Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を掲げ、具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を立ち上げた(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。

今年6月、三井不動産は病院と連携した宿泊施設の計画を発表した。国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の敷地内に、国内外からのがん患者やその家族、研究者などを受け入れる施設を建設しようというものだ。2022年の開業を目指す。

同社ではこれを「空間の再定義」と位置付け、今後は同様のモデルを日本全国へ展開する可能性があるとしている。同社 柏の葉街づくり推進部 事業グループ長の谷津邦成氏と同 事業グループの川島一記氏に話を聞いた。

(聞き手は小谷 卓也=Beyond Health)

まずは今回の取り組みの背景について教えてください。

谷津 以前、三井不動産では柏の葉キャンパス駅周辺にゴルフ場を所有していました。つくばエクスプレス(TX)の開業に伴いゴルフ場の閉鎖が決定したのですが、その跡地を中心として新たな街づくりに貢献していく方針を固めました。それが、柏の葉で三井不動産が開発を進めるきっかけとなっています。

柏の葉キャンパス駅周辺の様子(出所:三井不動産)
柏の葉キャンパス駅周辺の様子(出所:三井不動産)
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 柏の葉キャンパス駅は都心から25km圏内、秋葉原駅からTXで約30分の好立地にあります。従来型のデベロッパー開発であればベッドタウンがターゲットでしたが、柏の葉のユニークな点は住宅中心ではなく、複合的な要素を含めての開発だということです。

 もともとこのエリアには東京大学柏キャンパス、千葉大学柏の葉キャンパス、国立がん研究センター東病院(以下、がんセンター東病院)といった貴重なアカデミア、医療施設が存在していました。これらのアセットと連携しながら開発に携わってきた歴史があります。

 とは言え、最初からがんセンター東病院と連携が取れたわけではありません。さまざまな情報交換を行い、徐々に関係を構築してきました。その交流の中で弊社が目指す柏の葉でのまちづくりの将来性をお話したところ、がんセンター東病院とのビジョンが一致して共同の取り組みに至ったのです。

日本ではこうしたモデルがないが、海外では結構盛ん

具体的にはどのようなビジョンでしょうか。

谷津 がんセンター東病院では住民に開かれた病院を未来像として描かれていました。そこで“新しい医療のあり方”を外部に発信していきたいとの思いがあったようです。ご存じのように、がんセンター東病院はがんの治療に特化している国内トップクラスの病院。陽子線治療や希少がんを扱っているため、海外を含めて遠方から来る患者が非常に多いのですが、長距離の通院が患者の大きな負担になっており、長年の課題となっていたようです。

 もしホテルが隣接していれば、課題の解決策を提供できることになります。入院前後は患者本人だけではなく、家族や知人にとっても距離が近いほど助かりますから。自宅からの通院以外のソリューションを示すことで、皆さんの負担を少しでも軽減できるのではとの思いが出発点です。

今回の宿泊施設の建設計画(出所:三井不動産)
今回の宿泊施設の建設計画(出所:三井不動産)
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 日本ではこうしたモデルがありませんが、海外では結構盛んです。例えば米国のテキサス大学MDアンダーソンがんセンターにはホテルが隣接しています。参考のため試泊してみたところ、宿泊者の多くは患者やその家族で、米国ではこのモデルが成立していることを肌で実感しました。

がんセンター東病院周辺のホテルの現況は?

谷津 最も近くて柏の葉キャンパス駅前になります。三井ガーデンホテル柏の葉をはじめ、駅周辺には数軒のホテルがありますが、がんセンター東病院まではバスもしくはタクシーで7〜8分かかるため、少し不便な状況です。隣接のホテルなら、そのストレスもなくなります。

 患者アンケートでホテルが隣接していたら利用したいかどうかを聞いたところ、多くの人が「使いたい」と回答しました。中には「駅前のホテルより高くても泊まりたい」という人も一定の割合でいました。この結果は、隣接すること自体が1つの価値であることを示しています。病院に近ければ近いほど患者は安心感を得られます。物理的な距離の近さが与える安心感は大きいのです。ただし、ホテルで医療行為をするわけではありません。いろんな法的規制があるので、逆にセットで組み込むことは難しい。敷地内にあるものの、通常はホテルとして運営します。

川島 今回の特徴は、がんセンター東病院の土地を貸借して事業を行うこと。医療行為はできませんが、きめ細やかな連携やサービスは視野に入れています。入院前後の患者がホテルに宿泊し、具合が悪くなったときに病院と円滑な医療連携を図りたいと考えています。また、患者と家族が一緒に過ごせる広めの客室や、中長期滞在者のためのキッチンを備えた客室も用意する予定です。オープンが2022年夏を予定しているので、どんなシステムを入れていくのかはこれからがんセンター東病院とともに検証していきたいと思います。

「新たな病院と街のモデル」を作る

技術面では5GやIoTの活用を想定されているようですね。

川島 まだまだ検討段階ですが、センシングデバイスや5Gを活用して宿泊者の健康状態をスムーズに把握できるような実証も想定しています。それから、日本でも今後加速する遠隔診療の実証実験などですね。どんな技術が治療や研究に役立つのか、がんセンター東病院とともに新たなモデルの開拓に取り組んでいければと思います。

「新たな病院と街のモデル」を構想する(出所:三井不動産)
「新たな病院と街のモデル」を構想する(出所:三井不動産)
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より大きな視点で「新たな病院と街のモデル」を掲げています。これはどんな内容になりますか。

谷津 現段階では遠隔チェックインと、街が提供するサービスをミックスすることを想定しています。

 病院は診察までの長い待ち時間がつきもので、数時間待つこともザラにあります。しかし、ただ待合室で待っているだけでは非常に時間がもったいない。ですからTXで柏の葉キャンパス駅に着いた時点で遠隔から病院の受付を済ませ、診察時間の目安がわかれば患者にとってこれほどありがたいことはない。診察まで1時間の余裕があるとすれば、例えば駅前のららぽーと柏の葉でその1時間を過ごせます。ららぽーとからは、お店の紹介がスマートフォンなどに案内されて時間を有効に使うことができる──そんな仕組みです。

 その先には、街の人流、混雑状態の把握を組み合わせることが必要になってきます。なぜなら最終的には交通サービスと連携したいからです。タクシーやバスなどの運行状況を組み合わせ、駅に着いてからの一連の過ごし方を提案するイメージです。こうした網羅的なサービスがあれば、遠隔チェックインから商業施設での過ごし方、どういう交通手段を使ってがんセンター東病院に行けばいいかがひと目でわかります。それにより患者の利便性が高まって満足度が向上し、街への愛着も湧くのではないでしょうか。

事前のリサーチでしっかりとした手応え

病院を軸にした街づくりは、まさにこれからの時代のニーズに即した空間の再定義と言えるかもしれません。

谷津 おっしゃる通り、空間の再定義と考えています。事前のリサーチでしっかりとした手応えを得ています。まずは稼働状況をしっかりとウォッチしていく必要がありますが、一定のニーズがあれば、日本の他のエリアの専門病院にも提案できるようになる。じゅうぶん、日本全国へ展開できる可能性を秘めていると感じています。

三井不動産 柏の葉街づくり推進部 事業グループ長の谷津邦成氏。取材はオンラインで実施した(写真:オンライン取材画面のキャプチャー)
三井不動産 柏の葉街づくり推進部 事業グループ長の谷津邦成氏。取材はオンラインで実施した(写真:オンライン取材画面のキャプチャー)
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(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)