人は得をすることよりも、まず損失を回避したいと思う

 行動経済学の考え方の一つに、プロスペクト理論というものがあります。「人は得をすることよりもまず損失を回避したいと思う」という意識に訴える方法です。この理論を活用した、受診率向上の取り組みも自治体と進めています。

 八王子市(東京都)では、前年度の大腸がん検診受診者に対して、年度初めに大腸がん検診の検査キット(便検査キット)を送付することになっていました。ところが、せっかく検査キットを送っても全員がこのキットを使用してくれるわけではありません。

 そこで、年度初めにキットを送った方々に、10月末にあらためてハガキによる受診勧奨をすることにしました。こハガキのメッセージは2種類を用意。パターンAは「今年度も、大腸がん検診を受診すると、来年度、また自宅に大腸がん検査キットを送りします」というもの。これは利得を伝えるメッセージです。

 一方、パターンBは「今年度、大腸がん検診を受診しないと、来年度、自宅へ大腸がん検査キットを送ることができません」というメッセージ。これは、損失を伝えるもの。これまで申し込みをしなくても届いていた検査キットが、放っておくと送られてこなくなるというわけです注)

注)検診開始前に自動的に市から送られることがなくなる。もちろん、受診する医療機関に予約し、検診前に検査キットを受け取りに行けば、大腸がん検診は受けることができる。

 検査キット未使用者をランダムにパターンAとBのいずれかに分けてメッセージを送り、その後の受診率の違いを比べました。すると、パターンAでは受診率が23%だったのに対して、パターンBでは受診率が30%。特に女性では、それぞれ17%、28%と大きな差が確認できました。メッセージのうちたった4行を変えるだけで、これだけの変化があると分かったのです。