衣類以上にサイズと健康との関係が強いのが「足」と「靴」だ。健康の維持には歩けることが不可欠であり、歩ける状態を維持するためには適切な靴選びが不可欠だからだ。特に高齢化社会では足の重要度はさらに高まると考えられる。詳細な足の3Dデータを計測して適切な靴を選択する、さらには足のデータと健康との相関関係を明らかにするべく、取り組みが進んでいる。

 王子はガラスの靴の落とし主を探そうと、家来に国中を回るように命ずる。家来は女性たちに片っ端からガラスの靴を履かせ、ぴったりと合う1人の女性を探し出す──おとぎ話の有名な場面も、現在のコロナ禍ならば「国中を移動する家来が大勢の女性に接触するなんて!」と、実現は難しいに違いない。しかも現実界では、1足の靴に対してぴったりと合う1人の女性を探すのではなく、大勢の女性がそれぞれ自分にぴったりと合う靴を探しているのだ。

 三次元足型自動計測機などを製造するドリーム・ジーピーは、試着室のような個室の中で、人との接触なしにセルフ方式での詳細な足型計測を実現する「シンデレラキューブ」を2021年1月に発表した。1坪に満たないスペースに、片足につき約3万点を約15秒で計測するレーザー方式の三次元足型自動計測機や足底圧計測システム、計測の指示や結果などを表示するディスプレーなど、必要な計測機類を収める。足の3Dデータや寸法情報、足裏の圧力分布といった情報が簡単に得られる。

「シンデレラキューブ」は試着室のような個室になっているため、裸足の姿を他人に見られずに足の3Dデータなどを計測できる。側面に大型ディスプレーがあり、宣伝などに利用できる(撮影:Beyond Health)

 計測したデータはクラウド上のデータベース「Foot Bank」に収集し、そのデータをAPIシステムにより外部参照できるよう「Foot Bank API」も提供している。利用企業は計測データを自社の顧客管理システムに取り込んだり、商品開発やマーケティング等に利用できる。シンデレラキューブの計測データをスマホでのネット通販の製品に結び付け、いわば「デジタルフィッテイングが可能な、在庫を置かない極小店舗」としても利用できるというわけだ。完全な無人運用も想定し、遠隔から計測を支援したり質問に対応する遠隔サポート体制も現在構築中だ。非接触での接客に取り組む百貨店やアパレル店舗での利用に加え、無人販売を進めたい靴小売りや靴メーカー、ネット通販事業者との提携を見込む。

三次元足型自動計測機による計測結果の例。ディスプレーのQRコードから計測データを自分のスマホでも確認できる。同社は、大手百貨店の4店舗に三次元足型自動計測機6台を設置し、百貨店のアプリに計測データを取り込むためのAPI連携を行っている実績を持つ(撮影:Beyond Health)

 ただし、靴選びに向けてはもっと手軽にスマートフォン(スマホ)を活用する足の採寸技術が数多く登場している。アシックスが2017年にサービス開始した「MOBILE FOOT ID」やZOZOが2019年から配布している「ZOZOMAT」、さらにはBodygramの関連会社であるVisualizeが2020年に発表した3D足型採寸技術「Visualize」などである。

 こうした技術との差異化を図るべく、ドリーム・ジーピーが目を付けるのが「靴」と「足」と「健康」の関係性だ。足のサイズと全身の健康状態、靴はそれぞれ互いに強く影響し合っている。合わない靴は足指の変形や転倒を引き起こす原因になり得る。また、足の形状を調べることで体のバランスや筋力の偏りなどが分かるとの見方もある。さらに、「つちふまず」がなくなる偏平足や、糖尿病が引き金となって生じる様々な足の病気などを、靴によってサポートすることもできる。レーザーにより得られる詳細な足の3Dデータを、医療・ヘルスケア分野に活用しようというわけだ。

オーダーメイドインソールの加工をデジタル化

 同社が医療やヘルスケアといった分野に注力し始めたのは、10年ほど前のことだと言う。2006年設立の同社は、顧客からの「足のサイズ計測機が欲しい」という声に応えて、片足につき約3万点を約15秒で計測するレーザー方式の「三次元足型自動計測機」を開発。スポーツシューズメーカーで採用されるなど、スポーツ分野での小売りなどにおいて活用されてきた。ところが2008年のリーマンショックにより期待した小売りが低迷したことで、余儀なく方向転換を迫られる。そこで目を付けたのが医療分野だった。

