Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会を描くためのビジョンとして「空間×ヘルスケア 2030」を提案していく。このほど、それを実現するための新プロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」をスタートさせた(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。

同プロジェクトでは、2030年に実現を目指す「空間」をイメージして、イラストで分かりやすく表現した未来の旗印(Visionary Flag)を示していく。第1弾として、住宅・オフィス・薬局の未来像を描いた「 Beyond Home(未来の住宅)」「Beyond Office(未来のオフィス)」、そして「Beyond Pharmacy(未来の薬局)」という3つの旗を掲げた。

このうち今回の記事では、「Beyond Office(未来のオフィス)」に焦点を当て、どのような未来像をイラストに投影したのかを説明していく。ただし、このイラストはまだ完成形ではなく、たたき台の段階だ。これを原案とし、皆さんと議論しながら新たな知見を加え、2030年に向けて新たな「空間×ヘルスケア」を創造していく考えだ(本イラストや記事内容に対する議論、お問い合わせはこちらにお寄せください)。

Beyond Healthが、2030年に実現しているべき「オフィス」空間をイメージしてイラスト化したBeyond Office(未来のオフィス)。今回の記事では、ここに盛り込んだ内容について解説していく(イラストレーション:©kucci,2020)
Beyond Healthが、2030年に実現しているべき「オフィス」空間をイメージしてイラスト化したBeyond Office(未来のオフィス)。今回の記事では、ここに盛り込んだ内容について解説していく(イラストレーション:©kucci,2020)
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、オフィスの存在価値が問われ始めている。外出自粛を余儀なくされ、多くの企業がオフィスに通勤せずに在宅勤務を推奨するようになったからだ。仕事に必要な“道具”さえあれば、オフィスでなくても働けることが実体験によって証明され、多くの企業がこれからのオフィスの在り方に頭を悩ませている。

 Beyond Healthでは、そうした実態も踏まえた上で、やはりオフィスは必要な存在だと考えている。理由は二つある。第一に、従業員の健康を戦略的に支援する健康経営のため。第二に、イノベーションを創発するためである。

 健康経営は引き続き企業の重要課題だ。オフィスは、従業員の健康管理や健康増進をしていく上でのハブとなるだろう。一方、イノベーションの創発には、コミュニケーションの活性化が不可欠である。偶発的な出会いやひらめきを助勢するために、対面で集まることができるオフィスは欠かせない。

 従業員の健康と幸福を創り出し、企業の一体感を高めてイノベーションにつなげる──。そのために、オフィスという“空間”を設ける。それが、Beyond Officeのコンセプトだ。その中身を具体的に見ていこう。

従業員のデータを取得し活用する

 まず特徴的なのは、従業員の健康を管理するための「スクリーニング&ヘルスケアサポート」という役割をオフィス内に設置している点だ。ここでは、従業員のバイタルデータや行動データに加え、環境データなどをセンシングする。もちろん、データの取得に当たってはプライバシーの問題を考慮しなければならない。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 導入技術の一例として、排泄物のセンシングを行う「スマートトイレ」をイラストに盛り込んだ。呼気で健康状態をスクリーニングしたり、ノートパソコンに内蔵されたカメラで心拍や呼吸の測定をしたりする技術の導入も考えられる。こうした新たな技術は、自宅や個人では導入できなくても、オフィスであれば導入しやすい可能性がある。

 一週間のうちの多くの時間を、私たちは仕事に使っている。だからこそ、就業時間中のヘルスケアデータを取得する価値は大いにある。ここで取得したデータは、例えば「Beyond Pharmacy(未来の薬局)」と共有し、そのデータを基に未来の薬剤師として位置付けた「ヘルスケア・マイスター」が介入すれば、健康な街づくりに生かすことも可能だ。

 オフィス内では、スクリーニングしたデータを「パーソナライズド人間拡張スペース」で活用する。ここは、データを基に、個人が最も集中したり創造性を最大化したりできるように最適化する空間である。技術を活用することで、人間が本来持っている能力が拡張されるイメージだ。例えば、脳波に良い音楽や集中できる空調、疲れない香りなどを最適化する。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 従業員の健康データがオフィス空間で取得できるようになれば、保健指導にも役立ちそうだ。健康保険組合は、従来よりも細やかなデータに基づいた健康指導ができる可能性があるだろう。

