Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その注目テーマの一つが、未来のワークプレイス「Beyond Workplace」だ。

新型コロナウイルスの感染拡大を引き金に、リモートワーク・在宅勤務への取り組みが一気に加速した。働き方改革が叫ばれながらも越えることができなかった一線を、新型コロナという外圧を受け、多くの企業が踏み越えることになった。その一方でコロナ禍が長期化し、分かってきたことがある。リモートワーク・在宅勤務といった柔軟な働き方の課題や、健康面への影響だ。これらも踏まえ、今後の働き方と働く場をどう捉えるのがよいか──。オカムラ働き方コンサルティング事業部ワークデザイン研究所で働き方の研究にあたる森田舞氏と池田晃一氏に聞いた。

オカムラ働き方コンサルティング事業部ワークデザイン研究所リサーチセンターの森田舞所長(右)と池田晃一氏(写真:川田 雅宏、以下同)
オカムラ働き方コンサルティング事業部ワークデザイン研究所リサーチセンターの森田舞所長(右)と池田晃一氏(写真:川田 雅宏、以下同)
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 新型コロナウイルスの感染拡大が働き方の変革を迫るようになってから、1年半近くが経つ。働き方の1つとしてリモートワーク・在宅勤務が位置付けられ、Web会議も電話やメールと並ぶコミュニケーション手段の1つとして定着してきた。

 一方で、社員全員が毎日出社する場ではなくなったオフィスは、その再定義が求められた。「コミュニケーションの場」「経験と感情を共有する場」など、オフィスという1つの場所にわざわざ集まる意義を、各社各様で再確認する動きが広まった。

 リモートワーク・在宅勤務を経験する一方で、毎日出社していたオフィスから距離を置くようになり、分かってきたことがある。中でも注目したいのは、リモートワークが、健康面にもたらす影響だ。

 オカムラでは2021年2月、大都市圏の従業員100人以上の企業に勤める正社員でリモートワークを経験した3000人を対象に、インターネット経由の調査を実施した。テーマは、「長期化する新型コロナウイルス対策下の働き方」である。

 調査結果の中で目を引くのが、「リモートで働くことが長期化することによる健康面への影響」という設問に対する答えだ。「身体的健康」では回答者の3割弱が、「精神的健康」では回答者の3割強が、「悪い影響を受けている」と答えている(図1)。

 年代別に見ると、若年・中堅世代よりベテラン世代での悪影響が目立つ。とりわけ目を引くのは、50代だ。「身体的健康」では回答者の3割以上が、「精神的健康」では回答者の4割近くが、「悪い影響を与えている」と答えている(図2、図3)。

 なぜ、そうなるのか──。池田氏は調査結果をこう見る。「20代は組織に加わって間もないだけに、ケアが必要という認識の下、対策が図られている。しかし50代は、それがない。弱音を吐けないうえ、部下の様子が把握しにくくなる一方で上司からは相変わらず成果を求められる。見えないプレッシャーがかかりやすい立場なのではないか」。

図1●リモートで働くことが長期化することによる健康面への影響
図1●リモートで働くことが長期化することによる健康面への影響
「身体的健康」では3割弱、「精神的健康」では3割強が、「悪い影響を受けている」と答えている(出所)オカムラ働き方コンサルティング事業部ワークデザイン研究所「長期化する新型コロナ対策下での働き方・働く場 データ集」、以下同
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図2●年代別にみた身体的健康への影響
図2●年代別にみた身体的健康への影響
若年・中堅世代よりベテラン世代での悪影響が目立つ。50代の3割以上が、「(リモートワークの長期化は身体的健康に)悪い影響を与えている」と答えている
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図3●年代別にみた精神的健康への影響
図3●年代別にみた精神的健康への影響
50代の4割近くが、「(リモートワークの長期化は精神的健康に)悪い影響を与えている」と答えている
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リモート・在宅で見えにくい働き過ぎに留意