 同社はまず、代表的な介護シューズメーカーである徳武産業と協力し、介護シューズの販売に向け、計測した三次元データに基づくシューズマッチングシステムを実用化した。介護施設などでは高齢者でも着脱しやすく歩きやすい「介護シューズ」を利用する場合があるが、着用者本人に着用感を確認するのが難しいケースがあり、サイズが小さすぎることを懸念して大きめを選ぶ傾向があるという。大きすぎる介護シューズは転倒を招き、さらには寝たきりにつながりかねない。三次元足型自動計測機を使えば定量的に足の大きさや形を見極め、適したサイズの靴を用意することができる。徳武産業では全国で100台以上の三次元足型自動計測機を用意して介護施設などを回り、フィッティングをデジタル化している。

 もう一つ、着目したのが医療系インソールだ。保険適用が可能な医療系インソールは、整形外科などで医師の処方により義肢装具士がオーダーメイドで作成する。従来の医療系インソールでは、元となる足型を把握するために「トリッシャム」と呼ばれる発泡素材をユーザーに踏んでもらい、できた足跡に石膏を流し込んでユーザーの足のコピーを作って、そこに材料を重ねてインソールを作成するという方法が広く採用されている。ただしこの方法では足型の採取や石膏の流し込みなどに時間がかかり、インソールの作成には数週間必要となる。

 そこでドリーム・ジーピーでは三次元足型自動計測機データを使ったインソール加工のデジタル化を実現した。要となるインソール設計について、義肢装具士の意見を集めながらインソール設計ソフトウエアを開発した。三次元足型自動計測機による足の3Dデータから足長や足囲などの数値が自動で反映し、矯正として変更する部分や利用する靴側の仕様により決まるインソール厚みなどの仕様を数値で指定すると、最適な表面カーブなど、インソールの表面形状をCADデータとして自動で設計する。

足の3Dデータからインソールの表面形状をCADデータとして設計(右パソコン)、さらにNC工作機向けのCAMデータに変換する(左パソコン)(撮影:Beyond Health)

 さらに、そのCADデータをNC工作機向けのCAMデータに変換して切削機で自動加工する仕組みを整え、インソールを自動で切削する専用の切削機器も用意した。表面材を貼り合わせるなどの仕上げには手作業が必要だが、全体としては手作業工程を大幅に削減し、作成時間の短縮を実現した。通常納期は1週間とするものの、最短では1~2時間での対応も可能とする。

 現在、インソールの設計や加工を行う場所は限られているが、足型の計測結果自体は“データ”なので、どこで計測しても瞬時にデータを送付し、インソールの設計・加工作業に取り掛かることができる。実際に、同社のインソール加工部門には、日本各地の整骨院などに設置された三次元足型自動計測機から計測データがオンラインで送られ、利用する靴や表面仕上げなどの仕様を指定するオーダーシートに従って次々とインソールが加工されていく。三次元足型自動計測機と同社はインターネットで接続されており、計測機の稼働状態も把握できるとする。

CAMデータを基に切削機で自動加工する。計測後その場で作成できるよう、店頭などに設置できるタイプの切削機も開発中だ(撮影:Beyond Health)

 同社では作成したオーダーメイドのインソールに関する効果検証も行っている。例えば2018~2020年にかけて、三井化学 名古屋工場で三次元足型自動計測機を使い、適正サイズの安全靴にオーダーメイドインソールを組み合わせて着用する実証実験を行った。工場で課題となる転倒防止に向けた取り組みの一環で、108人を対象とした。従来の安全靴について、モニターのほぼ全員が着脱しやすいように1~2サイズ大きい靴を選んでおり、さらに約3/4が紐をゆるく締めていたという。実験の結果、転倒防止への直接的な効果は確認できなかったものの疲労軽減効果があったという。「適正サイズの靴とインソールを利用した結果、裸足状態でのバランス力向上といった効果も確認できた」(ドリーム・ジーピー 代表取締役の荒山元秀氏)。

足のデータベースを構築

 こうしたインソール作成のデジタル化の次として、今、同社が力を入れているのが足の3Dデータを中心に関連する健康情報や靴の情報をまとめビッグデータ化する「Foot Bank構想」だ。冒頭に紹介したシンデレラキューブは単なる小売業向けの計測システムではなく、足の3Dデータや健康情報といったデータ収集のための“プローブ”であり、足以外のバイタルデータ計測機器やボディの採寸システムなどと組み合わせることも想定している。小売業に加えて医療関係やスポーツ関係、公共施設など、他社の採用に自社での設置を加え、日本国内1000カ所への設置を目指すとする。

