「かかりつけ薬剤師」の将来像がそこに

 事業に参加する日本調剤は、通院患者やジムに通う人々に対し、薬やサプリメントの相談に乗ったり栄養学的な面からのサポートを行う。薬局の役割は単に医療機関からの処方箋に応じて薬を出すだけの場を超えた形になるのは間違いない。そもそも病気だから薬局に行くという常識が変わる。ウェルベース矢巾に併設する日本調剤岩手医大前薬局には管理栄養士も常駐しており、未病の段階で薬剤ばかりではなく、栄養面での相談を受けることができる。町民がいざ病気になって薬局に行ったときの役割もこれまでの常識を変えるものになってくる可能性は高い。

<b>日本調剤岩手医大前薬局の待合フロア </b>
日本調剤岩手医大前薬局の待合フロア
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 将来的には、ウェルベース矢巾での運動や栄養、体組成などのデータや、病院に蓄積された検査データ、町の健診データに加え、薬局の薬歴データなどとの連携・統合や、それらデータを匿名化した上でのエビデンスづくりなど研究への活用も想定される。このとき、特に通院患者などの慢性期ケアについては、医大病院とウェルベース矢巾に隣接し、健康な時から町民と関わっている薬局・薬剤師が主体的に取り組むようになるのは自然の流れかもしれない。

<b>日本調剤東北支店営業部長の尾形氏</b>
日本調剤東北支店営業部長の尾形氏
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 日本調剤東北支店営業部長の尾形孝一氏は、「矢巾町が政府のスーパーシティー構想への応募を目指す中で、各社が町民のために進めていたことをデータ連係によってつなごうという動きになった」と振り返る。そうして矢巾町で形づくられようとしている仕組みは、まさしく「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」の将来像といえるだろう。

 フィットネスジムを運営し、データに基づいた健康プログラムを作るのは、山形市にあるベンチャー企業ドリームゲート。データを重視して健康づくりをしたとき、前述のように運動する場所は施設に縛られる必要はない。矢巾町は大自然に囲まれ、運動する場所は町全体に広がっている。新型コロナウイルス感染症の問題があるなかで、屋外で運動できれば、いわゆる三密の問題も逃れられる。そう考えると、ハードウエアに縛られずにソフトウエアを重視すると、開設直後に開催された青空ヨガのような取り組みはいくらでもやりようが出てくるのだ。

 矢巾町はウェルベース矢巾の設置と並行して、「やはば健康チャレンジ」という、参加者に体組成計を配布しデータを自ら取得しながら健康づくりに励む仕組みも始めている。町民は施設の利用費が通常の月8000円よりも安い6000円としているが、やはば健康チャレンジ参加者は5000円とさらに安価にしている。パーソナルトレーニングを付けるとそれぞれ2000円追加になる。

 吉岡氏は、「まだこれからの話にはなるが、矢巾町民の健康に関わるデータが蓄積していけば、町民へのサービスの形も変わってくるだろう。例えば、タクシー会社も、通院の予測が可能になり、タクシーの配備台数を決める判断材料を得ることができる。ウエアラブル端末を町民に利用してもらうことで、発病を予測して、通院を促す取り組みも可能。大学の研究面でも、論文の題材が町から生まれてくる可能性もあるだろう。社会課題の解決に取り組みやすくなると考えられる」と話す。