オフィス環境は街にも飛び出す

 執務スペースは、データに基づき最適化をすることはもちろん、仕事内容や体調・気分に応じて、従業員が日々自分で好きな場所を選べるようにする。働く場所を自分で選ぶことで、内発的モチベーションの増加や、従業員の幸福感の向上につながる。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 もちろん、オフィス以外の場所で働く選択も可能である。自宅で仕事をする場合は、十分なスペースがなくても集中できるよう、ヘルメット型デバイスを装着すればオフィスの風景や会議環境が映るという技術も活用したい。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 オフィス家具大手のイトーキでは、仕事を「電話/Web会議」「アイデア出し」「リチャージ」など10の活動に分解し、その日行う活動に最も適した働く場所を選択できる環境を整えている(関連記事:これがポストコロナのオフィス空間・働き方だ!)。例えば、集中作業ならデスク、電話/Web会議は専用ブース、リラックスしたいコワークの時間はカフェなど街中の施設──といった具合だ。リチャージ(休憩)ができるよう、マインドフルネスを実践するスペースや少人数で一息つけるスペースも設けている。

 Beyond Office構想では、ショッピングモールなど街中の施設に仕事をするためのコックピット型のスペースを設置したり、移動しながら会議ができる専用車を導入したりすることを想定した。オフィス内部だけではなく、働く環境が街に溶け込んでいくイメージだ。地域との連携は場所を利用するだけではなく、地域に住むリタイア後の高齢者や企業のOB・OGである「アルムナイ」の知見やノウハウを借りることも考えられる。

偶然の出会いでアイデアの創出を

 執務スペースの一つとして、入り口付近にはショウルームを設置した。異業種が集うクリエイティブルームとして活用したいスペースだ。社外の人との接点や、思いがけないものを発見するセレンディピティを加速させる場所として使えそうだ。人が集まれる場所を設けることで、偶発的な出会いやアイデアの創出を促すことを狙う。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 オフィス内には、会議スペースも設ける。テレビ電話などを通じて参加者全員が遠隔地にいても会議を行うことは可能になったが、企画立案の段階や実際にモノに触れる過程が必要な場面では、対面での会議は不可欠だ。そこで、デジタル技術をふんだんに活用し、遠隔地にいる人がアバターで参加できるような環境などを整える。それを支える安全なネットワーク、安定した通信環境も必要になる。利便性だけでなく、会議参加者の満足感や幸福感の向上にもつなげたい。

 会議室の周りには、幅の広い階段を設置。あえてオフィスの中心に設置することで、座りながらコミュニケーションをとりやすくした。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 社員食堂の新しい形としてフードテック活用やSDGsを意識した最新の「スマートキッチン」も提案する。ここでは、健康状態に合わせた食事を提供し、従業員の健康管理をする機能を持たせている。既に社員食堂をコミュニケーションの場としている企業もあるが、スマートキッチンも同様に、従業員同士や地域の人とのコミュニケーションを図る場としても活用したい考えだ。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 オフィスの機能として、企業文化を醸成する機能も忘れてはいけない。オフィスというリアルな場があることで、仲間が働いている姿を見て切磋琢磨し、企業カルチャーが養われていくと考えている。イラストには、「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」の旗を立てているが、企業の理念や従業員の夢がホログラムで現れるシカケを施しても良いだろう。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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あらゆる技術を駆使してコミュニケーションを生む

 新たなコミュニケーションを生むためには、さまざまな技術の活用が不可欠だ。例えば、情報コンシェルジュロボットや、遠隔地にいても素材感や触感が分かるハプティクス技術。働きながらも子育てが可能な環境を整えるために、Baby Techの技術も活用したい。

(イラストレーション:©kucci,2020)
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 ウイルス除菌や非接触による会議、VR・ARを活用した遠隔操作など、新しい生活様式に準拠した機能も盛り込んでいきたい。イラストに盛り込んだ内容のほかにも、さまざまな技術を導入する余地がある。

 これまでにもオフィス内にセンサーを設置して人流解析を行ってきた企業は存在したが、多くの場合でセンシングしたデータを活用するところまでは至っていなかった。Beyond Officeでは、新しいコミュニケーションを生むためのシカケをふんだんに盛り込むことで、従業員の健康と幸福を追求し、イノベーションの創発につなげていく狙いである。

 なお、イラストはあらゆる要素を盛り込んでいるが、企業の特性に応じて必要な要素だけを取り入れることが想定される。所在地によっても活用できる要素は変わってくるだろう。Beyond Officeのコンセプトをどのように実現していくのか、引き続き議論していきたい(本イラストや記事内容に対する議論、お問い合わせはこちらにお寄せください)。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)