Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するための新プロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を立ち上げた(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)

このビジョンのカギを握るのが、医療機関とも連携し、かかりつけの健康アドバイザーとして人々の健康を支える薬局・薬剤師。だが、少子高齢化、医療財政の逼迫、医師の働き方改革など医療業界の変化に加え、新型コロナウイルス感染症という新たな問題が発生、薬局を含む医療提供体制の基盤が大きく揺らいでいる。国内で600を超える店舗を展開する調剤薬局大手の日本調剤・代表取締役社長の三津原庸介氏に、ポストコロナ時代に薬局をどう変えていくのか、その展望を聞いた。(聞き手は星 良孝=ステラ・メディックス)

<b>日本調剤・代表取締役社長の三津原氏</b>(写真:川島 彩水)
日本調剤・代表取締役社長の三津原氏(写真:川島 彩水)
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新型コロナウイルス感染症の影響で医療提供の形は変化のペースを早めています。その中で薬局はどのように変化してきますか。

 私たちは、前提として「制度がこうだから薬局もこう変わる」という言い方はしたくないと考えてきました。今回の新型コロナウイルス感染症の発生でなおさらいわれていますが、10年後、20年後の日本で確実に深刻化するのが医師不足です。OECD加盟諸国の中で、日本は人口1000人当たりの医師数が最も少ない国の一つです。高齢化が進むと、あらゆる病気の罹患率は高まり、患者数や医療費が増えてきます。医療の担い手の必要数は、患者の数との掛け算で増えますが、医師は少ない上に医師自身も高齢化していきます。

 そうした中、医師の仕事は心筋梗塞や脳卒中、外科手術などの急性期医療に特化せざるを得ないと考えられます。それらの医療は医師にしかできず、他職種に代わってもらうわけにはいきませんから。その分、生活習慣病の管理やがん治療後のフォローなどの慢性期のケアは、他の職種が担わなければ医療が成り立たなくなります。

 一方で、人口1000人当たりの薬剤師数がダントツに多い国が日本です。専門知識を備えており、人数も多い薬剤師がそこに出ていくべきだと考えています。生活習慣病の管理や健康寿命の延伸が重要になる中で、慢性期の患者をモニタリングしていく担い手として関わるのです。多剤が同時に処方されている「ポリファーマシー」の問題などが既に指摘されていますが、多剤併用で起こり得る症状などを薬剤師が適切にモニタリングし未然に防ぐことができれば、医師にとっても助かります。

 コロナの影響で受診抑制が進み、医療機関を受診する人が減っているのも背景として大きいと考えています。実際、開業をためらう医師が増えてきており、医師は病院勤務にシフトしていく傾向が強くなる可能性があります。そうなると、医師の代わりに慢性期のケアを担う薬局の存在感はなおさら増してくるでしょう。われわれ薬剤師がやらずに、いったい誰がケアするんだという思いです。主体的に取り組まないと日本の医療は持たない。私たちはそういう強い問題意識で動いていきます。

 そもそも医薬分業は医師のタスクシフティングという側面も持っています。医薬分業の元年とされる1976年当時から見ると、医師の仕事は大きく変化しましたが、薬剤師の仕事もまた大きく変わりました。今の50歳以上の薬剤師は薬学部で患者の体に触ってはいけないと教わっているはずです。それが今では薬剤師もフィジカルアセスメントの仕方を教わるくらい、薬剤師の医療への関わり方が変わってきています。厚生労働省の推進する「健康サポート薬局」も保険点数がつくつかないにかかわらず、薬剤師が医療への主体的に関わっていくべきという考えで取り組むべきものと考えています。

「医薬品のバリューチェーンを変える」

薬剤師が医療への関わりを深めていく中でどう動いていきますか。

 キーワードは「医薬品のバリューチェーンを変える」です。慢性期ケアでは担い手がおらず、効率化が求められているわけです。医療界において「効率」は、「質の向上」とトレードオフの関係にあるイメージから忌み嫌われるところもありますが、ビジネスモデルを確立していくことで二兎を追うことができると考えています。

