Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。2030年に向けて、人間が生活を営む街のあらゆる空間を予防や健康増進に資するものにしていくというコンセプトだ。

2020年6月、人口減少と少子高齢化が進む和歌山県海南市に新しい図書館「海南nobinos(ノビノス)」が誕生した。さまざまな仕掛けで市外からも多くの子どもたちが集まる同施設は、いまや市民の誇りとなりつつある。

そして2025年4月、海南市に今度は新しい公園ができるという。図書館と公園。実は、この二つを通して海南市は壮大な未来図を描いている。

前編では、図書館事業にスポットを当て、ノビノス誕生の背景やコンセプト、実際の建物内の一部を紹介した。後編は引き続きノビノス内部の様子をお届けするとともに、これから始まる公園事業を通じて、海南市が描く未来図を追う。

海南市が取り組む図書館と公園事業のキーパーソン、宇尾崇俊氏(写真:石田 高志、以下同)
海南市が取り組む図書館と公園事業のキーパーソン、宇尾崇俊氏(写真:石田 高志、以下同)
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 JR海南駅から徒歩10分弱の場所に誕生した、図書館がメインの市民交流施設「海南nobinos(ノビノス)」。前編では触れなかったが、このネーミングには、「のんびりする」「のびのびできる巣」という意味が込められている。

 4階は、さまざまな色にあふれた2階や3階とはうってかわり、茶系統のシックな色合いで統一された落ち着いた雰囲気の空間が広がっていた。ノビノスの施設整備を担当した宇尾崇俊氏(海南市まちづくり部都市整備課課長補佐)によると、「このフロアは主に学生や大人をターゲットにしていて、本に集中できるようにした」という。本が並ぶメインライブラリー、吹き抜けに挟まれた学習席、閲覧ラウンジの大きく三つで構成されている。

 メインライブラリーには、小説や実用書だけではなく、漫画やライトノベルなどもそろう。図書館を敬遠しがちな人たちにとっての親しみやすさを考慮してのことだ。

 また、「これを見てほしい」と宇尾氏が連れて行った先には何やら高額そうな本が。「色・デザインの本」コーナーに置かれていた『アジアカラートレンドブック』。アジアを起点としたデザイントレンドブックで、その年のアジアのクリエーターの作品や取材記事、また実際に触れることのできる素材が添付されている。販売価格は30万円。そんな高額本が自由に閲覧できるようになっているのだ。

「色・デザインの本」コーナーに置かれたデザインブック
「色・デザインの本」コーナーに置かれたデザインブック
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 「この書籍が公共図書館で所蔵されるのは初めて」と宇尾氏。そこには強い信念があった。「こうやって置いておくことで、もしかしたら子どもたちが触って壊してしまうこともあるかもしれない。けれど、だから子どもは触るな、限られた大人だけに特別に閲覧を許可するなんてことをやっていたら、子どもはその存在を知らず、興味を持たないまま終わってしまう。自由に閲覧できた方が子どもにとって将来的にはプラスですから」

 宇尾氏は大学時代、プロダクトデザインを学んでいた。自身の経験上、子どものころから感性が育まれる環境に置かれることの大切さをよく知っている。

シックな色合いのメインライブラリー
シックな色合いのメインライブラリー
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漫画コーナーは隙間をあけて配置し、おしゃれな陳列にこだわった。ブックエンドは市販品を宇尾氏が一つひとつセレクト
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漫画コーナーは隙間をあけて配置し、おしゃれな陳列にこだわった。ブックエンドは市販品を宇尾氏が一つひとつセレクト
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漫画コーナーは隙間をあけて配置し、おしゃれな陳列にこだわった。ブックエンドは市販品を宇尾氏が一つひとつセレクト

図書館は親が子供を連れてきてもうしろめたさを感じずに済む

 4階フロアの中央部には吹き抜けに挟まれた学習席が用意されている。あえて四方を覆うことはせず、間口は開かれたオープンスペースとした。「ドアをつけて完全個室にした方が、もちろん中は静か。けれど、閉鎖空間は少しの音でも気になるもの。50デシベル程度の雑音があった方が集中力が高まるといわれていて、学習は進むので」と宇尾氏。エビデンス重視の設計なのだ。

吹き抜けに挟まれた学習席
吹き抜けに挟まれた学習席
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 窓際に配置された閲覧ラウンジは、ノビノスでも1、2を争う人気のエリアだ。実はこの席、座ると鳥の鳴き声や川のせせらぎの音が聞こえる。頭上と足元のスピーカーからそれぞれBGMとして流しているのだ。リラックス効果を高める工夫に余念がない。

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窓際の閲覧ラウンジ。座席間隔が広くゆったり座れる
窓際の閲覧ラウンジ。座席間隔が広くゆったり座れる
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 これまで見てきた通り、ノビノスは子どもも大人も楽しめる空間に仕上がっている。居心地の良さは折り紙つきだ。

