Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会の実現に向けたビジョン「空間×ヘルスケア 2030」を掲げ、具現化するためのプロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」を立ち上げた(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。その一つが、未来の住宅「Beyond Home」だ。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、従来は家の外で行っていた、身体を使って遊ぶ空間を自宅に求める人も増えているという。もとより子どもがのびのび遊べる場所、時間、仲間が減る中、子どもたちの体力や運動能力は与えられた環境によって二極化する傾向が指摘されている。

住まいによって、子どもたちの体力や運動能力は変わり得るのか。ミサワホーム総合研究所フューチャーデザインセンター市場企画室室長代理の八木邦果氏に、住まいの可能性を聞いた。

ミサワホーム総合研究所フューチャーデザインセンター市場企画室室長代理の八木邦果氏(写真提供:ミサワホーム総合研究所)

コロナ禍にあって、住まいに求められる機能は変わっているのでしょうか。

 在宅勤務を経験した全国の既婚男女824人(20~69歳、世帯年収400万円以上)を対象に今年6月にWEBアンケート調査を行ったところ、興味深い結果が出ています。意識の変化の部分では「場所にとらわれない働き方が良いと思うようになった」が76.5%、「住む地域として、人口が密集した都心部よりも自然豊かな郊外が良いと思う」が64.6%という結果になりました。現在、市街地に住んでいる方も約6割が「自然豊かな郊外が良い」と回答していますので、今後住まい選びの基準が変わる可能性があります。

 今後の住まいに求める要素については、在宅勤務のための空間として「4畳半程度の個室」「2畳程度の最小限の個室」が欲しいと回答している人が多く、それぞれ62.4%、50.4%に上りました。居住スペースが限られている現代の住まいにおいても在宅勤務のために個室を確保したいと考えている方が多かったのは、私たちも意外でした。

ミサワホーム総合研究所が今年6月に行った「新型コロナウイルス影響下における住まいの意識調査」より(出所:ミサワホーム総合研究所)

自宅で運動する空間が欲しいというニーズは増えているのでしょうか。

 今回の調査では項目として挙げていませんが、そういったニーズはあると思います。調査でも今後の住まいに取り入れたい気分転換できる場所として、「バルコニー・屋上などの外部スペース」が70.6%、「庭スペース」が68.8%となり、外部空間を充実させたいというニーズが高いことがわかりました。当社では以前から外部空間の提案は行っていましたがお客さまの優先順位は低かったため、コロナ禍でニーズが高まっていることをあらためて実感しています。

 私自身、設計職としてお客さまと打ち合わせをしていた時に、「雲梯を天井に備えつけてほしい」という要望をうかがったことがあります。非常に活発な男の子2人がいるご家族でした。直接担当していませんが、ボルダリングウオールを付けたいという方はここ数年で増え、専用の業者も増えているという話も聞いています。

運動能力低下の背景に居住空間の変化によるハイハイ不足も

2017年から2年にわたり、鳥居俊・早稲田大学スポーツ科学部教授の研究室とともに「子どもの活発な活動を促す空間に関する研究・調査」を行っていらっしゃいます。過ごす空間によって、子どもたちの運動能力や体力に影響はあるのでしょうか。

 鳥居先生から、近年、転んだ時にとっさに手が出ず、頭や顔をケガする子どもたちが増えているという情報をいただきました。学校での骨折発生率の増加や乳幼児の運動機能発達が遅れているというデータもあります

* 日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害(平成30年版)」「一般調査による乳幼児の運動機能通過率」より

 また、スポーツ庁が毎年集計している体力・運動能力調査では、平均値が低下する一方で、値の散らばり度合いを示す標準偏差は増大する傾向があり、子どもの運動能力や体力は二極化しているという指摘もあります。

 背景には、空き地など子どもたちだけでのびのび遊ぶ場所や時間、仲間の減少、テレビやゲーム、スマートフォンを見るスクリーンタイムの増加など社会環境の変化があります。加えて、居住環境の変化による影響もあるのではないかと考えられています。

 例えば床の素材が畳からフローリングになったことで、ハイハイをあまりせずに歩き始める子どもが増えているそうです。指が引っかかりやすい畳に比べ、滑りやすいフローリングはハイハイがしにくいうえ、狭い空間にソファなどの家具が多い環境はつかまり立ちがしやすい。

 赤ちゃんは一人歩きをするまでに、首座り、寝返り、一人座り、ハイハイ、つかまり立ち、とそれぞれの動きを活発に行うことで身体の各部位を鍛えながら成長し、次の段階に移行していきますが、ハイハイ不足によって本来なら鍛えられていた腕の筋力が弱いまま成長してしまうことが考えられます。