 民間のビジネスモデルを適用し、薬局の提供できる価値を変えていきます。多様な接点から薬局の存在を知ってもらいます。服薬指導、アドヒアランス、ポリファーマシー解消、残薬の管理という薬剤に関わる価値ばかりではなく、食事指導や運動指導など、処方箋を受ける前から後までケアする価値を提供していきます。食事指導という面で言うと、自社で管理栄養士を50人以上抱え、入退院での食事指導の途切れをなくすような取り組みを始めています。食事や運動のコラボはどこでも考えられる点ですが、独自性を持って取り組みます。

岩手県矢巾町の岩手医科大学附属病院の敷地内に、産学官がコラボしてつくられたメディカルフィットネスジム「ウェルベース矢巾」に参画し、調剤薬局を併設しましたね。

 「ウェルベース矢巾」は、町や医大とともに建物の中に調剤薬局とフィットネス施設を入れ、住民の健康管理に主体的に関わろうとするもので、特に新しい取り組みです。高橋昌造町長の強いリーダーシップによるところが大きいのですが、医療提供の場において、矢巾町と岩手医科大学、さらに当社を含めた複数の企業、情報と知識を持って診断する医師が協働し、質の高い健康寿命延伸や重症化予防の取り組みを進めていこうと考えています。

<b>岩手医科大学附属病院の敷地内に開設された「ウェルベース矢巾」</b> (写真:井上 健)
岩手医科大学附属病院の敷地内に開設された「ウェルベース矢巾」 (写真:井上 健)
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 そこで進めたいのは「IT(情報技術)連携」です。全国的に医療情報を一元化する動きは個別に存在しますが、施設の枠を超えて普遍化しているかはクエスチョンマークです。ほとんどの地域では電子カルテの共有さえできていません。医療情報ばかりではなく、そのほかプラスの情報を入れればなおさら難しい状況でしょう。そこを何とか変えて、個人情報保護や同意取得も行いながら、包括的なデータベースを構築し、共通の基盤で専門職たちがアプローチできるようにしていきたいと考えています。病院を含め、運動や食事などの情報連携を進めて、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)のようにプラットフォームを構築していくのです。

 逆に言えば、情報共有すると、薬をきちんと飲むアドヒアランスや症状の改善などの医療情報に薬局側もアクセスできるようになります。アドヒアランスについては平均すると5割程度しか薬を飲めていないともいわれるほど。治療の効果を出す上でも、医療経済の上でも好ましくない状態です。薬局が患者に寄り添い薬剤の悩みを聴取でき、しかもIT連携が実現していれば、医師への情報のフィードバックも容易です。薬局の通常業務ではありますが、精度高くできるようになるのです。データ共有化が起爆剤となり、チーム医療の基盤が固まっていくのです。

 ウェルベース矢巾の取り組みを普遍化させていけるかは検証を要しますが、ベストプラクティスにしたいと考えています。調剤薬局チェーンの強みを生かし、地域や病院の違いを踏まえた全国展開も視野に入れたいと考えています。

「薬局はこうあるべきだ」との考えを構築し具現化

薬局がフィットネスやIT連携の中心的な役割を果たしているのは興味深いことです。薬局の役割をより広げていくような考え方を全社で進めているのですか。

 私が中心となって全社を挙げて「薬局はこうあるべきだ」との考えを構築し、最前線の薬局においてどんどん表現する体制をつくっています。自らフィットネスジムを設けたり、薬店を展開したり、アプリを自社開発したりするのは、全社の問題意識から生み出されているのです。がん専門の特定機能病院である大阪国際がんセンターでは、敷地内薬局の建物にスポーツジムを誘致し、メディカルフィットネスに近い形を実現しました。ウェルベース矢巾とは異なり、がんになった人たちの利用が想定されますが、病院が望むような形で運動に取り組める設備を整えたのです。

 岡山県の倉敷中央病院の中では、調剤薬局ではなく「NICHO+ くらしき」という薬店を出しました。市販薬を売るだけならばどこでもできるかもしれませんが、病院が薬事審議会を通して採用品の決定に関与しているのは特徴的です。薬局業界では、申し上げたように、健康サポート薬局という取り組みの中で処方箋を出す前、あるいは後の健康管理にまで気を配ろうとしています。そうした中で、倉敷中央病院では、病院としても人々の普段からの健康管理を視野に入れた取り組みを始めようとしているのです。

