もっと簡単に身体の「サイズ」を計測できれば、健康維持や疾病予防に役立つのではないか──。今、体のサイズや形状などの体形情報と健康状態の関係に注目し始めたのが、スマホなどを使った手軽な自動採寸技術を展開する「サイズテック」企業だ。

 従来、体形は健康状態を判断するうえでの一つの指標となってきた。一般に太り過ぎややせ過ぎと思えば、何かしら健康を害しているのではと疑う。医学的にも、例えばへそ高さでの腹囲と内臓脂肪面積には相関があるとされ、特定健診では腹囲がメタボリックシンドロームの診断基準の一つとなっている。

 腹囲のようなサイズは、内臓脂肪など要因そのものを見るわけではなく正確性では劣る半面、X線やCT装置による測定に比べると身体への負担がなく、計測が容易という利点がある。特別な装置も不要で、メジャーさえあれば自宅でもどこでも、自分でも計測することが可能だ。厚生労働省による生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」では、週に1~2回計測することが推奨されている*1)

*1)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-07-001.html

 ただし“自分で計測できる”と分かっていても、実際に週に1~2回といった頻度で測定するのはなかなか難しい。また、簡単に測定できる腹囲であっても測り方によって値がバラつきやすく、特に自分で測る場合は毎回正しく同様に測定できているのかどうかには疑問が残る。そこに目を付け始めたのが、冒頭のサイズテック企業だ。

ネット通販で手軽な採寸技術が実用化

 元々、レーザーなどを利用した自動採寸技術は精度向上や手間を省く目的で衣料品や下着といったファッション・アパレル業界の一部で利用されていた。そして、ネット通販の普及が進むにつれて、スマホなどを使って自分で手軽に実施できる自動採寸技術が実用化されてきた。代表例が、衣料品などのネット通販サイト「ZOZO TOWN」を運営するスタートトゥデイ(現ZOZO)の採寸スーツ「ZOZOSUIT」だ。2018年4月に発送を開始し230万枚を出荷したという独特の水玉模様状のマーカーが施された同製品は、身長・体重データに加えて同スーツの着用姿をスマホで12回撮影することで採寸するというものだった。

スマホを使って約300~400個のマーカーを読み取る方式を採用した「ZOZOSUIT」(写真:当時のスタートトゥデイのプレスリリース)
スマホを使って約300~400個のマーカーを読み取る方式を採用した「ZOZOSUIT」(写真:当時のスタートトゥデイのプレスリリース)
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 また、シリコンバレー発のオンラインカスタムシャツブランド「Original Stitch」(米Original、2019年にワールドが子会社化)は任意の衣服を身に付けた2枚の全身写真と身長・体重データから人工知能(AI)により採寸するスマホ向けの身体採寸アプリ「Bodygram」のサービス展開を2018年11月に始め、2019年1月には米Bodygramを分社化して身体採寸技術事業を独立させた。同技術はユニクロのサービス(アプリ)「MySize CAMERA」などに採用されているほか、コロナ禍において顧客への接触機会を減らせるとしてそごう横浜店や西武池袋本店の紳士服売り場でも導入されている。

スマホを使い、2枚の全身写真と身長・体重データから採寸する「Bodygram」(写真:Bodygram Japanのプレスリリース)
スマホを使い、2枚の全身写真と身長・体重データから採寸する「Bodygram」(写真:Bodygram Japanのプレスリリース)
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きっかけは“ダイエッター”

 こうした自動採寸技術を展開するスタートアップ企業は、現在、ファッション・アパレル業界の次として、ヘルスケア業界に注目している。ファッション・アパレル向けにサービス提供を開始したところ、ユーザーの一部がダイエットやトレーニングの効果測定目的で継続的に採寸を繰り返すことから需要があると判断、こうした用途に向くように機能を改善したという。そこからダイエットとも関係が強い生活習慣病などのヘルスケア領域に目尾を付けた。自動計測技術の手軽さを武器に、疾病の早期発見に向け重要な役割を担える可能性がある。実現すれば医療費削減へとつながるとし、精度を高めたり使い勝手を良くすることでヘルスケア業界への展開を狙う。

