多くの市民に認知症診断を受けてもらう仕組み

 神戸市の認知症「神戸モデル」をごく簡単に説明すると、「市が無料の診断助成制度と保険制度をセットにして提供し、認知症になっても安心して地域で暮らすことができる」仕組みだ。市民にとっては嬉しい制度だが、もちろん誰もが制限なく使えるものではない。事前に認知症の診断を受け、システムに登録しておく必要がある。

 そのために用意されているのが「認知症診断助成制度」だ。

 「市が費用を負担して、広く認知症診断を受けていただくという仕組みです。多くの市民の皆様に利用してもらうために、『認知機能検診』と『認知機能精密検査』の2段階に分けて運用しています」

 まずは身近な医療機関で受診できるようにするために、市内441カ所(2020年7月現在)の医療機関で問診による認知機能検診を行なう。

 「神戸市医師会の協力を得て、第1段階の認知機能検診では、認知症専門の医師だけではなく、整形外科とか眼科などを専門としている医師にもご参加いただき、手引書に基づいて『認知症の疑いの有無』を判断していただく仕組みを整えました」

 65歳以上の市民であれば誰でも受診することができ、費用は全て市が持ってくれる。

 「2段階目の『認知機能精密検査』は、専門性の高い市内71(2020年7月現在)の医療機関で受診可能です。この精密検査では、CTスキャンやMRIなどの機器を用いて形態画像検査を行うなど、認知症診断のために必要なあらゆる検査を行います。こちらで認知症と診断を受けた方には、賠償責任保険の申込書をお渡ししますので、必要事項を記入して郵送すれば保険に加入できるという流れです」

 認知機能精密検査については保険診療であるため、一旦窓口での費用負担は発生するが、助成金申請書と医療機関の領収書を送付すれば、後日、費用の全額が返還される。つまり、第1段階も第2段階も実質無料というわけだ。そして、認知症だと診断されればすぐに保険制度に繋げる。この診断助成制度と保険制度が有機的に連携した一連のシステムが、認知症「神戸モデル」と呼ばれているものだ。

 脳血管性など、外科的な治療が有効な症例を除き、認知症はいったん罹患すると完治するのが難しい病だ。少なくとも、認知症そのものを治す薬は今のところ開発されていない。予防についても誰にでも有効な方法は確立されておらず、多くの研究者が言うように、有効性が確認されている予防法は「適度な運動」くらいなものだ。

 ただ、これも多くの研究者が口を揃えるのだが、認知症は早期発見・早期治療がその後の進行に大きく影響する。発見が早ければ早いほど、進行を遅らせることができるわけだ。

 より多くの市民に、より早く気軽に認知症の検診を受けてもらうため、神戸市は全額無料の診断を用意している。そして、たとえ認知症になったとしても、住み慣れた町でいつまでも過ごすことができるよう、市が保険料を全額負担する認知症保険を制度化した。