 「当初、自分の中でライバルは大手ショッピングモールと言い聞かせていた」と宇尾氏。その真意を尋ねると、向こうは、フードコートあり、映画館あり、おもちゃショップあり、など小さな子どもを連れて長い時間を楽しめる。だからこの図書館も一日中いても飽きないように工夫を凝らしたという。

 すると、あることに気づいた。「子どもを連れていく場所として、親はショッピングモールより学びの場である図書館の方がうしろめたさを感じずに済む。しかもここは公共施設なのでタダ。思わぬ出費も生じない」。子育て経験者ならだれもがうなずくところだろう。「そんなメリットを存分に感じてもらえれば」と宇尾氏は語る。

 実際、ノビノスは子どもたちから大人までが集い、活気にあふれている。市外からも多くの子どもたちが訪れ、いまや市民の誇りとなりつつある。

遊びのように見せかけて防災に関する技術や知識が学べる公園

 海南市が街づくりの一環として進めたノビノスは無事完成し、にぎわいの創出も成功させた。だが、同市の挑戦はそれだけにとどまらない。市の魅力を高めるとともに、南海トラフ巨大地震などの発生に伴う大規模災害への対応能力を高めるため、今度は新しい公園を作るのだ。敷地面積は約16.2ヘクタールと膨大で、平常時にはにぎわいを生みつつ、災害時には避難や救護活動、応急仮設住宅用地として利用するほか、災害時を想定したキャンプ体験などもできる場として整備する方針。完成は2025年4月を予定する。

 仮称は「海南市中央防災公園」。実際にその具体的なイメージづくり任されたのはまたしても宇尾氏だった。「これまた難しい仕事で、少しは休ませてほしいと思いましたよ」。セリフとは裏腹にどこか楽し気な口ぶりだ。

 宇尾氏がその任務を受けたのは今年4月。以来、持ち前の実行力で、さまざまな調査・分析などを行ってコンセプトをまとめあげた。

 「子どもの感性を育み、好奇心を刺激する、居心地の良い空間を目指したノビノスは、市外からも多くの子どもたちがやってくる、いわば『知と学びの拠点』。そこから発想して、新しい防災公園は、自然に囲まれ子どもたちの歓声が聞こえる、そして、いざというときにみんなを守る、海南市民にとっての『遊びと安心の拠点』と位置付ける」──。そんな絵姿を描いた。

 「この二つの拠点があるからこそ、海南市に住みたい、住み続けたい、そう思ってもらえることを目指した」とも語る宇尾氏。それは、人口が5万人でこの先も人口減・少子高齢化が進むとされる海南市の未来を切り拓くための挑戦とも言い換えられる。

 今年7月、公園整備とその後の管理運営を担う事業者を公募するにあたり、宇尾氏は具体的なイメージがつかみやすいよう、この新たな防災公園のコンセプトシートをまとめた。

2025年に誕生予定の海南市中央防災公園(仮称)の鳥観図(コンセプトシートより)
2025年に誕生予定の海南市中央防災公園(仮称)の鳥観図(コンセプトシートより)
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 中央防災公園のキーワードは、たくさんの「体験」が得られる場所であること。自然・防災・テクノロジー・科学・エネルギーなどに関する多様なコンテンツがそろい、子どもはもとより大人も遊びながら体験を通じて自然と必要な知識や技術が身につくことを目指している。

 膨大な敷地にはテントやコテージ、ツリーハウスなど多様な宿泊施設を設け、バーベキューができる場所なども用意する予定。ただ、そこまでなら、巷間のアウトドアブームに単に乗っかっただけに過ぎない。バーベキューをするなら、食材の配送にはドローンを使う、火おこしや薪割りは自力で、何なら水のろ過作業も行う。そのための技術を教えてくれる場所もセットで整備する。

 そうした体験学習施設は多岐にわたり、複数のコンテナを設け、それぞれ太陽光発電、センシング技術、水力発電、プログラミング、DIY技術など、最新テクノロジーや災害時に予測される不自由を補う技術を学べるようにする。また、3Dプリンタで仮設住宅を作るといった体験も可能にする。

新しい防災公園で遊び・学べる事柄の例(コンセプトシートより)
新しい防災公園で遊び・学べる事柄の例(コンセプトシートより)
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 宿泊施設は、災害時にはそのまま仮設住宅や、新たに立ち並ぶ仮設住宅の核となる施設にすることも想定。そのため、当初から電力供給に頼らないオフグリッド施設として、自家発電などができるようにしておく。

 これらの取り組みは今、世界がめざす「サステナブルな社会」の実現とも整合する。

 デジタル・先端技術を遊びに使う。また想像力を養って防災を学ぶ。これを公園を舞台に行うというのだから面白い。それが実際魅力あふれる街づくりにつながるのか。完成予定の4年後を見届けたい。

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(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

【お知らせ】
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[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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