 ZOZOはマーカーの数を50倍の約2万個へと増やし、測定精度を高めた「ZOZOSUIT 2」を2020年10月に発表した。マーカーがほぼすき間なく全身を埋め尽くしており、筋肉や脂肪などによる体表面の凹凸形状も認識できる。「精度を高めたことで、(いわゆる”三段腹”などの)体の形状も把握できるようになった」(ZOZO 取締役 兼 COOの伊藤正裕氏)。高精度化により、背骨が湾曲してしまう側弯症や姿勢のゆがみといった細かな状況も検出できると見込む。

約2万個のマーカーを配置する「ZOZOSUIT 2」(写真:ZOZO)
約2万個のマーカーを配置する「ZOZOSUIT 2」(写真:ZOZO)
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 Bodygramは同社の採寸アプリに3Dアバター表示機能および3Dアバターによる体形トラッキング機能、24カ所の計測結果について数値の変化をグラフ表示する機能を追加し、2021年2月に同機能の提供を開始した。従来に比べて、体の状況や変化を把握しやすくした形だ。「医療の診断等には使えなくても、メタボリック症候群や2型糖尿病、無呼吸症候群など、体形との相関関係が強いとされる疾病のリスク検知には活用できると考えている」(Bodygram Japan COOのRei Aiba氏)。

「Bodygram」は3Dアバターによる体形トラッキング機能を用意(写真:Bodygram Japan)
「Bodygram」は3Dアバターによる体形トラッキング機能を用意(写真:Bodygram Japan)
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足の3次元計測データをデータベース化

 一方、サイズと健康の関係として先行するのが「足」だ。足のサイズに基づく靴と健康は、より密接に関係している。合わない靴は外反母趾などの足指の変形や転倒の原因にもなり、歩行困難の一因にも成り得る。また、それとは反対に足の形状を調べることで体のバランスや筋力の偏りなどが分かるという見方もある。そこで、足のサイズを手軽に詳細に把握することで健康状態の改善やケガなどの予防に役立てようという動きが始まりつつある。

 健康寿命の延伸に向けて足指に着目した健康増進施策「あしゆびプロジェクト」などを進める泉大津市(大阪府)では、居住者約7万5000人を対象に足の3次元計測が計画されており、2020年に居住者の一部を対象とした計測などの研究が始まっている。計測を担うのは、3次元足形自動計測システムなどの開発を手掛けるドリーム・ジーピーだ。

 専用のレーザースキャナーを用いて片足で約3万カ所を計測し、足の形をデジタルデータとして再現する。足長や足囲、足幅といった靴サイズの指標となるサイズに加えて、外反母趾や扁平足の傾向、足首の倒れ込み具合などが分かる。同社では計測結果をデータベース化した「FOOTBANK」構築を目指しており、泉大津市の例はいわばその第一歩だ。足の計測データの共有により、医師や理学療法士とフットケアを結びつける専門職連携を実現し、いずれは医療費低減に結び付けられると見込む。

専用のレーザースキャナーを使って足を3次元計測(写真:Beyond Health)
専用のレーザースキャナーを使って足を3次元計測(写真:Beyond Health)
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レーザースキャナーでの計測結果例。立った状態(立位)と座った状態(座位)での違いをも読み取る(写真:Beyond Health)
レーザースキャナーでの計測結果例。立った状態(立位)と座った状態(座位)での違いをも読み取る(写真:Beyond Health)
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課題はソリューション提供とデータ連携

 こうした手軽な採寸技術をヘルスケア業界に生かすには、「ソリューション」との組み合わせが重要となる。体重を記録する「レコーディングダイエット」のように、事実を客観視し動機付けする上で採寸すること自体にも意義はあるが、そこに改善に向けたソリューションを組み合わせていかなければ多くのユーザーのニーズには答えられず、産業としての広がりも限定的になってしまう。実際、採寸技術を展開するスタートアップ企業ではソリューションに向けたパートナー企業を積極的に募り、関係構築を進めようと力を入れる。既存のヘルスケア関連サービス・製品も、こうした自動採寸技術と組み合わせることで結果の見える新たなサービスへと脱皮できる可能性を秘めており、今後の動向に注目が集まる。

 加えて、将来的に“化ける”可能性を期待されているのがデータ連携だ。手軽な採寸技術はその手軽さゆえ、大量のデータを集められる可能性が高い。そこにほかのヘルスケアデータを連携させ各指標との相関関係を見出すことができれば、いずれはサイズや体重、脈拍などの計測しやすいデータから様々な疾病の兆候をいち早く得られるようになる可能性もある。

(タイトル部のImage:出所はGetty Images)