Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会を描くためのビジョンとして「空間×ヘルスケア 2030」を提案していく。このほど、それを実現するための新プロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」をスタートさせた(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。

同プロジェクトでは、2030年に実現を目指す「空間」をイメージして、イラストで分かりやすく表現した未来の旗印(Visionary Flag)を示していく。第1弾として、住宅・オフィス・薬局の未来像を描いた「 Beyond Home(未来の住宅)」「Beyond Office(未来のオフィス)」、そして「Beyond Pharmacy(未来の薬局)」という3つの旗を掲げた。

このうち今回の記事では、「Beyond Pharmacy(未来の薬局)」に焦点を当て、どのような未来像をイラストに投影したのかを説明していく。ただし、このイラストはまだ完成形ではなく、たたき台の段階だ。これを原案とし、皆さんと議論しながら新たな知見を加え、2030年に向けて新たな「空間×ヘルスケア」を創造していく考えだ(本イラストや記事内容に対する議論、お問い合わせはこちらにお寄せください)。

Beyond Healthが、2030年に実現しているべき「薬局」空間をイメージしてイラスト化したBeyond Pharmacy(未来の薬局)。今回の記事では、ここに盛り込んだ内容について解説していく(イラストレーション:©kucci,2020)

 医師が処方した薬を患者に渡す場所──。そんな“従来の薬局・薬剤師”のイメージは今後、ガラリと変わっていく。

 Beyond Pharmacyの役割は、端的に言うと「未病の改善を推し進める社会の“ハブ”」である。病気と診断される前の未病状態の人を適切にケアする、特定の疾患を患っていない人の健康を守る…。こうした生活者との接点が大きく増えていく。

 この機能を担う場所が、なぜ薬局なのか。薬局は全国に約5万9000店舗あり、コンビニエンスストアよりも多い。まさに生活に密着した場所といえる。さらに重要なのが、17万人以上いる薬剤師の存在。医学的知識を背景にしながら生活者の健康もサポートできる立場にある。薬局・薬剤師の在り方にさらなる幅を持たせれば、2030年のヘルスケアの姿は大きく変わるだろうと考えた。

 変化の一端は、少しずつ見え始めてきた。例えば、2020年9月に施行予定の「改正薬機法」では、服薬期間中の患者に対する薬剤師のフォローアップが義務化される。このインパクトについて、薬局経営者で医師の狭間研至氏は次のように語る。「最大のポイントは、これからの薬局、薬剤師の定義が変わること。これまでは医師から処方箋という情報が入り、患者に薬として渡すことが主な機能だった。改正薬機法では、その機能が少し広がることになる」(関連記事:薬局は“薬をもらう場所”ではなくなる)。

 実際、改正薬機法を見据えた薬剤師の新たな役割を支援するツールも出てきた。電子薬歴・服薬指導システム「Musubi」を展開するカケハシが2020年7月に発表したのは、薬局での調剤時以外にも患者と薬剤師が直接つながり、薬局外での患者フォローを支援するアプリである(関連記事:患者と薬剤師を結ぶ、カケハシが新サービス「Pocket Musubi」)。

 こうした中、Beyond Pharmacyに描いた未来の薬局・薬剤師の姿はどんなものなのか。具体的に見ていこう。

“心臓部”はデータスペース

 未来の薬局に存在するであろう大きく4つの機能を想定し、それらを実施するスペースを描いた。具体的には、(1)データを取り扱うスペース、(2)スクリーニング&ヒーリングスペース、(3)コミュニケーションスペース、(4)ピッキングスペース、である。

 (1)のデータを取り扱うスペースは、Beyond Pharmacyの“心臓部”ともいえる。ここには、住宅や会社、学校、商業施設などのあらゆる場所で取得された生体情報(バイタルデータ)が蓄積されていく。このデータをAIがモニタリングし、異常値が検出されたら薬剤師にアラートを出し、薬剤師の判断でケアを行う。

(イラストレーション:©kucci,2020)

