大企業とのシナジーで成長を加速させる

 投資のポートフォリオでは、1.革新的な技術を要する成長ポテンシャルが大きいベンチャー、2.数年後にオムロン事業とのシナジーが期待できるベンチャー、3.既存事業や新規事業に必須のパートナーとなるベンチャーの3段階に分けてスクリーニングする。この経緯もあり、2020年から井上氏はオムロン イノベーション推進本部 共創デザインセンタ長を兼任。2.と3.のベンチャーに関しては共創デザインセンタのメンバーが関わり、迅速な協業を推進している。

 「事業をスケールさせるために大企業の力を注いでベンチャーとの化学反応を起こすことを念頭に置いている。その道のスペシャリストがありったけのエネルギーと時間を費やすことでイノベーションは生まれるが、ベンチャーだけでできることは限られる。しっかりした組織力を持つ大企業が支えることで、真に必要とされる技術やプロダクトが世に出ていく助けになる」(井上氏)

 2014年以降の投資実績は、ディープラーニング顔認識の「D-ID」(イスラエル)、産業用ロボットの「リアルタイムロボティクス」(米国)、AIエネルギー管理プラットフォームの「METRON」(仏)、オムロンOBによるアグリサイエンスの「オーガニックnico」(日本)など多岐にわたる。出資先である日本のライフロボティクスがファナック、Kyoto Roboticsが日立製作所の子会社になるなど、投資回収の実績も残している。

 2021年、ヘルスケア関連ではインドの「Terrals Technologies Pvt(テラルス)」、日本の「CogSmart(コグスマート)」に出資した。テラルスは糖尿病や高血圧など慢性疾患の遠隔医療プラットフォームをインド国内で提供。コグスマートは認知症予防のソリューション開発に取り組む東北大学加齢医学研究所発のベンチャーだ。

オムロンベンチャーズが出資したコグスマート。左から代表取締役社⻑(CEO)の樋口彰氏、代表取締役・最⾼科学責任者(CSO)の瀧 靖之氏(出典:コグスマート)
オムロンベンチャーズが出資したコグスマート。左から代表取締役社⻑(CEO)の樋口彰氏、代表取締役・最⾼科学責任者(CSO)の瀧 靖之氏(出典:コグスマート)
[画像のクリックで別ページへ]

 「インドでは医療アクセスの悪さが課題となっている。テラルスは遠隔医療プラットフォームで患者と医師をつなぎ、無償アプリで診断して処方箋を出し、自宅まで薬を配達するサービスを展開している。すでにオムロン ヘルスケアが事業提携を結んでおり、通信機能付き血圧計を提供済みだ。今回の出資を機により連携を深め、データビジネスを発展させたいとの狙いがある。

 コグスマートにはすでに『BrainSuite』という画像解析AIを用いた脳の健康状態を可視化するプログラムがあるが、我々は認知症予防につながる生活習慣の改善に着目した。家庭で取得したバイタルデータの分析に基づく行動変容を通じて、コグスマートが目指す認知症のデジタルセラピューティクスを支援していく」(井上氏)