脈々と受け継がれる未来志向の遺伝子

 その系譜を継承し、2014年に誕生したコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)がオムロンベンチャーズである。2018年4月には元産業革新機構の井上智子氏が代表取締役社長に就任。メンバー8人中5人は社外から参画しており、積極的に“外の視点”を取り入れている。

オムロンベンチャーズ 代表取締役社長 井上智子氏(写真:小口 正貴)
オムロンベンチャーズ 代表取締役社長 井上智子氏(写真:小口 正貴)
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 投資地域はグローバル、投資ステージはシリーズA、シリーズBのアーリー〜ミドルステージが対象。オムロンのコア技術・アセットと新技術・サービスを融合し、新たな産業の創造を投資戦略とする。注力する投資領域をファクトリーオートメーション、スマートシティ、ヘルスケアに定めたのはそのためだ。

 エンジニアを祖父に、金融マンを父に持つ井上氏は、「VCという思想自体がイノベーションを生み出すことに非常に有効だと信じている」と語る。優れた技術の普及には、事業が回る資金が不可欠であることを身近に感じてきたからだ。さらに顧客の表面的な困りごとを解決するのではなく、その先にある根本的な社会的ニーズを解決してきたオムロンの姿勢に強く惹かれたという。

 「前職で、革新的な医療機器プログラムであるバイオデザイン・プログラムの日本支社創設に携わった。米スタンフォード大学のデザイン思考をベースにしたもので、そこでは医師、エンジニア、ビジネスの人たちがチームを組んで一丸となって取り組まねばならない。言語が異なる領域の専門家を束ねるためにはメタ化した高次の概念が必要になるが、オムロンはずっと前からデザイン思考を体現して課題を解決してきた。つまり、イノベーションを生み出すDNAが宿っているということ。こうした風土だからこそ、ベンチャーとの共創でイノベーションが起こせるのではないか、そんな使命感を持って進めている」(井上氏)

 昨今では、創業者が1970年に国際学会で発表した「SINIC(サイニック)理論」も注目を集める。Seed(種)、Innovation(革新)、Need(必要性)、Impetus(刺激)、Cyclic Evolution(円環的発展)の頭文字を取った未来予測理論だ。半世紀も前の段階で、立石氏は2005年から最適化社会、2025年から自律社会が訪れることを予測。最適化社会とは価値観が転換し、モノから心の時代に変化すること、自律社会とは個人と社会、人と自然、人と機械が自律的に調和することを指す。

SINIC(サイニック)理論の具体像(出典:オムロンベンチャーズ)
SINIC(サイニック)理論の具体像(出典:オムロンベンチャーズ)
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 「多少のずれはあるにせよ、驚くほど社会の進展を言い当てている。ベンチャーにSINIC理論を説明すると、深く共感されることが多い。オムロンベンチャーズとしても、この羅針盤に従って次の自律社会に向けてどのように社会を進化させていくかをベンチャーとともに考えていきたい」(井上氏)