Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を創る」ためのビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を進めている(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その一つとして掲げているのが、「Beyond Mobility(未来のモビリティ)」だ。

モビリティの活用により住民の健康促進目指す――。そんな取り組みをフィリップス・ジャパンと青森市が進めている。前編では今回の取り組みの狙い、中編では簡易ヘルスチェックの実証の様子をお伝えした。後編となる今回は、取り組みを通じて得たデータ活用やフィリップスとしての今後の展望などについて追った。

フィリップス・ジャパンと青森市による専用モビリティ(写真:近藤 寿成)
フィリップス・ジャパンと青森市による専用モビリティ(写真:近藤 寿成)
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 前編で報じた通り、予防サービス(フレイル/生活習慣病)においてモビリティを活用する狙いは、「どこでも参加できる仕組みを構築する」(フィリップス・ジャパン Solution CoE ソリューション事業推進部マネジャーの望月佑帥氏)ことにある。高齢者の社会参加の機会や場が少なく閉じこもりがちであることや、特定健診受診率が低迷している現状に対し、モビリティの活用により高齢者や働き盛り世代への簡易ヘルスチェックを提供しようというわけだ。

 同時に、フィリップスとしてはこの取り組みを通じて得たデータを分析することで、新たな知見を得ることを目指している。今回のプロジェクトで集めたデータは、インテグリティ・ヘルスケアのオンライン診療・疾患管理システム「YaDoc」に集約される。匿名化の加工を施した上でフィリップスのデータサイエンティストによって分析され、「次の新たなサービスにつなげていく」(望月氏)。

オンライン診療・疾患管理システム「YaDoc」にデータを打ち込んでいる様子(写真:近藤 寿成、以下同)
オンライン診療・疾患管理システム「YaDoc」にデータを打ち込んでいる様子(写真:近藤 寿成、以下同)
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 専用モビリティが完成する以前の2020年度から、簡易ヘルスチェック自体は先行して青森市の浪岡地区や青森市の青森トヨペット(3つの店舗と本社の計4か所)で実施してきた。2020年度では8回の実施で82人分のデータが集められたという。望月氏によれば、これではまだ浪岡の現状を語れるほどの数ではないものの、少ないながらもデータを分析していくと、全国と比べて「高血圧の人がかなり多いといった傾向が見えてきた」そうだ。データがさらに蓄積されていけば、「より具体的な結果や傾向が見え、そこから具体的な予防対策なども出てくるはず」(同氏)と期待する。

 フィリップスと青森市は2021年5月末、青森県立保健大学と三者での連携協定を締結。青森市民の健康課題解決においてモビリティがもたらす効果の検証など、産官学連携による成果の創出を目指す考えだ。アカデミアの立場で参画する青森県立保健大学 副理事長・副学長の吉池信男氏は、これまでは「フィージビリティ(実行・実現の可能性)を見てきたが、2021年度は検査対象に対しての繰り返し測定による勧誘的な効果の有無を確認する他、モビリティの特性を踏まえた上でのアウトリーチを考えることも極めて重要だ」と語る。

左がフィリップス・ジャパン Solution CoE ソリューション事業推進部マネジャーの望月佑帥氏。右上の左側が青森県立保健大学 副理事長・副学長の吉池信男氏(写真:オンライン取材のキャプチャー)
左がフィリップス・ジャパン Solution CoE ソリューション事業推進部マネジャーの望月佑帥氏。右上の左側が青森県立保健大学 副理事長・副学長の吉池信男氏(写真:オンライン取材のキャプチャー)
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5月末に開設されたばかりの「あおもりヘルステックセンター」を見た

 モビリティを活用した予防サービス(フレイル/生活習慣病)のデータ分析において、今後、重要な拠点になるのが2021年5月末に青森市立浪岡病院内に開設された「あおもりヘルステックセンター」だ。浪岡地区の住民の医療・健康に関する需要を分析するとともに、その結果を活用して新たなサービスなどを企画・推進することを目的としている。

青森市立浪岡病院内にある「あおもりヘルステックセンター」の入口
青森市立浪岡病院内にある「あおもりヘルステックセンター」の入口
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 あおもりヘルステックセンターにおけるデータ分析の試みこれからになるが、現在はIoT機器やセンサーを活用した「見守りサービス」に取り組んでいる。同サービス自体は、2020年12月に本格的にスタート。見守る対象である利用者の自宅に赤外線センサーや生体センサー、電力センサー、センサーマットなどを設置。利用者の行動や家電製品の利用状況をチェックし、呼吸や脈拍、眠り状態などを確認する。気になる動きや異常などがあれば、アラートが出るようになっている。

 利用者の状況については、同センターに常駐する専属の看護師がパソコンでチェックする。アラートが出た場合は、看護師がテレビ電話を使って利用者の現状を確認。介護施設での利用者であれば介護施設のスタッフに直接連絡するほか、訪問介護の利用者であれば訪問看護師にお願いするような仕組みになっている。将来的には24時間体制での見守りを目指しているが、現在は看護師が勤務する日中のみの対応となる。

「あおもりヘルステックセンター」の様子
「あおもりヘルステックセンター」の様子
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看護師が利用者との連絡に利用するテレビ電話は、利用者側にも同じものが設置されている。しかも、患者側は画面をタッチするだけで、あおもりヘルステックセンターの看護師にすぐつながるようになっているそうだ
看護師が利用者との連絡に利用するテレビ電話は、利用者側にも同じものが設置されている。しかも、患者側は画面をタッチするだけで、あおもりヘルステックセンターの看護師にすぐつながるようになっているそうだ
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 この取り組みで想定するのは、「将来的な医療従事者、介護従事者の不足に対応するための仕組み」(青森市立浪岡病院 事務局総務管理チーム 主幹の田澤賢氏)である。現在は実証段階のため国の補助金制度を利用して運営しており、利用者の負担は無料。制度が利用できるのは2022年度までのため、「それ以降の運営を可能にするための仕組みづくりが課題」(同氏)だとした。

 なお、この取り組みで利用している各センサーやIoT機器は「あおもりヘルステックコンソーシアム」に参画する企業の製品を組み合わせている。「各企業にはセンサーや機材の活用方法の検討にも参加してもらっており、年2回程度のペースで改善を進めている」(田澤氏)という。

フィリップスが描く展望とは

 モビリティの活用により住民の健康促進目指す今回の取り組みは、もちろん今後のモビリティ技術や5Gなどの通信環境の進化と連動して変化していく。例えば、「自動運転」の進化もその一つ。

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 フィリップスは、自動運転の進化をどう融合させていくのか。「ヘルスケアにおいては『車で移動する』というデマンドに対しての自動運転よりも、健康データの需要に対して『自動運転をうまくマッチさせていく』ような世界感になる」と望月氏は説明する。健康のためになるような何らかの仕掛け(あるいはデータ)を用いて「自動的に何かを届ける」といった世界観を見据えているとした。

 フィリップスとしては青森市とのプロジェクトを進めていくことで、医療機器や家電製品の“メーカー”というイメージの脱却を図りたいとの思いがあるという。今回のような取り組みから、「本当に必要とされていることや課題を見極め、そのためのソリューションを新しく作ってビジネス化していくことを見据えている」――今回の取り組みの本質的な狙いはここにあると言えるのかもしれない。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)