(イラストレーション:©kucci,2020)
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 例えば、浴室では天井に設置したバイタルセンサーを使って、入浴中の生体データを非接触で測定する。実際、浴室で発生する事故として、急激な室温差によって血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを起こすヒートショックが問題になっている。特に高齢者は、冬場に温かい居室から寒い浴室へ移動した際にヒートショックを引き起こし、死亡につながるケースも少なくない。浴室で血圧などの生体データを常にモニタリングできるようになれば、こうした事故を防げる可能性がある。

 トイレでは、尿や便などの排泄物からさまざまなデータを取得する。最近では、排泄物を検体とするヘルスケアサービスが続々と登場している。ユカシカドの尿を使った栄養検査サービス「VitaNote」(関連記事:尿にペーパーを浸しスマホ撮影するだけ、栄養検査の新機軸)、ウンログのうんち記録アプリ「ウンログ」(関連記事:「うんちを観る」、その蓄積をいよいよ医療・介護にも)などはその一例だ。

 地球上にありふれた生物「線虫」を活用して、尿からがんの有無を判別するサービス「N-NOSE」も、2020年1月にHIROTSUバイオサイエンスが実用化した(関連記事:[速報] 線虫がん検査、一般に受けられる施設が明らかに)。こうしたスクリーニングの技術とトイレの連携が図られれば、日常生活で無意識のうちにカラダの変化の予兆を把握できるようになるだろう。

 このほか、住宅内のさまざまな場所にある鏡は、肌の状態や自律神経の不調、ストレス度合いなどを把握するセンサーになり得る。寝室でもさりげなく呼吸や睡眠状態のデータを取得するようになる。

データ共有で社会とつながる

 次に(2)のデータを活用して健康に導く働きかけをする、という要素だ。これについては例えば、個人ごとにカスタマイズした快適な睡眠への導入が挙げられる。取得した生体データや行動データを基に、一人ひとりが最も快適に眠れる寝室環境を作り出す。具体的には、温度や照明、音、香りなど、五感を刺激する要素を使った睡眠環境を提供する。

(イラストレーション:©kucci,2020)
(イラストレーション:©kucci,2020)
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 台所や食堂では、データを使った食事管理が実現する。冷蔵庫にはモニターが内蔵されていて、家族の健康状態や保存している食材を加味した最適なレシピが表示される。これにより、適切な食事管理を促せる。データを参照して肥満気味になっていることが分かれば、「炭水化物を減らしましょう」といったアドバイスも表示される。

 体重や栄養状態といった生体データだけでなく、睡眠などの行動データも参照する。上質な睡眠がとれていないことが分かれば、それを改善するためのレシピを提示する。料理を机に並べると、含まれている栄養成分やカロリーが卓上に表示され、食事の内容を詳細に把握することもできる。

 データの活用は住宅の中だけにとどまらない。家の中で取得したデータは、地域の薬局や会社、学校と共有する。社会全体でビッグデータとして活用すれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような感染症が流行した際にも、感染経路を追うなどして社会システムの保全につながるかもしれない。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 これまでは電話線やインターネット回線を引くことで、家と社会をつないでいた。しかし今後は、データを共有することが社会とのつながりになるだろう。

家の中でストレスなく移動できる乗り物も

 最後に(3)の命を守ったり健康を増進させたりする仕掛けを施す、という要素について。その一つとして、家の中で自然にエクササイズができる、運動を促す仕掛けが挙げられる。例えば、階段にルームランニングマシンの応用版を用いて、体に適度な負荷をかけ、健康を保てるように導く。階段の手すりにセンサーを搭載しておけば、平時の生体データの測定だけでなく、負荷状態での生体データをモニタリングする用途にも活用できる。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 精神面の健康を保つために、壁や窓が進化しても良い。有機ELやプロジェクションマッピングの技術を駆使して、四季折々の景色を壁や窓に映し出し、ヒーリング効果を狙う。そのほかオンライン授業やテレワークにも活用するなど、シーンに応じて使い分けることを想定する。

 照明は天井に設置しなくなるかもしれない。人は蛍光灯の光を上から照らすよりも、間接照明による明かりの方が好ましく感じるとされているため、有機ELなどを使って床や壁、備品を光らせるようになる可能性もある。

 高齢者の転倒を防ぐため、床にも工夫を施す。普段は屈曲せず滑らかで歩きやすい床だが、転倒してしまった際に怪我をさせないようサポートしてくれるような素材を用いるのが望ましい。

 歩くのが難しい人に対しては、家の中でストレスなく移動できるよう、室内用モビリティーを活用する。例えば、“ホバークラフト(空気を高圧で噴出し浮揚して進む乗り物)座布団”などが想像できる。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 命や健康を守るためには、健康を阻害する要因を家の中に持ち込まないことも重要なアプローチだ。そのために、玄関にエアフィルターや紫外線などを活用して、雑菌やウイルス、花粉の侵入を防ぐ。命を守る防災の観点では、車に防災機能を持たせて、自然災害が起きた際には車一つで避難できるようにする、といった具合だ。

省エネとも表裏一体

 ここまで説明したBeyond Homeは、主にヘルスケアにフォーカスした構想だ。ただし、人が健康に暮らし続けていくためには、省エネなどの環境対策も切り離せない。地球環境の継続なしに、人の健康や命は語れないからだ。省エネへの対策としては例えば、電気自動車を巨大な“電池”として、電気の貯蔵に活用するなどの手が考えられる。

 実際、ここにきて住宅の断熱性能を高めることで健康に住み続けられるとのエビデンスが得られつつある(関連記事:「住宅を断熱改修すると健康になる」は本当か?)。省エネとヘルスケアは密接に関係しているとも言えそうだ。

 Beyond Healthでは今後も皆さんとともに、健康を作り出す住宅、またその住宅とつながるべきサービスや機能について考えていきたい(本イラストや記事内容に対する議論、お問い合わせはこちらにお寄せください)。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

【お知らせ】
Beyond Health特別セッション [日経クロスヘルスEXPO内]
これが近未来の新市場「空間×ヘルスケア 2030」の全貌
2021/10/22(金) 10:00 ~ 11:20(オンライン)

<聴講無料・事前登録制>


[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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