ハイハイ不足は子どもの将来に影響するのでしょうか。

 鳥居先生は、その後の成長段階で腕の筋力を鍛えるような動きを取り入れていけば、ハイハイ期に獲得すべき運動能力は取り戻せるという考え方を示していらっしゃいます。ですから、その後の成長過程で、手を伸ばしてつかむという動きが誘発されるような仕掛けがあれば良いのではないかと考えています。

 研究ではまず、鳥居先生の監修のもと、成長段階に合わせて必要な空間、動き、量と質の目安となるマトリクスを作成しました。例えば、歩行が安定する1歳後半くらいまでは、運動する機会は徐々に増やす程度でよく、もう少し活発になってくる2~3歳では1日60分程度の運動をすれば十分ではないかとアドバイスいただきました。

早稲田大学の鳥居研究室との共同研究により作成した「成長段階マトリクス」。成長段階に合わせて必要な空間、動き、質と量の目安を示している(出所:ミサワホーム総合研究所)

 幼児期に他者やボールなど道具との距離感やよけ方、転び方など身体の使い方やバランス感覚を身につけることができれば、身体を動かすことが楽しいと感じられ、児童青年期になっても運動意欲が高くなると想定されます。

 逆に、幼児期にあまり動かず身体の使い方を十分に身につけられなかった子どもは、運動の楽しさを感じられないことが多くなってしまいます。このため、その差は高齢期の健康にも影響すると私たちは考えています。

 運動能力は必ずしも生まれながらのものではなく、幼児期に活発に運動する機会が得られ、自然と身体を動かすことが楽しいと思えるような環境の有無に影響されると考えられるのです。

幼児期によく動いた子どもとあまり動かなかった子どもを比べると、高齢期まで運動能力や運動意欲度に大きな差が出ることが考えられるという(出所:ミサワホーム総合研究所)

自由に動ける空間を作れば、子どもの活動量は増える

実際にどのような環境であれば、子どもたちは活発に動くことができるのでしょうか。

 研究では保育園に協力いただき、1~2歳児のクラスで子どもたちの活動量を実証調査しました。保育業務に差し支えない程度でいくつか変化をつけて調査したところ、おもちゃのレイアウトを変更し、子どもたちが自由に動ける空間を広く作ると子どもの活動量が増えることが確認されました。

 部屋の中央にブロックを置くと、どうしてもブロックの周りに多くの子が集まり、その周りでちょこちょこ遊ぶ感じでしたが、ブロックを壁際に置いてみると、その周りで遊ぶ子もいれば、空いた空間に行って自由に遊ぶ子もいるという状態に変化したのです。園児ごとに移動距離を測った数値にも、有意な差が認められました。

 自宅ではなかなか子どもが自由に遊べる空間を確保するのは難しいと思いますが、例えばお子さんが小さいうちはリビングにソファセットを置かないというのも一つの手だと思います。当社ではリビングに隣接した6畳ほどの畳敷きのマルチスペースや天井の低い収納空間を提案しており、そういった空間を活用することも考えられます。

 以前、「壁にお子さんのための小さな出入り口をくり抜いてほしい」というお客さまがいらっしゃいました。そういう仕掛けがいくつかあれば、自宅でも自然とくぐる動きができ、楽しく身体を動かすことにつながるかもしれません。

フューチャーデザインセンター市場企画室長の大竹正裕氏からは、健康的な生活のための住まいとして、例えばVR(仮想現実)技術を使ったり、壁面に映像を映し出したりしながら好きな場所を歩いている気分になれる階段や、センシング技術で空気環境や温度などを調節し、そこで寝る人の睡眠の質を高めるような寝室も、アイデアとしては挙がっていると聞きました。昔ながらの縁側のように、独居の高齢者が社会性を保ちやすい間取りや構造も今後の課題として挙げられています。将来にわたる健康的な生活を支える場として、住まいはまだまだ変化していくのでしょうか。

 テクノロジーと掛け合わせ、家の中でもさまざまなことができるということを、コロナ禍によって一般の方もリアルに感じられるようになったと思います。今まで家でやると考えていなかったことがどんどん家の中に入り、逆に家の中でやってきたことが街やさまざまな場所で体験できるようになっています。そういった体験の機会を、どのような環境にあっても子どもたちが平等に享受できるようにすることも、今後は考えていかなければならないと思っています。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)

【お知らせ】
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これが近未来の新市場「空間×ヘルスケア 2030」の全貌
2021/10/22(金) 10:00 ~ 11:20(オンライン)

<聴講無料・事前登録制>


[登壇者]
経済産業大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官 兼 復興大臣政務官
参議院議員
佐藤 啓 氏
奈良県立医科大学
MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 副所長(研究教授)
梅田 智広 氏
ほか

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