2017年の発表以来、様々な話題を振りまきながらも一旦配布終了となっていた「ZOZOSUIT」。そのデザインを大幅に変更し、当時問題となった「精度」と「コスト」の課題を解決したとする「ZOZOSUIT 2」があらためて登場した。手軽な自動計測技術による「サイズテック」の雄、ZOZOが次の市場の一つとして狙うのがヘルスケア領域だ。

 ZOZOSUITを開発したのは、衣料品の通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZO(旧スタートトゥデイ、2018年10月1日に社名をスタートトゥデイからZOZOに変更)。同製品は、同社がファッションECの課題とする「サイズの不安」を解消すべく、自宅などでの手軽な自動採寸を実現し、商品検索やレコメンドといった機能の正確性を高めるほか、同社プライベートブランドからのオーダー製品に活用することを想定し開発された。

 発表以来、同製品は常に世間の注目を集め続けた。2017年11月、同社がニュージーランドのセンサー開発企業StretchSenseと共同開発した伸縮センサー内蔵の採寸用ボディスーツ「ZOZOSUIT」の無料配布を告知すると、最先端の自動採寸技術への関心の高まりに、人気漫画に登場する衣装に似た外観への期待もあいまって注文が殺到。

 量産性を高めようと、2018年4月には採用する採寸技術を伸縮センサー方式から“水玉柄”のマーカーによる画像認識方式への変更を発表して量産配布を開始し、最終的には約230万枚を配布した。そして計測結果に基づくプライベートブランド製品として、Tシャツやデニムパンツなどのパターンオーダー品、ビジネススーツやドレスシャツといったフルオーダー品を展開していった。

計測用ボディスーツ「ZOZOSUIT」(左)と「ZOZOSUIT 2」(右)(撮影:加藤 康)

 自動採寸技術による事業は華々しいスタートを切ったものの、順調に進んだとは言い難かった。衣類の中でも採寸がカギとなるビジネススーツやドレスシャツでは、製品の不良や出荷延期などのトラブルが相次いだ。

 加えてZOZOSUITの開発や生産、無料配布に伴うコストもかさんだことから同社の利益を圧迫。結局、同社はZOZOSUITの配布を終了し、計測に基づくプライベートブランド製品の販売も終了した。

 一方で収集した100万件以上の体形データを活用し、身長・体重を入力すれば推定される体形に適切なサイズの衣類を提供する「マルチサイズ」を、新たに人気ブランドをパートナーとして豊富なラインナップで開始した。計測なしに自分サイズの服を提供する体制を整え、全身自動採寸に関する事業は収束したかに見えた。

 そんな同社が、3Dレーザースキャナーに匹敵する精度で身体3Dモデルを生成できるとして2020年10月29日に発表したのが、計測用ボディスーツ「ZOZOSUIT 2」だ。基本的なコンセプトは従来品のZOZOSUITと同じ。ボディスーツを着用の上、スマートフォン(スマホ)アプリを使って12枚の写真を撮影し、画像認識技術を使って身体の3Dモデルを得る。

 ただし、今回は自社事業への活用よりもサービス共創に向けたパートナー事業への展開を打ち出した。用途としては「ダイエット」や「ヘルスケア」「スポーツ」といったファッション以外の領域も想定する。

計測精度と解像度を向上

 今回のZOZOSUIT 2と従来品との最大の違いについて、同社取締役 兼 COOの伊藤正裕氏は「計測精度と解像度の向上」を挙げる。

従来品同様、スマホを使って12回撮影することで計測する(撮影:加藤 康)

 精度について、同社で3Dレーザースキャナーの計測結果とZOZOSUIT 2での計測結果を比較したところ、平均誤差は3.7mmであり、3Dレーザースキャナーによる計り直しと同等の精度を実現できたとする。また、生成する3Dモデルの解像度が高まったことで、例えば肩の筋肉の盛り上がりやいわゆる三段腹のような体表面の形状が詳細に把握できるようになったという。

 計測精度と解像度の向上に向けた主な改善ポイントは三つ。一つは、マーカーの数を増やしたこと。マーカー数を、従来品の約50倍に相当する約2万個へと高解像度化した。従来はマーカー間のデータがない部分は標準モデルから形状を推測しており、細かな凹凸は把握できなかったが、今回はマーカー間のすき間がほぼなくなったことで表面形状が細かに把握できるようになったとする。

マーカー数を約50倍に増やし高解像度化(図:ZOZO)

 もう一つは、マーカーデザインの変更だ。従来品では、直径約2cmの白い円形のマーカーの中に並ぶ直径2mmの黒い円が認識対象だった。白いマーカーは全身に約400個配置され、その中に黒い円で構成される“柄”は全て異なる。これを識別することで3Dモデルを生成していた。今回の製品では認識対象を直径6mmの白丸と黒丸のマーカーとし、これらの並び順がユニークになっていることから識別して3Dモデルを生成する。

