がん医療・がん研究の拠点となる機関として、日本のがん医療と研究をリードしてきた国立がん研究センター。新たな検診方法として研究を進めている「血液からがん診断」については、患者にとっても負担が少なく、早期にがんを発見する方法として社会実装が重要なテーマだと、同センター 理事長の中釜斉氏は語る。(小谷 卓也=Beyond Health)


 現在、日本人の3人に1人ががんで亡くなり、2人に1人が生涯のどこかでがんと診断されています。働き盛り年齢、子育て年齢での死因第1位でもあります。

 がんに罹患した場合の5年生存率は、平均64.1%。がんが限局している場合は生存率が高く、遠隔転移を起こしている場合は低くなっています。そこで大きなメッセージとして伝えていくべきなのが、早期発見です。

(写真:剣持 悠大、以下同)

 がんの対策には、「一次予防」「二次予防」「三次予防」があります。一次予防は、生活習慣(食事、禁煙、節酒、運動など)の見直によりがんの原因となる行動を避けること。がん検診の受診で早期発見し、早期治療を行うのが二次予防。そして、外科手術後の抗がん剤治療などによるがん再発予防が三次予防に当たります。

 早期発見という点では、二次予防における検診率や診断精度の向上が重要になります。例えば、大腸がんを例に挙げると、実は米国では大腸がんの死亡率が低下してきています。その貢献度を分類すると、一次予防の効果が35%で三次予防が12%。それに対して、二次予防の貢献度は53%。大腸がんでは、検診が重要だということが分かるデータと言えます。

 日本では、がんによる死亡のうち、大腸がんは男性では3番目に多く、女性では1位。男女を合わせると2位になります。

 1990年代以降、対策型大腸がん検診の開始を境に男女ともに年齢調整死亡率は着実に減っており、一定の成果は見られています。ただし、ここ10年ほどは横ばい状態。大腸がんの対策強化の必要性は高いと考えています。

これが、大腸がん検診の実態

 大腸がん検診の実態を詳しく見ていきます。現在、対策型大腸がん検診(対象は40歳以上)で行われている便潜血検査では、2回連続で便潜血が確認された場合に陽性となります。陽性者は大腸内視鏡検査の対象となり、異常を確認できなければ毎年検査を繰り返します。

 便潜血検査で確認される陽性者は約6%。つまり、大腸がん検診を1000人受けると、このうち陽性者が約60人という計算です。そして、この60人が大腸内視鏡検査を受けると、約2人の割合でがんが確認されます。がんを見つけた場合には、内視鏡治療や外科手術に移行します。

 便潜血検査は、内視鏡を受けるわけでもなく苦痛もない。効率よく行える検査といえます。にもかかわらず、受診率は20%程度にとどまります。そして、陽性になった人の精密検査受検率も60~70%と低いことが課題です。

 実際、大腸がん検診で発見されれば早期がんが60%であるのに対して、病院の診療で発見された場合は早期がんの割合が21%ほど。早く見つけて直す観点からも、現在の大腸がん検診は優れているといえます。

 一方、課題もあります。その一つが、スクリーニングの感度の問題です。1回の検診で陽性となる割合が、進行がんは80~90%なのに対して、早期がんは30~50%。これを補うためにも、毎年検査を受けることは大切です。そうすれば今年陰性だったとしても、来年に治癒可能な状態で見つかる可能性があります。

 なお、感度は部位によっても変わってきます。左側(のがん)は検出感度が93.7%と高いのですが、右側は感度が79.2%と低下します。10mm以上の腺腫も含めると、それぞれ76.7%、56.9%となっています。

血液からがん診断、膵臓がんでは「偽陽性」の課題も

 新たな検診方法として、血液からがんを診断する技術の開発を進めています。血液中のマイクロRNAを調べることで、がんの有無を判断しようというものです。患者にとっても負担の少ない検査方法ですから、早期にがんを発見する方法として社会実装が重要なテーマと考えています。

 研究段階ですが、早期および進行の大腸がんを調べたところ、感度99.9%、特異度88.6%と高い値を確認しました。また、発生部位によらず、同等の検出感度を出せることも確認しています。

 現在は、保存された検体で実施したものになります。今後は、前向き試験により検証を続けていく必要があります。

 膵臓がんについても、既に知られているバイオマーカーのCA19-9と比べ感度、特異度の高さを示すことができています。実現すれば、血液を用いた検診によって、膵臓がんを検出できる可能性がでてくるわけです。

 ただし、膵臓がんのように罹患率が低いがんでは、偽陽性の課題があると認識しています。例えば、膵臓がんの罹患率を0.03%(10万人に30人罹患)と仮定し、感度95%、特異度95%の膵臓がん検診を20万人に実施した場合を考えてみます。

 この場合、20万人のうち膵臓がんに罹患しているのが60人、罹患していないのが19万9940人です。感度95%なので60人のうちがんを発見できるのが57人。特異度95%なので偽陽性となるのが9997人という計算です。つまり、検査で陽性となる1万54人のうち、57人(約200人に1人)からしか膵臓がんを発見できないわけです。

 検査で陽性となれば、精密検査を行い、内視鏡を使って超音波による診断をします。200人に1人のすい臓がんを見つけるために、これが妥当なのかは議論をしていく必要があります。(談)

(タイトル部のImage:剣持 悠大)