コニカミノルタは、今後の同社の柱となる新規事業を開発する組織「ビジネス イノベーション センター(BIC)」を世界5地域(日本、米国、欧州、アジア太平洋、中国)に展開している。このうち、日本のBIC Japanにおける中核テーマの1つは、ヘルスケアを含むライフサイエンス。オフィス向け複合機を主力事業とする同社が、なぜライフサイエンス領域に力を入れるのか、同社のオープンイノベーション活動の特徴は何か。BIC Japanの立ち上げから所長を務める波木井卓氏に聞いた。

ビジネス イノベーション センター ジャパン(BIC Japan)所長の波木井卓氏(写真:加藤 康、以下同)

 コニカミノルタが推進するオープンイノベーション活動の特徴は、「顧客の課題が起点であること」だ。新規事業開発のテーマ選定では、技術や人材など既存の企業資産を生かした「シーズ先行」であることが多いが、顧客が抱える課題を起点として解決策を生み出すのがコニカミノルタ流と言える。同社の新規事業推進部門であるビジネス イノベーション センター ジャパン(BIC Japan)所長の波木井卓氏は「解決策となる技術については、コニカミノルタが必ずしも持っていなくてもいい」という。

 コニカミノルタがBICを設立したのは2014年に遡る。合併前のコニカ、ミノルタ両社の祖業であるカメラ事業を2006年に売却、それに伴いオフィス向け複合機(MFP)などを主力事業に据えた。しかし、そのMFP事業ですらペーパーレスの時流の中では盤石とは言えない。そこで、既存事業以外の新しい事業の柱を見つけることを目的としてBICが設けられたというわけだ。

ヘルスケアは日本での最優先領域

 BICは、東京を含む世界5地域に設立されている。これも地域によって異なる顧客の課題を吸い上げるためだ。「ローカルの顧客の課題を発見し、解決する」(波木井氏)という考え方に基づいている。

 例えば、クラウドファンディングを通じて製品化した、体臭を見える化するデバイス「Kunkun body」は東京のBIC Japan から生まれたものだが、体臭の捉え方は地域によって異なるという。日本の首都圏のように満員電車での通勤が多かったり、オフィスでの従業員の密集度が高かったりする地域ほど体臭を気にする傾向がある。一方、欧州では「香水をつければいい」という考え方が一般的だ。

ニオイを見える化するプロジェクトから生まれた「Kunkun body」(出所:コニカミノルタ)

 「ローカルの課題を解決する」のが基本スタンスなので、重点テーマは拠点ごとに異なっている。BIC Japanでは、健康で豊かな生活を目指す「ライフサイエンス」、ビジネス領域における見えないものを見える化する「インダストリアルセンシング」、海外からの旅行者などとのコミュニケーションを円滑にする「グローバルコミュニケーション」の3つがある。

 このうち、ヘルスケアを含むライフサイエンス領域は、BIC Japan発足後最初に設けられたテーマだ。「日本では少子高齢化が進行しており、健康に関する問題が多い。他地域にも応用できることから、率先してやったほうがいいと考えた」(波木井氏)。

 「顧客の課題を見つける」と口にするのは簡単だが、実践するのは難しい。そもそも世の中にある膨大な課題の中から何に注目し、選ぶのか。コニカミノルタのような大企業が取り組むテーマとしてふさわしいかを考えるとなおさら難しそうだが、BICでは「自分自身、あるいは家族など周囲の身近な人が欲しいものを重要視している」(波木井氏)という。「ほかの誰でもない自分自身が使うという情熱をもって、プロジェクトを推進できる」(同氏)というのがその理由だ。

 先に挙げたKunkun bodyも身近な問題意識から開発が始まったもの。同製品は、「夏に自分の汗のにおいが気になる」というメンバーの一言がきっかけとなり生まれた。体臭や強すぎる香水などによって不快にさせてしまう行為が、匂いによるハラスメント、通称「スメハラ」として認知され始めていた。多くの人が自身の匂いに敏感になっていたものの、周囲からは指摘しにくい。市場を調べてみると、その解決策となる商品はない。そこで、自ら作ってみようということになったというわけだ。

