運動能力低下の背景に居住空間の変化によるハイハイ不足も

2017年から2年にわたり、鳥居俊・早稲田大学スポーツ科学部教授の研究室とともに「子どもの活発な活動を促す空間に関する研究・調査」を行っていらっしゃいます。過ごす空間によって、子どもたちの運動能力や体力に影響はあるのでしょうか。

 鳥居先生から、近年、転んだ時にとっさに手が出ず、頭や顔をケガする子どもたちが増えているという情報をいただきました。学校での骨折発生率の増加や乳幼児の運動機能発達が遅れているというデータもあります

* 日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害(平成30年版)」「一般調査による乳幼児の運動機能通過率」より

 また、スポーツ庁が毎年集計している体力・運動能力調査では、平均値が低下する一方で、値の散らばり度合いを示す標準偏差は増大する傾向があり、子どもの運動能力や体力は二極化しているという指摘もあります。

 背景には、空き地など子どもたちだけでのびのび遊ぶ場所や時間、仲間の減少、テレビやゲーム、スマートフォンを見るスクリーンタイムの増加など社会環境の変化があります。加えて、居住環境の変化による影響もあるのではないかと考えられています。

 例えば床の素材が畳からフローリングになったことで、ハイハイをあまりせずに歩き始める子どもが増えているそうです。指が引っかかりやすい畳に比べ、滑りやすいフローリングはハイハイがしにくいうえ、狭い空間にソファなどの家具が多い環境はつかまり立ちがしやすい。

 赤ちゃんは一人歩きをするまでに、首座り、寝返り、一人座り、ハイハイ、つかまり立ち、とそれぞれの動きを活発に行うことで身体の各部位を鍛えながら成長し、次の段階に移行していきますが、ハイハイ不足によって本来なら鍛えられていた腕の筋力が弱いまま成長してしまうことが考えられます。

ハイハイ不足は子どもの将来に影響するのでしょうか。

 鳥居先生は、その後の成長段階で腕の筋力を鍛えるような動きを取り入れていけば、ハイハイ期に獲得すべき運動能力は取り戻せるという考え方を示していらっしゃいます。ですから、その後の成長過程で、手を伸ばしてつかむという動きが誘発されるような仕掛けがあれば良いのではないかと考えています。

 研究ではまず、鳥居先生の監修のもと、成長段階に合わせて必要な空間、動き、量と質の目安となるマトリクスを作成しました。例えば、歩行が安定する1歳後半くらいまでは、運動する機会は徐々に増やす程度でよく、もう少し活発になってくる2~3歳では1日60分程度の運動をすれば十分ではないかとアドバイスいただきました。

早稲田大学の鳥居研究室との共同研究により作成した「成長段階マトリクス」。成長段階に合わせて必要な空間、動き、質と量の目安を示している(出所:ミサワホーム総合研究所)

 幼児期に他者やボールなど道具との距離感やよけ方、転び方など身体の使い方やバランス感覚を身につけることができれば、身体を動かすことが楽しいと感じられ、児童青年期になっても運動意欲が高くなると想定されます。

 逆に、幼児期にあまり動かず身体の使い方を十分に身につけられなかった子どもは、運動の楽しさを感じられないことが多くなってしまいます。このため、その差は高齢期の健康にも影響すると私たちは考えています。

 運動能力は必ずしも生まれながらのものではなく、幼児期に活発に運動する機会が得られ、自然と身体を動かすことが楽しいと思えるような環境の有無に影響されると考えられるのです。

幼児期によく動いた子どもとあまり動かなかった子どもを比べると、高齢期まで運動能力や運動意欲度に大きな差が出ることが考えられるという(出所:ミサワホーム総合研究所)