 この変更により、認識対象の認識性が向上し、スマホのカメラでより多くのマーカー情報を取得できるようになったとする。「従来品ではシワなどで白いマーカー内の黒い円が隠れてしまうと、その部分のマーカーの情報は欠けた状態になっていた。今回は、白い円と黒い円の並び方がすべてユニークになっていて、体のどこの部分かを認識できる。多少シワで隠れても問題はない」(伊藤氏)

マーカーデザインを変更し、認識性を向上(図:ZOZO)

 三つめとして、3Dモデル生成に向けたアルゴリズムを改善した。3Dモデルを生成するためには、計測したマーカー地点に対して人体の数学モデルを合わせていく。今回は、高い解像度や人体の動き、脂肪や筋肉といった組成に対応する数学モデルを採用した。例えば12枚の写真撮影中に手が動いた場合、従来は体の動きが追えずに手の長さや肩幅といったサイズの誤差原因となっていた。今回のスーツの場合は動きに追随できるので、こうした測定時の誤差を抑えることができるとする。

従来品の場合、シワなどでマーカーの一部が隠れるとそのマーカーは読み取れなくなってしまい、結果的に計測精度の低下につながっていた(撮影:加藤 康)
スマホアプリでの撮影結果に生成した3Dモデル(オレンジ色)を重ねた画像。股下やわきの下などの部分も精度よく再現できていることが分かる。なお、これはデモ用の画像で、ユーザー向けアプリではこうした画像提供は予定していないという(写真:ZOZO)

「有料でもいいからサービスを続けて」の声

 今回、ファッション以外の領域に展開するきっかけは、従来品でのユーザーの使い方にもあったという。ZOZOSUITを利用したeコマース事業を終了しているものの「現在もZOZOSUIT(従来品)の計測サービス自体は提供し続けており、1日数百件の利用がある」(伊藤氏)。推定されるのはダイエットやトレーニングなどでの利用だ。「体形を手軽に可視化する方法が他になく、使ったのではないか」(伊藤氏)。

 ダイエットやトレーニングなどの成果を確認する場合、一般には手軽に計測できる体重を参考にする場合が多いが、筋肉と脂肪の比重が異なるなど、体重だけでは変化を追いにくい。ZOZOSUITはこうした需要にマッチしたと考えられる。特に米国でこうした用途と推測される利用が多く、ZOZOSUITの配布を終了する際は「有料でいいので計測サービスを続けてほしい」との問い合わせもあったという。

ZOZO 取締役 兼 COOの伊藤正裕氏(撮影:加藤 康)

 そして今回、計測精度と解像度向上を実現できたことで、フィットネスや予防医療、ヘルスケアなどの様々な領域での活用を模索するとしている。例えば背骨が左右に傾く側弯や姿勢など、従来は平均化されて見えなくなってしまっていた体の情報も把握できるようになった。

 計測のほか、実測データに基づくリアルなアバターとしての活用なども想定している。「“ネットで服を買うときのサイズ選び問題を解決したい”ということは長年の我々の課題であるので研究は続けている。一方で、全然違う分野でこの技術を生かすということもやっていきたい。ここまでの精度のものができたので、(ファッション以外の)ほかのことにも使えるのではと、今回パートナー企業を募集している。」(伊藤氏)。

「どこでも作れる」技術でコスト低減

 パートナー企業との協業では、ツールのコストも大きな課題となる。ZOZOSUITのハードウエアとしてのコストは同社自身にとっても課題となってきた。同社では従来品の大量配布を開始した2018年4月以降、精度向上に向けたソフトウエアの改善に加えて「ハードウエアに当たる着用するスーツに関する開発もそれほど経たない時期に始めており、今回の新型スーツは2年以上開発してきたことになる」(伊藤氏)。

 「旧製品では、マーカーに伸びない白いインクを使っていた。通常、アパレルに使われるのは(生地に合わせて)伸びるインク。生地に直接印刷して硬化できるインクは市場になく、自社で調合しなければならなかった。また、ZOZOSUITは最大で身長2.1m程度まで対応していたが、身長2.1mともなると脚の長さは1m以上になる。それだけ大面積の生地にスクリーン印刷できる印刷機は特殊なものしかなかった。つまり、決まった工場、決まった工程でしか作れず、サプライチェーンが限定されてしまう。原価を下げるのも難しかった」(伊藤氏)

伸びないプラスチックフィルム製のスケールマーカー。胸1点と背中の2点、脚の両ひざに1点ずつの合計5点を配置する(撮影:加藤 康)

 「ZOZOSUIT 2はサプライチェーンの限定という課題を解消し、簡単にどこでも作れるようにしたいと考えた。そこで、スクリーン印刷ではなく、サッカーのジャージなどで広く使われる昇華印刷を採用した。中国、ASEANなどの一般的な繊維サプライチェーン、普通のアパレル工場で作れる。そのため、10着といった少量生産にも100万着規模の量産にも対応できる。また、一般的な生地代と印刷代で作れるのでコストは下がる。量産の規模により異なるので明言するのは難しいが、例えば230万枚といった大量生産であれば、(1枚当たりのコストは1000円としていた)旧製品に比べて数割下げられると見込んでいる」(伊藤氏)

