ヘルスケアは日本での最優先領域

 BICは、東京を含む世界5地域に設立されている。これも地域によって異なる顧客の課題を吸い上げるためだ。「ローカルの顧客の課題を発見し、解決する」(波木井氏)という考え方に基づいている。

 例えば、クラウドファンディングを通じて製品化した、体臭を見える化するデバイス「Kunkun body」は東京のBIC Japan から生まれたものだが、体臭の捉え方は地域によって異なるという。日本の首都圏のように満員電車での通勤が多かったり、オフィスでの従業員の密集度が高かったりする地域ほど体臭を気にする傾向がある。一方、欧州では「香水をつければいい」という考え方が一般的だ。

ニオイを見える化するプロジェクトから生まれた「Kunkun body」(出所:コニカミノルタ)

 「ローカルの課題を解決する」のが基本スタンスなので、重点テーマは拠点ごとに異なっている。BIC Japanでは、健康で豊かな生活を目指す「ライフサイエンス」、ビジネス領域における見えないものを見える化する「インダストリアルセンシング」、海外からの旅行者などとのコミュニケーションを円滑にする「グローバルコミュニケーション」の3つがある。

 このうち、ヘルスケアを含むライフサイエンス領域は、BIC Japan発足後最初に設けられたテーマだ。「日本では少子高齢化が進行しており、健康に関する問題が多い。他地域にも応用できることから、率先してやったほうがいいと考えた」(波木井氏)。

 「顧客の課題を見つける」と口にするのは簡単だが、実践するのは難しい。そもそも世の中にある膨大な課題の中から何に注目し、選ぶのか。コニカミノルタのような大企業が取り組むテーマとしてふさわしいかを考えるとなおさら難しそうだが、BICでは「自分自身、あるいは家族など周囲の身近な人が欲しいものを重要視している」(波木井氏)という。「ほかの誰でもない自分自身が使うという情熱をもって、プロジェクトを推進できる」(同氏)というのがその理由だ。

 先に挙げたKunkun bodyも身近な問題意識から開発が始まったもの。同製品は、「夏に自分の汗のにおいが気になる」というメンバーの一言がきっかけとなり生まれた。体臭や強すぎる香水などによって不快にさせてしまう行為が、匂いによるハラスメント、通称「スメハラ」として認知され始めていた。多くの人が自身の匂いに敏感になっていたものの、周囲からは指摘しにくい。市場を調べてみると、その解決策となる商品はない。そこで、自ら作ってみようということになったというわけだ。

 別の取り組みである、腸内細菌の見える化プロジェクト「PonPon CODE」は、メンバーの家族が便秘に悩んでいたことが発案の起点となった。腸内細菌を調べるための既存サービスを調べたところ、検査料金は1回につき2万~3万円、検査結果が分かるまでには1カ月以上かかっていたという。

 腸内細菌の種類や構成比率は、食事内容や体調などによって常に変化しており、1~2カ月経つと大きく変わってしまうこともある。そのため、「既存サービスよりも安く、検査結果が分かるタイミングが早い方法があったらいいのに」ということでスタートした。

「自分自身が使うという情熱がプロジェクトを推進する」と語る波木井氏

 技術起点ではなく課題が起点だとすると、コニカミノルタでなくても、同じ課題に取り組む企業は少なからずある。コニカミノルタが手掛ける意味はどこにあるのか。その問いについて波木井氏は「コニカミノルタのブランド力、あるいは信頼感」を挙げた。製品化に向けた落下試験、電圧や温度などの耐久試験など、外部から参加した波木井氏にとって「ここまでやるか?」というテストが用意されているという。

 もう1つの強みとして波木井氏が挙げたのが、「デバイスを売って消耗品を売る」というビジネスモデルが受け入れやすい社風だという。祖業のカメラも現在の複合機も、消耗品で利益を得るモデルである。

 これは現在では「サブスク」と呼ばれ、定額料金を継続的に得られ、しかもオンラインを通じて顧客の細かなニーズを把握できる手段として多くの企業が実現を目指している。「まだ十分にできているとは言えない」(波木井氏)というが、狙うのはモノ(単体製品)の売り切りではなく、コト(サービス)の継続販売だ。