 しかもリモートワーク・在宅勤務では、会議室への移動や取引先への訪問などを伴わないため余白の時間を確保しづらい。森田氏は「余白の時間を確保しづらい中、健康面での悪影響がベテラン世代で目立つ。これは今後、課題になる」と指摘する。気を付けたいのは、働き過ぎだ。

 池田氏は「一人ひとりの働きが目に見えない分、リモートワークは働き過ぎを生む懸念がある。働き方の柔軟性を高め、裁量の幅を広げるのはいいが、日本人は長時間労働に慣れているだけに、健康面への影響に留意すべきだ」と警告を発する。

 もともと、柔軟な働き方を研究テーマにすえてきた池田氏。きっかけは、東日本大震災だ。「余震や原発事故の影響で出社できない状況になった際、それまでの、全員が同じ時間に同じ場所に集まって働くことでは対応できないことが分かった」(池田氏)。

 柔軟な働き方とは、どのようなものか。「柔軟」には、3つの要素がある。まず「時間」である。就労時間の縛りを緩め、働きたい時間に柔軟に働けるようにする。フレックスタイム制をはじめ、様々な制度が確立されてきた。

 次に「場所」。働く場所はオフィスに限らない。シェアオフィスや自宅など働きたい場所で柔軟に働けるようにする。リモートワーク・在宅勤務は一例だ。

 最後は、「タスク」。人生の中でやりたいこと、やるべきことは、仕事に限らない。家事もあるし、学びもある。それらを一塊の「タスク」と位置付け、例えば1日の中、1週間の中、1カ月の中で、柔軟に組み合わせられるようになるのが理想だ。

 ただ、どの程度の柔軟性が必要なのかは個人によって異なる。組織で一律に決められない。池田氏は「個人と組織に合わせ、柔軟性をどう確保するのがいいのか──。個人個人が互いの事情を認め合いながら設計できるようになればいい」と訴える。なぜ、そうした柔軟な働き方が求められるのか。

 池田氏が柔軟な働き方の先に見すえるのは、人生の豊かさだ。「仕事でがんじがらめに縛られる人生は、豊かでない。自律的に働くことで、仕事以外の部分も満たされてこそ、幸せ。やりがいを感じる。そのためには暮らしたい場所に住み、やりたい仕事に就ける。その実現が、究極の目標だ」。とはいえ、そうした自律的な働き方の実現に課題があることも見えてきた。

「コロナ禍により、健康面で疲れが目立つベテランワーカーが増えており、今後大きな問題になる」と森田氏
「コロナ禍により、健康面で疲れが目立つベテランワーカーが増えており、今後大きな問題になる」と森田氏
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組織としての仕事の成果をどう上げていくか

 課題の1つは、必ずしも全員が自律的な働き方を求めてはいないという事実だ。リモートワーク・在宅勤務が選択肢の1つとして定着する中、森田氏は「自律的な働き方の実現こそが幸せと思っていたが、そうでもない。そうした働き方を望んでいない人も一定の割合いることを実感するようになった」と明かす。自分で物事を決めたり、やり方を決めるといったことにプレッシャーを感じる人達もいるのだ。

 そうした姿勢にも配慮する必要がある。「働き方や暮らし方、そして幸福感は人それぞれ違う。自律性を追求しない考え方も多様性の1つとして認められるべき。その前提の下、組織としてどう対応するか、管理職としてどう対応するかが問われる」と森田氏。どのような職種に柔軟性を求めるか、次の段階として判断が迫られるという。

 もう1つの課題は、組織としての仕事の成果をどう上げていくかという点である。池田氏は「自律的な働き方によって個人の仕事の成果は上がる。しかし、組織のメンバーとコミュニケーションを取りながら進めていく仕事は、時間と場所を他のメンバーと合わせる必要があり、個人の判断だけではうまく回らない。例えば、どの程度の時間をともに過ごすことが成果の引き上げにつながるのか、見極める必要がある」と指摘する。

