愛知県大府市、兵庫県神戸市、和歌山県御坊市…。全国の様々な自治体で、認知症に関する独自の条例を制定する動きが加速している。5年後の2025年、65歳以上の人口は3600万人(総務省推計)を超え、認知症有病者数は700万人を超えるとする調査もある。「長生きリスク」という嬉しくない言葉が囁かれるほど、高齢化問題は待ったなしの状況だ。そうしたなかで相次いで制定される認知症条例。その中身を見ていくと、現代の我が国が抱えた高齢化問題の根幹が理解できる。特集の第1回目となる本稿は、愛知県大府市に注目する。2007年、この市で起こったある事件が、認知症という病を地域や社会全体で取り組むべき問題であることを浮き彫りにしたのだ。

高井隆一氏。大府駅前のオレンジリングのモニュメントを前に(写真:末並 俊司、以下同)

 愛知県大府市。JR大府駅の西口を出ると、ロータリーの植え込みに建てられた大きなオレンジリングのモニュメントに迎えられる。「大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例」の記念碑だ。オレンジは認知症問題への取り組みを象徴する色として知られる。政府の掲げる認知症施策推進総合戦略の通称も「新オレンジプラン」だ。

 モニュメントのモチーフであるオレンジリングは、認知症について一定の講習を受けた認知症サポーターの証だ。今回ご登場いただく高井隆一氏と、そのモニュメントの前で待ち合わせた。

 「駅前にこのモニュメントの建立を許したということは、JR東海もそれなりに思うところがあったのでしょうね」

 そう問いかけると、高井氏は次のように答えた。

 「いや、ここは市の土地なので、JR東海とは関係ないんですよ」

 2018年に建立されたモニュメントを見上げる高井氏の表情の奥には、大企業JR東海への拭いきれない不信感があるように思えた。