Beyond Healthが実施した円卓会議「健康人生100年の世界を実現するために『がんスクリーニング』を考える」。最後の議論テーマは「医療との正しい連携」。テーマ2でも話題になった、血液などからがんを診断する新たながんスクリーニング技術。現在、様々な研究開発があちらこちらで進んでおり、注目を集めている。こうした技術の社会実装に向けては、医療との正しい連携のもとで、想定される課題の理解や社会的コンセンサスの構築などを進めていく必要がある──そんな視点から、意識すべき幾つかのポイントが示された(参加した有識者はこちら)。

最後の議論テーマは「医療との正しい連携」(写真:剣持 悠大、以下同)

 がん医療・がん研究の拠点となる機関として、日本のがん医療と研究をリードしてきた国立がん研究センター。同センターにおいても、新たな検診方法として、血液からがんを診断する技術の開発を進めている。血液中のマイクロRNAを調べることで、がんの有無を判断しようというものだ(関連記事:「血液からがん診断」、社会実装が重要なテーマ)。

 研究段階ではあるものの、早期および進行の大腸がんを調べたところ、感度99.9%、特異度88.6%という高い値を確認したという。さらに、従来の便潜血検査ではがんの発生部位によって感度が変わるのに対して、部位によらず同等の検出感度を出せる可能性があることも確認しているとする。

 同センター 理事長の中釜斉氏は、この技術について「患者にとって負担が少ない検査方法。早期にがんを発見する方法として、今後の社会実装が重要になる」と位置付ける。一方で、新たな検査方法だけに、その有用性や課題などに対しても、受診者(患者)・開発企業・医療現場の相互理解が不可欠だ。そこで、意識すべき幾つかのポイントに関して、中釜氏を中心とした議論が展開された。

 その一つが、「がん種の特定」について。開発が進むスクリーニング技術の多くは、最終的にはがん種の特定まで目指している。ただし、まずは「がんが存在するかどうか分かる」、次に「がん種まで分かる」、という段階を踏んだ開発になるケースが少なくない。社会実装に向けてはどう考えるべきなのか。

 中釜氏は次のような見解を示した。「『何かしらのがんがありそうだ』とだけ知らされたとき、受診者にとって重要なアラートにはなるものの、不安を増してしまうことにもなる。そのあたりについて、医療者も含めて納得できる形に持っていけるかを考える必要がある。やはりスクリーニングという意味では、がん種が特定できないと精密検査に進めないので、がん種の特定は必須だと考える。その方が、圧倒的に医療者の理解も得やすい」。

「過剰診断」の判断には社会的なコンセンサス形成が必要

 早期スクリーニングによって必要以上に多くの人を精密検査に送り込み、結果として医療現場の負荷を高めてしまう、いわゆる「過剰診断」。これをどう考えるかについても、スクリーニング技術の社会実装に向けては避けて通れないポイントだ。中釜氏も「過剰診断は重要かつ難しい問題だ」と言う。

議論の様子

 偽陽性の患者が増えるほど、実際はがんではない患者に精密検査をしなければならない。医療費の問題も出てくる。「がんの難易度にもよるが、どのくらいの偽陽性まで許容できるかは、データをそろえながらコンセンサスを得て議論していくしかない」と中釜氏。

 膵臓がんのように罹患率が低いがんでは、特に偽陽性の問題が顕著になるという。例えば、罹患率を0.03%(10万人に30人罹患)と仮定し、感度95%、特異度95%のスクリーニング検査を20万人に実施したと仮定する。この場合、検査で陽性となるのが1万54人、そのうち57人(約200人に1人)からしか膵臓がんを発見できない計算だ。

 一方、現在の大腸がん検診(便潜血検査)は、1000人受けると約60人の陽性者が出る。そして、60人が精密検査(大腸内視鏡検査)を受けると、約2人の割合でがんが確認されるという。この2/60という割合について中釜氏は「それほど過剰だとは思わない」と見る。大腸内視鏡検査がさほど侵襲性を伴うものではない、というのがその理由である。

 つまり、精密検査の侵襲性の高低も、過剰診断の問題を考える上では重要な要素になるというわけだ。仮に、すい臓がんの精密検査がMRIや低線量CTなど患者の負荷が低い検査で実現できるようになれば、前述のようにたとえ1/200の発見確率であったとしても、「それを高いと思うか低いと思うかについて、社会的なコンセンサス形成の段階に入っていって良いのでは」と中釜氏は展望する。

何歳までのスクリーニングに意味があるのか?

 最後に、座長である日本学士院長、京都大学名誉教授・元総長の井村裕夫氏が、こう切り出した。「がんの罹患は加齢とともに増える。高齢化が進んでいく中で、80歳や90歳代のがんをどう考えるべきか。どの年代まで、スクリーニングを実施する意味があるのかという点は、今後の課題ではないだろうか」。

 スクリーニングは、命に関わる段階になる前に早期発見につなげることが目的だ。80歳代以上の高齢者において、必要以上にがんを早期に発見する意味があるのだろうかとの投げ掛けである。

 これに対して中釜氏は次のように述べ、今後の議論が必要だとした。「がんの発生は年齢とともに増え、80歳や90歳代にがんが多いのは間違いない。ただし、その年代における死因の1位ではない。がんが死因の1位になるのは男性の場合は70歳くらいまで。それを超えると、肺炎などその他の原因ががんを上回る。日本においては検診に年齢制限を設けていないが、それが本当に適切かどうかについては、現時点では十分になされていない」。

 同時に中釜氏は、がんの早期発見に向けた研究開発と並行して、がんの発生を遅らせる研究も重要になるとの見方を示した。「老化と関連するがん化というプロセスを、いかに遅らせることができるかという研究は非常に重要。これにより、60~70歳代までは極力がんに罹患しないような仕組みや対策について、研究レベルで深めていく必要がある」。

 開発が進む新たながんスクリーニング技術は、がんと早期に対峙していく上で極めて意義があるものだ。だからこそ、様々なステークホルダーが相互に理解し、正しい形で社会実装されていくことが今後、何よりも重要になる。

(タイトル部のImage:剣持 悠大)