 薬剤師が受診すべきと判断した場合は受診勧奨を行い、生活習慣の改善を図れば対応できると判断した場合はオンラインで食事や睡眠の指導をする。生活のさまざまな場面で取得されたデータから、いち早く危険を察知して速やかに適切なケアを行う。

 これによって、必要のない人が医療機関を受診することや適切な受診タイミングを逃して病気が進行してしまうこと、感染症が拡大してしまうことなどによる医療崩壊を防ぐ。まさに、薬局が住宅や会社、学校、商業施設などの生活の場と、医療機関をつなぐハブの機能を担う。

 (2)のスクリーニング&ヒーリングスペースでは、これまで薬局に行く必要のなかった人がふらっと立ち寄りたくなるきっかけを提供する。一つの手法として、疾患の予兆を把握できるスクリーニング機器や心身を癒すためのヒーリング機器を設置して、無料または安価で誰でも試せるようにすることを想定した。

(イラストレーション:©kucci,2020)

 機器は、企業が製品を販売する前に実証実験や市場調査を兼ねて提供することも考えられる。機器の性能や効果を検証する場になるかもしれない。これらは(1)のスペースに蓄積するデータの拡充にもつながる。

 もちろんスクリーニングやヒーリングの機器だけでなく、フィットネスジムや映画館などの付帯施設を設けることも想定できる。仕事や買い物の帰りに寄ってみたくなるようなシカケをサービスとして用意してもよい。ゲーミフィケーションの考え方を活用して、来店ポイントを貯められるサービスを採用するのも手だろう。エンターテインメントやアミューズメントの視点は未来の薬局を考えるうえで重要だ。

健康づくりの場に

 (3)のコミュニケーションスペースは、健康づくりの場である。患者あるいは未病状態の人のそれぞれが薬剤師とのコミュニケーションを図れるスペースを想定した。

(イラストレーション:©kucci,2020)

 患者とのコミュニケーションでは、薬を渡すだけではなく、治療生活のアドバイスやフォローアップを行う。例えば、栄養が取れるスムージーを提供したり、患者の症状に合わせたレシピを紹介したりする。患者との太く長い信頼関係を築く狙いもある。

 未病状態の人にとっては、「寝つきが悪い」「糖尿病を改善するための生活について聞きたい」など心身の健康についての相談ができる場所となる。相談に乗る薬剤師は、相談者に合わせて食事のレシピやサプリメント、アプリなどのソリューションを提供する。

 イラストに示したようにカフェの機能を持たせれば、お茶を飲みながら気軽に相談ができ、より立ち寄りやすくなるだろう。医療機関にかかるほどの症状はないが、心身の健康で気になることがあればふらっと訪れることができる場所になる。

 なお、イラスト上ではあくまでコンセプトを示すために、薬を渡すスペースと未病状態の人が相談するスペースが隣接している。実際には、患者と未病状態の人の動線は分ける必要があるだろう。

薬剤師は「ヘルスケア・マイスター」へ

 (4)のピッキングスペースでは、調剤業務を自動化する。これまで薬剤師が多くの時間と労力を使ってきた業務を自動化することで、(1)~(3)のスペースで行う業務を担う余地がでてくるというわけだ。

(イラストレーション:©kucci,2020)

 逆に言えば、Beyond Pharmacyの中で担う薬剤師の業務はこれまでと大きく変わる。その新たな役割を象徴的に示すため、薬剤師は「ヘルスケア・マイスター」と名付けた。

 ヘルスケア・マイスターの実現に向けては、新たな役割に対応した教育や制度設計も必要になってくるだろう。実際にどのような課題を解決していく必要があるのかなど、多くの関係者との議論を進めていきたい。

 また、今回のBeyond Pharmacyでは、薬剤師がヘルスケア・マイスターになることを想定したが、場面によっては必ずしも薬剤師である必要はないかもしれない。管理栄養士やケアマネジャーなど、どのような職種がヘルスケア・マイスターを担っていけるのかについても引き続き議論していきたい(本イラストや記事内容に対する議論、お問い合わせはこちらにお寄せください)。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)