 足のデータとしては、寸法情報や3Dデータ、立位と座位での足形状の変化、足裏の圧力分布のほかに、歩行の加速度やバランスなどがある。さらに圧力センサーやジャイロセンサーなどが入ったインソールを使った歩行データの計測なども研究中だ。「足に関するデータを基に足と靴のフィッティングの関係の数値化だけでなく、健康と足のデータの相関関係の数値化などを実現したい」(荒山氏)。

足裏の圧力分布の計測例。足指の一部が浮いている。かかとが細く、普段のパンプスでは足が前滑りして指が曲がっていることが疑われるという(撮影:Beyond Health)

 足のビッグデータ収集の第一歩として、大阪府泉大津市の「あしゆびプロジェクト」に参加している。あしゆびプロジェクトは、泉大津市が健康寿命の延伸に向けて取り組むプロジェクトの1つである(関連記事:「市民の『健康』『能力』を向上させるまちづくり、『アビリティタウン構想』」)。高齢者の介護へとつながる転倒の一因は足指の浮きにあるとして、幼児から高齢者までの幅広い年代層に足指を鍛える運動などを広め、正しい姿勢の習得や体幹の安定、転倒予防の実現を試みている。

 この中で、ドリーム・ジーピーは幼稚園や小学校、一般市民を対象に足型計測を行って足の3Dデータを集めるなど、研究を進めている。2020年6月には「My Foot Station 泉大津店」を設置、計測拠点としても活用中だ。さらに手軽に計測できるよう、泉大津市役所内にもシンデレラキューブや遠隔サポート体制を利用した三次元足型自動計測機の設置を検討しているという。最終的には約7万4000人の市民全員の足型を3Dデータ化し、データベースとして活用できる体制を整える計画だ。

協業により各種ソリューションを用意

 荒山氏は「我々は足のデータを集めるだけでなく、ソリューションを提供できるのが強み」と話す。インソールはその代表例と言える。同社では運動靴などだけでなく、就業時に利用する安全靴などに組み合わせるインソールを健康経営向けに提案する計画だ。「足を計測してオーダーメイドインソールを提供するといった、サブスクリプション形式のサービスを考えている。3カ月ごとに継続計測することが大切だ。インソールの利用により状態も変化するし、計測結果を見ることで本人の意識も高まる。転倒予防体操なども含めた総合的なサービスとしたい」(荒山氏)。

 2021年4月には、女性用パンプスにオーダーインソールを組み合わせた「REAL FOOT MODERATO」をクラウドファンディングで発表した(同製品の紹介ページ)。靴自体はオーダーではないが、同社が航空会社の客室乗務員やデパートの美容部員といった、いわゆる立ち仕事などに従事する1200人以上の実測データから解析した現在の日本人女性の“最大公約数”から作成した木型を使用したものを採用する。

 「日本人女性は靴を履くと足が痛いからと、実際よりも幅広サイズを選ぶなど、適正サイズよりも大きい靴を履いていることが多い」(荒山氏)。靴が大きいために足が前に滑るなどして位置がずれてしまい、結局痛みの原因になることもある。同製品ではオーダーインソールで踵と足のアーチを安定させ、蹴り出し時に足が曲がる部分(MP関節部)と靴の曲がる部分の位置を合わせることで、歩きやすく疲れにくいパンプスが実現できるとする。

ドリーム・ジーピー 代表取締役の荒山元秀氏。手に持っているのは、オーダーメイドインソールと組み合わせるパンプス「REAL FOOT MODERATO」。写真はインソールは未挿入の状態(撮影:Beyond Health)

 靴の中敷きとして使うインソール以外にも、事務所内などで利用するサンダル、室内履きやスリッパ、日常用のソックス、介護シューズや整形靴などを用意する。靴メーカーや靴下メーカーなど、関係する企業各社との協業により実現している。

 「インソールは、少しずつ足の理想形へと近づくように矯正していくという点で眼鏡と似ている。眼鏡と同様、足の状態を計測し一人ひとりに合った靴やインソール、ソックスなどを提供する“インソール眼鏡理論”を目指している」(荒山氏)。一人ひとりに合った製品を生産するマスカスタマイゼーションにもなり、現在の社会の流れにも合致する。

 さらに目指すのは、データを核とした多職種連携(IPW:Interprofessional Work)だ。「デンマークなど、海外では医師や理学療法士、義肢装具士からフットケアや靴など、幅広い複数の領域の専門職者が協働するIPWが進んでいる」(荒山氏)。足の計測データを共有することでIPWを実現できれば、足から未病対策を実施することができ、結果的に医療費削減につながるとみる。

(タイトル部のImage:出所はGetty Images)