Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を創る」ためのビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その一つとして掲げているのが、「Beyond Mobility(未来のモビリティ)」だ。

モビリティの活用により住民の健康促進目指す──。そんな取り組みをフィリップス・ジャパンと青森市が進めている。取り組みの狙いを紹介した前編に続き、今回は実証の様子をお伝えしていく(関連記事:[前編] “偶然の出合い”をモビリティで演出、無関心層へのリーチ目指す)。

フィリップス・ジャパンと青森市による専用モビリティ(写真:近藤 寿成、以下同)
フィリップス・ジャパンと青森市による専用モビリティ(写真:近藤 寿成、以下同)
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 今回取材したのは、2021年6月末に浪岡総合保険福祉センターで実施された、モビリティを活用した予防サービス(フレイル/生活習慣病)の簡易ヘルスチェックである。

浪岡総合保険福祉センターの外観
浪岡総合保険福祉センターの外観
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 フィリップス・ジャパンと青森市は、2019年2月に締結した「ヘルステックを核とした健康まちづくり連携協定」に基づき、2020年度からモビリティを活用した予防サービス(フレイル/生活習慣病)に着手した。これらのサービスの実施拠点として運用していくため、両者は2021年5月末に「あおもりヘルステックセンター」を浪岡病院(同市)内に開設。さらに、青森県立保健大学と連携し、三者での連携協定を締結した。

 今回の簡易ヘルスチェックは、この一環の実証である。前編で紹介した通り、ここにモビリティを活用する狙いは、「どこでも参加できる仕組みを構築する」(フィリップス・ジャパン Solution CoE ソリューション事業推進部マネジャーの望月佑帥氏)こと。高齢者の社会参加の機会や場が少なく閉じこもりがちであることや、特定健診受診率が低迷している現状に対し、モビリティの活用により高齢者や働き盛り世代への簡易ヘルスチェックを提供しようというわけだ。

 今回のように、近隣の集会所など、一定のスペースを有する場所を借りつつ、そこに機材などを搭載した専用モビリティを併用して簡易ヘルスチェックを実施する、というのが想定する基本スタイルとなる。ただし、コロナ禍により、不特定多数の人が集まるイベントの実施が難しく、事前の告知もできていない状況にある。そうした中で、「他のイベントとの抱き合わせ」による簡易チェックを進めている。

 今回の簡易ヘルスチェックは、同センターで実施されるデイサービスの入浴サービスと組み合わせる形で実施していた。入浴サービスで現場に訪れた人たちに、ついでにヘルスチェックにも参考してもらうという具合だ。約10人の高齢者が簡易ヘルスチェックに参加した。

浪岡総合保険福祉センター内になる入浴施設の入口
浪岡総合保険福祉センター内になる入浴施設の入口
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コンソーシアム参加企業のソリューションを活用

 実施していた簡易ヘルスチェックの実施内容は、「受付」「血圧・野菜摂取測定」「身長・体組成測定/運動機能測定」「握力測定・歩行速度測定」「認知機能チェック」「フレイル問診/結果報告/健康相談」「アンケート」という7つの項目。前述のヘルステックを核とした健康まちづくり連携協定に基づき設置された「あおもりヘルステックコンソーシアム」に参加する各企業のソリューションを活用しながら設定した項目である。

 この中身について、フィリップス・ジャパンの望月氏は「予防領域を意識して選定した。具体的にはフレイルや生活習慣病の予防となる」と説明する。もっとも、実証段階であるため、今回の設定内容が完成形というわけではない。今後も必要に応じて「取捨選択しながら変化させていく」(同氏)考えだ。

 今回実証していた各パートの中身を、それぞれ詳しく紹介していこう。まず「受付」では、参加者の基本情報の記入や同意書内容の確認/署名などを行う。担当スタッフは市職員が務め、身分証明書の確認や参加者情報の登録、参加者IDの発行、同意書の確認・保管などを受け持つ。参加者のデータは、コンソーシアムに参画するインテグリティ・ヘルスケアのオンライン診療・疾患管理システム「YaDoc」を活用する。

「受付」の様子
「受付」の様子
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 「血圧測定/野菜摂取測定」では、まず血圧計で血圧を測定。次に、カゴメの野菜摂取量推定機「ベジチェック」を利用し、野菜摂取レベルと推定野菜摂取量を計測する。これらのデータを基に、担当スタッフである保健師あるいは管理栄養士が、その場で参加者に簡単なアドバイスを伝える。なお、モビリティカーが運用されている場合、このパートは車内で実施されることになるという。

