Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を提案し、それを具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を立ち上げた(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。

人は多くの時間を自宅やオフィスなどの空間で過ごし、空間が知らず知らずのうちに体に影響を及ぼす。中でも、起臥寝食の場として日々の大半を過ごす「住宅」は特に重要な空間だ。Beyond Healthでは、健康人生100年を可能にする未来の住宅像「Beyond Home」を掲げ(関連記事)、10月15日に日経クロスヘルスEXPO2020にて「これが未来の住宅『Beyond Home』の全貌」と題した特別セッションをオンライン開催。「TRON」を発明し、30年にわたって「電脳住宅」を手掛ける坂村健氏、住宅行政・建築行政を担う国土交通省の石坂聡氏とパネル討論を実施する(詳細はこちら)。今回、坂村氏に事前にインタビューを行い、同氏が描く10年後の住宅の未来像を語ってもらった。

(聞き手は大滝 隆行、高橋 博樹、小谷 卓也=Beyond Health)

坂村 健(さかむら・けん)氏
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長、工学博士。東京大学名誉教授。オープンなコンピュータアーキテクチャ TRONを構築。TRONはIoTのためのIEEE(米国電気電子学会)の標準組込OSとして世界中で使われている。2003年紫綬褒章、2006年日本学士院賞、2015年ITU150周年賞受賞 (写真:寺田 拓真)

住宅はIoTの最もふさわしい舞台の1つ

坂村先生は、IoT(Internet of Things)という言葉がまだない1980年代から、モノの中にコンピュータが入り、それらが全てネットでつながる社会をビジョンとして描き、そのためのオープンアーキテクチャ「TRONプロジェクト」を開始されました。その一環として、1989年に東京・六本木に建てられた「TRON電脳住宅」は、まさに今のIoTの考えに基づく実験住宅でした。

 私は80年代から、プロトタイプを使って全てのモノをネットにつなげたときにどのくらいのトラフィックが起こるのか、何が起こるのか、何ができるのかを知るために、多くの実証実験を行ってきました。TRONプロジェクトでは、IoTの最もふさわしい舞台の1つは住宅だという考えに基づいて、幾つもの実験住宅を造ってきました。

 89年に竹中工務店などと共同で建てた第一世代TRON電脳住宅では、窓や屋根、天井、壁、家電製品など住宅を構成する設備全てにコンピュータとセンサー、アクチュエータを入れ、風の向きが分かるとそれに合わせて窓が開くとか、雨が降ると閉まるとか、そういう実験をしました。今では当たり前になりましたが、シャワートイレや人感足元灯、植物の自動灌水など、各種動作の自動化のアイデアもTRON電脳住宅研究会の会員企業と共同で実装しました。

 その後、2004年にトヨタ自動車からの依頼で「PAPI」という、第二世代の電脳住宅を造りました。ここではコンピュータやセンサーの量をさらに増やし、プラグインハイブリット車を、停電になったときに発電機にして電気を住宅に供給する装置を付けました。車を非常時の発電機にするというアイデアは、ここで最初に試されたのです。

 そして第3弾として現在、都市再生機構(UR)と共同で研究を進めているのが、21世紀の第三世代電脳住宅のパイロットモデルです。東京都北区の旧赤羽台団地にあるポイント型住棟(スターハウス)の一室を改修して、10年後を先取りした近未来住宅のコンセプトモデルハウスを造り、さらに実験居住できるモデルを赤羽台団地内に来年度に造ろうと考えています。