 ここにきて分かってきたこととは、見方を変えれば、「リモートワーク・在宅勤務」での、また「オフィスでのコミュニケーションの在り方」の課題とも言い換えられる。リモートワーク・在宅勤務でのコミュニケーションを考える上でヒントになるのは、Web会議の使い方だ。この1年半近く、多くの人がWeb会議を介したコミュニケーションの経験を積み、参加の仕方にも慣れてきた。使い始め当初はコロナ禍での次善の手段という嫌いが強かったが、最近ではそのメリットが積極的に評価されるようにもなった。

 例えば池田氏が自社でのやり方を基に評価するのは、資料の共有が進んだという点だ。「Web会議では開催前に資料が共有されることが多いため、事前に目を通しておくことができるようになった。また発言時には自身の資料を共有しながら意見を述べるようにもなった。対面の会議に比べ、共有される情報量が増え、理解度も深まった」。

 ただ、それをもっと使いこなすための作法や話法があるのではないか、という。「例えば電話には、『もしもし』という作法・話法がある。そうした作法・話法が、オンラインでのコミュニケーションについてはまだ確立していない」(池田氏)。

「働く場の使い分けには、どの程度の時間をともに過ごすことが成果の引き上げにつながるのか、見極める必要がある」と池田氏
「働く場の使い分けには、どの程度の時間をともに過ごすことが成果の引き上げにつながるのか、見極める必要がある」と池田氏
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気持ちを盛り上げるのもオフィスの役割

 オンライン・コミュニケーションの作法・話法が確立され、Web会議をフル活用できるようになれば、対面ではなくむしろオンラインで開催しよう、という会議がもっと生まれていく可能性が見込める。とはいえ、リモートワーク・在宅勤務が強いられるわけではなく、従来通りの働き方で出社を望む人はオフィスからWeb会議に参加すればいい。

 オフィスでのコミュニケーションを考える上では、今後、一人ひとりが時間を調整し1つの場所にわざわざ集まるようになると、その分を成果につなげることを意識したい。それはつまり、オフィスとはどのような場なのか、組織として成果を上げることに目を向けた再定義が求められるということだ。

 あらためてオフィスという場の役割は何か──。池田氏の見方は、「仕事の成果を高めるようなホルモンを分泌させる場」である。「離れ離れだと、みんなで仕事に取り組んでいても、ドキドキ、ワクワクすることがなく、一体感や達成感が生まれにくい。気分を盛り上げるのが、オフィスという場の役割ではないか」。

 空間のキーワードは、非効率と多様性である。「昔のオフィスは、オペレーションを効率良く進めるための空間。滞りなく、またエラーなく、短時間に、仕事を右から左へ流していく、均質で刺激がない工場のようなものだった。ホルモンを引き出すには、その真逆のつくりが求められる。好みの空間に身を置けるように、デザインには多様性も打ち出していく必要もある」(池田氏)。

 コロナ禍を背景に大きく変わりつつある個人個人の働き方と、組織としての成果を生み出すオフィスという働く場。今後の研究に向けて、どのような問題意識をいま持つか。

 森田氏が挙げるのは、「幸福感」と柔軟な働き方を巡る日本企業としてのバランス確保だ。「柔軟な働き方が目指すのは、誰もが幸福感を抱けること。ただ、柔軟性をどの程度まで確保するのかという点は、日本企業としてのバランスがあると思う。自律や個人の幸福を追求する一方で、組織としての成果や企業の存在意義も模索していく必要がある」。

 池田氏は「美しさ」を挙げる。「オフィスには今後、『美しさ』が求められる。『美しさ』とは単純に華美につくるということではない。オフィスは会社組織の思想、社会や社員に対する姿勢を表すものでもあるから、オフィスが貧相であれば、その会社の理念も貧相ということになりかねない。オフィスに『美しさ』が感じられ、まっとうにつくられていれば、社員は会社から大事に扱われていると思い、期待に応えようという使命感も生まれる」。

 一人ひとりが自らの働き方をデザインするようになる流れは加速するに違いない。時代の流れの中、会社組織はどのような働き方を求め、どのような働く場を提供するのか──。根っこに「幸福感」「美しさ」に象徴される哲学が求められる時代を迎えている。

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(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

【お知らせ】
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[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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