認知症条例から見る日本の高齢化問題。第2回目は全国に先駆けての認知症条例である「大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例」を制定した愛知県大府市の岡村秀人市長に話を聞く。本特集の第1回目でも紹介したとおり、同市は07年に起こった鉄道事故のために、認知症関連対策では全国から注目される自治体だ。取り組みの歴史を振り返り、いつまでも住みやすい自治体のあり方を考える。

岡村秀人氏。1953年生まれの67歳。京都大学卒業。97年に愛知県庁から大府市役所に派遣され04年に同市助役(副市長)に就任。2016年4月より現職(撮影:上野英和)

 JR東海道本線、大府駅の東口を出て10分ほど歩いた場所に大府市役所はある。特集の第1回目に登場した高井隆一氏は、大府駅前で父親から受け継いだ「高井不動産」を営んでいる。1階にコンビニ、2階に高井氏の事務所が入ったビルを左に見ながら通りをしばらく歩く。

 名古屋から電車で十数分という大府は、大都市のベッドタウンとして発展した町だ。閑静な住宅街を通り抜けると、扇子を広げたようなモダンなデザインの市庁舎が見えてきた。

 新型コロナウイルスの被害が広がるご時世、市庁舎3階の市長室にてアクリル板を間に置いてのインタビューとなった。

 まずは特集の主テーマでもある認知症条例についてだ。

 ここで特集第1回を少しだけおさらいする。2007年大府駅の隣、共和駅で当時91歳の認知症を患う男性(高井隆一氏の父親)が誤って線路に降り、入ってきた電車に撥ねられて死亡した。亡くなった男性は要介護状態だった。JR東海は家族による見守り体制がおろそかであったとして、家族を相手取り720万円の賠償請求の裁判を起こした。

 約8年後の2016年3月、最高裁で「家族に責任はない」という最終判断に落ち着いた。ただし、同様の事案が起これば関係者が多額の賠償金を請求されることがあるという事実を、世間に広く認知させた裁判でもあった。

 こうした歴史があるからこそ、大府市では認知症ケアに対する市民の意識が高い。全国で初めて認知症条例を施行したことについて、まずはこのJR事故について聞いてみた。

 「もちろん高井さんの事件も大きかった。07年当時、私は大府市の副市長の職にありました。高井さんともずっと親交があります。高井さんのお父さんは線路に降りて亡くなったわけですが、当時はよく『徘徊』のすえに亡くなった、という表現をされたものです。

 ところが息子さんである高井さんによると、お父さんはあてもなくうろうろ徘徊していたわけではない、何かしらの目的があって出歩いていたとおっしゃる。これは認知症患者全体にいえることです。高井さんのそうしたお話をうかがったということもあり、大府市では『徘徊』ではなく、『一人あるき』などの言葉を使っています。こうした意識づけも大切なことだと考えています」(岡村市長、以下「」内の談話は全て同じ)