野菜摂取量推定機「ベジチェック」では、センサーに親指の付け根部分をかざすと数十秒程度で結果が表示される
野菜摂取量推定機「ベジチェック」では、センサーに親指の付け根部分をかざすと数十秒程度で結果が表示される
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 「身長・体組成測定/運動機能測定」では、タニタの体組成計などを使って身長、体重、BMI(肥満度)、筋力総合評価(SMI)を測定。さらに、タニタの運動機能分析装置「ザリッツ」を使用し、椅子に座った状態から手を使わずに素早く立ち上がり、その後また座る動作から総合的な運動機能を測定する。また、ここでの測定結果は紙にプリントアウトされて参加者に手渡される。

利用者の足元にあるのが運動機能分析装置「ザリッツ」。腕を交差して肩に触れながら、素早く2回の起立と着席を繰り返して計測する
利用者の足元にあるのが運動機能分析装置「ザリッツ」。腕を交差して肩に触れながら、素早く2回の起立と着席を繰り返して計測する
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 「握力測定・歩行速度測定」では、握力計で両手の握力を計測するとともに、7mを歩く時間(=速度)を測定。国立長寿医療研究センターによるフレイル評価基準(2020年)では、握力は「男性28kg未満、女性18kg未満の場合」、歩行速度は「1m/秒未満の場合」とされている。

歩行速度測定では床のラインを目印とし、担当スタッフが一緒に歩きながら時間を計測する
歩行速度測定では床のラインを目印とし、担当スタッフが一緒に歩きながら時間を計測する
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 「認知機能チェック」では、iPadを使って簡単な記憶や識別テストなどを実施し、軽度認知障害リスクを判定する。チェック内容には「記憶力」「言語能力」「判断力」「計算力」「遂行力」があり、5つの認知機能の得点によって認知機能の低下を判断する。

iPadを使った「認知機能チェック」の様子
iPadを使った「認知機能チェック」の様子
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「青森モデル」を生み出す

 「フレイル問診/結果報告/健康相談」では、担当スタッフの保健師あるいは管理栄養士による「MNA-SF(簡易栄養状態評価表)問診」やフレイル・生活習慣病問診などが行われるほか、結果報告や個別の健康相談などにも対応する。また、担当スタッフはここですべての測定結果をiPadを使ってYaDocに記入する。なお、このパートもモビリティカーがある場合は車内で実施される。

「フレイル問診/結果報告/健康相談」では、1kgの脂肪の模型なども用意しながら、健康へのアドバイスなども行っていた
「フレイル問診/結果報告/健康相談」では、1kgの脂肪の模型なども用意しながら、健康へのアドバイスなども行っていた
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モビリティカーでの「フレイル問診/結果報告/健康相談」のイメージ
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モビリティカーでの「フレイル問診/結果報告/健康相談」のイメージ
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モビリティカーでの「フレイル問診/結果報告/健康相談」のイメージ

 そして最後の「アンケート」では、今回の取り組みに対するアンケートを実施。この後に参加者へ特典が受け渡され、すべての行程は終了となる。

 現状では、検査中は計測結果を紙に記録し、それを最後にiPadを使って入力するアナログな仕組みになっている。ただし、このやり方自体も最終形ではない。例えば「iPadをもっとたくさん用意して被験者1人ずつに持ってもらい、検査後すぐにデータを入力しながら進める」(望月氏)ことも想定しているという。

紙に記録した検査結果は、最後でiPadを使ってYaDocに入力される
紙に記録した検査結果は、最後でiPadを使ってYaDocに入力される
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 「どんな項目を計測すべきか」についても、こうした実証を通し、連携協定を締結した青森県立保健大学の知見を交えながら検証を進めていく。その点でも「青森県立保健大学が参画している価値は大きい」と望月氏は言う。

 青森県は平均寿命が最も短い都道府県として知られている。さらに、今回の実証の舞台となった浪岡地区は、高齢化率や人口密度が全国の市区町村の中央値に近いことから、同地区の課題解決が全国に通用するモデルの創出につながるとフィリップスは見る。同社はこのプロジェクトを通じた取り組みが、自走可能な事業モデルとなるように運用・実証を重ねていく考え。中長期的には、「青森モデル」をベースに、日本全国や世界に向けて課題を持つ地域の解決に努める構えだ。

――後編に続く――

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)