 別の取り組みである、腸内細菌の見える化プロジェクト「PonPon CODE」は、メンバーの家族が便秘に悩んでいたことが発案の起点となった。腸内細菌を調べるための既存サービスを調べたところ、検査料金は1回につき2万~3万円、検査結果が分かるまでには1カ月以上かかっていたという。

 腸内細菌の種類や構成比率は、食事内容や体調などによって常に変化しており、1~2カ月経つと大きく変わってしまうこともある。そのため、「既存サービスよりも安く、検査結果が分かるタイミングが早い方法があったらいいのに」ということでスタートした。

「自分自身が使うという情熱がプロジェクトを推進する」と語る波木井氏

 技術起点ではなく課題が起点だとすると、コニカミノルタでなくても、同じ課題に取り組む企業は少なからずある。コニカミノルタが手掛ける意味はどこにあるのか。その問いについて波木井氏は「コニカミノルタのブランド力、あるいは信頼感」を挙げた。製品化に向けた落下試験、電圧や温度などの耐久試験など、外部から参加した波木井氏にとって「ここまでやるか?」というテストが用意されているという。

 もう1つの強みとして波木井氏が挙げたのが、「デバイスを売って消耗品を売る」というビジネスモデルが受け入れやすい社風だという。祖業のカメラも現在の複合機も、消耗品で利益を得るモデルである。

 これは現在では「サブスク」と呼ばれ、定額料金を継続的に得られ、しかもオンラインを通じて顧客の細かなニーズを把握できる手段として多くの企業が実現を目指している。「まだ十分にできているとは言えない」(波木井氏)というが、狙うのはモノ(単体製品)の売り切りではなく、コト(サービス)の継続販売だ。

BICは「カンパニー・インキュベーター」

 大手企業が新規事業を進める上で悩ましいのが、事業規模だ。既存の事業が大きければ大きいほど、新規事業は相対的に小さく見えてしまう。「そんな小さな事業に注力するより、既存事業の強化に充てた方がいい」という話になりがちだ。

 先に挙げたKunkun bodyについて言えば、2年前に実施したクラウドファンディングでは、もともと「100台くらい売れればいい」としていたところ約1800台を出荷したものの、単価が2~3万円の商品なので売り上げとしては5000万円にも満たない。コニカミノルタの売り上げにすれば相対的には小さな数字だ。

東京・品川にあるBIC Japanのオフィス風景

 こうした課題に対して、コニカミノルタではBICを「カンパニー・インキュベーター」、つまり会社を生み出す組織と位置付けているという。課題を発見し、着想、その解決に必要な技術をスカウト、試作品を作り、PoC(概念実証)からのフィードバック、初期のマーケティング、セールスを行って3年をメドに、大量販売を目指す次のフェーズに移行する活動と定義しているのだ。

 ここで言う次フェーズとしては「他企業に売却する」「社内の事業部に移して育てる」「子会社を設立する」の3つの方法を考えている。既に、それぞれのフェーズに移行する事業も出始めている。

 大量販売前の活動ではあるものの、各プロジェクトについては、売り上げ数百億円規模にまで成長する青写真を描いている。Kunkun bodyから始まったニオイの見える化プロジェクトについて言えば、体臭だけでなく、食べ物や密閉空間の匂い検出、麻薬犬の代替といった領域にまで広げることで売り上げの最大化を図る。その取り組みの1つとして2020年6月には、歯周病由来の匂いを判別できる「Kunkun dental」の販売を始めている。

 BICについては、2020年4月から一歩進んだフェーズに移った。当初目指していた「ローカルの課題をローカルの拠点が解決策を生み出す」という活動に加えて、グローバル市場を意識した活動にも広げる。そのリーダーには波木井氏が就き、グローバル規模の大きな課題の発見と、事業拡大を目指すという。

波木井氏は2020年4月から、世界5カ所のBICの統括リーダーに就き、グローバル規模の課題発見と解決策の創出に踏み出す

(タイトル部のImage:加藤 康)