(写真:川島 彩水、以下同)
(写真:川島 彩水、以下同)
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 調剤薬局の店舗の中で、簡易血液検査や健康測定機器を使った健康度チェック、栄養指導などを行う「健康チェックステーション」を広げているのも一つです。関東中心に100カ所ほど導入し、薬剤師や管理栄養士による健康管理の相談を受ける窓口を設けたり、タニタさんの体組成計を置いたりして、利用される方々の健康意識を高める取り組みを進めようとしています。

 電子お薬手帳アプリの「お薬手帳プラス」も既存事業の中で横断的に協力して自社開発しました。「クラウド」という言葉が一般的ではない20年以上前から、データをクラウドに蓄積する情報インフラを整え、基幹システムを自前で開発してきました。こうした自前開発をしている調剤薬局はほかにはないのではないかと思います。こうした体制を作ってきたからこそ、電子お薬手帳の自社開発も実現しました。アプリは開始当初の6年前には高齢者には使えないのではという心配の意見もありましたが、今や70歳の高齢者も普通にLINEを使う時代になり、高い患者満足度もデータで示されるようになっています。医療従事者にとっては患者さんから「これは便利。ありがとう」と言われることは、一般の人が思う以上に元気につながることなのです。

10年後の薬局像は?

10年後の薬局をどうイメージしますか。

 人と情報技術を掛け合わせる発想がさらに進展していくと考えています。オンライン診療やオンライン服薬指導が、新型コロナウイルス感染症の影響で緊急措置として導入が広がりを見せています。それはそれで情報技術への対応はしていきますが、そうした薬局のIT連携を進めつつ、その上で人の対応力を高めていくことが重要だと考えているのです。

 薬局の「かかりつけ機能」強化で、薬局では対物業務から対人業務への転換が求められることも重要です。これから薬剤師も変わらなければならないと考えています。薬剤は高度化して、外来での治療が増えてきますから、それはまさに調剤薬局の薬剤師の出番となってくるのです。薬剤師の専門性を高めることは欠かせません。

 在宅医療の中でも薬剤師の役割はあります。そこでは民生委員など町ぐるみで手分けをしてやる必要があります。薬剤師は医療従事者であり、専門職でもありますから、求められる役割も大きくなります。薬剤師のリーダーシップが必要になりますが、地方の店舗ではその意味ではよい経験を積むことができています。医師との物理的な距離も近く、コミュニケーションも密に取れます。慢性ケアについても学ぶ機会は多いのです。現場から昇進した薬剤部の幹部はほぼ全員が地方を経験済み。同じ医療の話をするのでも経験に由来する深みが出てきます。

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 慢性期ケアでは、生活習慣病においてはイノベーティブな薬剤が出てくることはありません。薬機法等の改正により薬局は「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」へ細分化されますが、地域連携薬局の薬剤師には、既存薬をきちんと飲むことの指導が重要になります。アドヒアランスを5割から10割に高めるといった点を含め、患者の臨床や生活に思いの及ぶ薬剤師が求められます。 調剤の正確性を競うのではありません。

 半面で革新的な薬剤は、がんや希少疾患の薬が中心になってきます。そうした薬はハンドリングが難しく、豊富な知識が必要です。専門医療機関連携薬局の薬剤師は、知識を持ったエース級が就くことになります。がんにおいては、薬剤師が主体的に関わる必要があると考えています。がんになっても人によっては寛解して再発リスクを抱えながらも元気に働いている人もいます。その中で、薬の副作用や経口薬の管理などに対応していかなければなりません。当社には「5つ星薬剤師」といった人事制度もあります。

 コロナのために患者や疾患による行動変容があからさまに現れています。これは一時的かもしれませんが、この感染症が終息した後に元通り100%に戻るか、はっきりとしたことはまだ言えません。今後、患者さんの意識や行動を変容するきっかけになるかもしれません。オンライン診療をオンライン服薬指導も緊急措置とされますが、コロナが収束していく中で元に戻すことが通じるかは分かりません。インフルエンザの流行時期はコロナとどう違うのかという話になるでしょう。それは会社への通勤自粛やテレワークの考え方も同様です。継続してやらざるを得ない方向になるかもしれません。そこに対応していくツールとしてITは重要だと考えています。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

【お知らせ】
Beyond Health特別セッション [日経クロスヘルスEXPO内]
これが近未来の新市場「空間×ヘルスケア 2030」の全貌
2021/10/22(金) 10:00 ~ 11:20(オンライン)

<聴講無料・事前登録制>


[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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