 ただし、昇華印刷によるマーカーは伸びてしまうため、長さの絶対値が求められない。そのため、胸1点と背中の2点、脚の両ひざに1点ずつ、プラスチックフィルム製の「スケールマーカー」を配置することで、長さを求められるようにしている。

同様の柄が右腕にもあるが、これは縫製時に右腕と左腕のパーツを識別するための印刷による柄(撮影:加藤 康)

 また、今回の技術ではズボンだけ、腕だけといった“部分的な利用”も可能だ。例えば、マーカーによる模様をワークアウトウエアの見たい筋肉の部分だけに印刷することができる。トップスだけ、ブラジャーだけといった形にすれば、生地代、縫製代も抑えられるので価格は飛躍的に下げられるとする。

ネット通販の難関「靴探し」にZOZOMATで手応え

 従来品ZOZOSUITは結果的に不調だったのに対して、同じ計測関連事業でも2019年6月に発表した「ZOZOMAT」は好調な滑り出しを見せている。ZOZOMATは足の3Dサイズ計測に向けた製品で、本体は従来のZOZOSUIT同様の“水玉柄”マーカーなどが印刷された紙である。スマホアプリを使い、片足ずつ真上と斜め上6方向から足を撮影すると、両足の3Dモデル(足型)と足長や足幅、かかと幅、足甲高さといった靴に関連するサイズをスマホ画面に表示する。そして計測された足型と「相性度が高い」とする取り扱いのある靴を提示してくれる。

足の3Dサイズ計測に向けた「ZOZOMAT」(写真:ZOZOプレスリリース)

 実はこの相性度、単に計測から割り出した足長や足幅といった数値データを足と靴で比較しているのではない。3Dで計測したデータを3Dデータのままレコメンドに利用している。しかも各メーカーの靴の3DデータをZOZO側が持っているわけではないと言う。

 「ZOZOMATの場合、足の3Dサイズを図ると、その3Dの足をバラバラに分解して部位単位で数学上の形状を把握し、過去の計測者の中でその部位の形状が近い人を探す。全部探した結果、その人たちはどんな靴を履けるのか、あるいは履けないのかを見る。こうしたデータにすべて当たった結果から、各商品に対してサイズのレコメンドを出す」(伊藤氏)。

 同社としては、120万人以上のZOZOMAT利用者のうち、自分用の靴の購入履歴がある人に対して「その靴がフィットしたかどうか」を「Good」「OK」「Bad」の3択で確認することで学習用データを用意し、機械学習のトレーニングに利用しているという。「3Dのフルのデータを使うことで精度が出ると分かった。ZOZOMATはやればやるほど、ビジネス的にもいい結果が出ているし、お客様の満足度も上がっている」(伊藤氏)。返品率36.9%減につながったほか、新規会員獲得13万人以上の効果があったとする。

(撮影:加藤 康)

 同社ではZOZOSUITに関しても、3Dデータのままファッションに生かす方向の検討を進める。「ZOZOSUITでもZOZOMATと似たようなことはできる。せっかく超高精度3Dで測っているのに、“肩幅45cm”にすると3次元の情報が1次元以下になってしまう。肩幅45cmで商品を引き当てればぴったり合うというものではない。3次元で体のサイズを測っているのだから、そのデータを活用して機械学習などをふんだんに使ってサイズをレコメンドをする方がいい。その中で、着こなしとか着方とか、その商品やブランドの特徴を考慮した機械学習エンジンを組んで『このブランドならあなたはSですよ、この商品はLがお似合いですよ』ということをやるべきだと考えている。ブランドさんやショップ店員さんなど色々な方にご協力いただければ、こういう体形の人はこういうブランドのこういう服のフィット感を満足する/しない、ということが分かってくる。寸法で合わせるよりも精度が出るはずだ」(伊藤氏)。

 フィットネスや予防医療、ヘルスケアなどの別領域でも、「こういう体形の人はこういった健康課題を生じやすい」「こういった体形の人にはこういう運動・食事が適している」といったように、計測した3Dデータを利用し傾向の推測やレコメンドを行う同様の取り組みを実現できる可能性がある。同社自身ではファッション領域での活用を想定するが、別領域でも同じように活用しようとパートナー企業の募集に踏み切ったというわけだ。

 「レーザースキャナーは国内の設置台数も限られているし1回使えばコストもかかる。ZOZOSUITであれば、ボディスーツとスマホさえあればいつでもどこでも計測できる。ユーザー目線で考えれば、1回計測すればZOZOで洋服選びもできるし、ジムのアカウントとID連携していてデータが送られたり、疾病の早期診断も受けられたり…など、ZOZOSUITが計測のハブとなって1回の計測でいろいろなサービスが受けられるといい。こうしたサービス連携も視野に入れ、パートナー企業を募っている」(伊藤氏)

 実際、想定する分野でいくつか検討が進んでいるという。「技術には旬があるので、発表から1年以内にはお客様になにがしかのプロダクトを出したいと思っている。計測の技術としてはできていて、あとはサービスの作り込みなので1年あればできるのではと考えている」(伊藤氏)。

(タイトル部のImage:出所はGetty Images)