コロナ禍でテレワークが定着した結果、移動や会議の合間などのちょっとした隙間時間がなくなり、自宅業務が際限なく続くようになってしまったと訴える人は多い。こうした中、ポーラ・オルビスグループのポーラ化成工業では、「me-fullness(ミーフルネス)」と名付けたプロジェクトがスタート。第一弾として、個々人の状況に合わせて気持ちの切り替えをサポートするスマホアプリを開発した。

プロジェクトを立ち上げた上級主任研究員の本川智紀さんは「このサービスで実現したかったのは、“ほっとひと息つく時間を取り戻すこと”です」と語る。経済産業省の令和3(2021)年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」にも選定された、疲労・ストレス問題に向き合うアプリとは?

「me-fullness(ミーフルネス)」プロジェクトを立ち上げた本川上級主任研究員(画像提供:ポーラ・オルビスホールディングス、以下同)
「me-fullness(ミーフルネス)」プロジェクトを立ち上げた本川上級主任研究員(画像提供:ポーラ・オルビスホールディングス、以下同)
[画像のクリックで拡大表示]

顔や指の動画から疲労・ストレス状態を可視化

 「テレワークが広がった今、朝から晩までパソコンに向かい続ける人や、一日中オンライン会議が続くという人は少なくありません。その結果、気持ちの切り替えができない、ストレスや疲労が溜まってやる気が出ない、といった悩みも耳にします。こうした状態を、“自己回復の時間”を作ることで、リセットできないかと考えたのが今回のプロジェクトのきっかけです。もともとポーラが提供してきた、化粧品によって乾燥した肌を潤しダメージを回復していくというスキンケアも、根本は同じアプローチだと思います。化粧品の開発で培ってきた肌分析技術を応用して、心も自己回復するという新たなサービスを提供したいと考えたのです」(本川さん、以下同)

 「me-fullness」プロジェクトで最初に開発しているのが、同社が30年以上蓄積してきた肌分析技術を、心身のウェルビーイングのために活用することを目指したスマホ向けアプリだ。

 「アプリではオフタイム向けの夜のモードと、オンタイム用の昼のモードを用意しました。夜のモードでは気持ちを和らげ、穏やかな眠りに導くことをテーマにしていますが、昼のモードでは気持ちの切り替えをサポートし、前向きになれるよう設計しています。どちらのモードも最初に自分の心身の状態を分析し、それに合わせた方法で心身を整えていく、という流れになっています」

「me-fullness」ではオフタイム、オンタイムそれぞれのシーンに合わせたメニューを用意
「me-fullness」ではオフタイム、オンタイムそれぞれのシーンに合わせたメニューを用意
[画像のクリックで拡大表示]

 「オフタイムモードではまず、今の自分の状態を知るために、アプリで顔の動画を30秒間撮影します。実は顔色は、血液の流れによって毎秒変わっています。この血流の状態を見ることで、心拍や自律神経の状態を分析するのです。また頬の質感やくすみ、吹き出物などからも現在の疲労状況を類推し、心身の充実度を導き出します。さらに将来的には、角層細胞の状態まで計測することも考えています。

 そして導き出されたデータに合わせ、音楽や美しい画像などで五感を癒す、おすすめのコンテンツが3つ提示されます。コンテンツは現在約500類あり、所要時間やなりたい状態に合わせて選べるようにしています。その時の心拍の状況と、選んだモードに応じて振動も出るようになっています。このバイブレーションは、幼い頃に眠りにつく前、トントンと優しくなでられた動きとも通じるところがあり、すべての楽曲は振動に合わせてオリジナルに制作したものです。これらによってストレスへの回復力が徐々に整えられていき、深くリラックスすることができます」

オフタイム向けの夜用モード。顔の動画から心と体の充実度を分析し「エネルギー余力度」「緊張・リラックスバランス」「滞在疲労リスク」、心拍数を表示する。結果に合わせて、美しい画面と音楽、振動がセットになったアートメニューを3種類表示する
オフタイム向けの夜用モード。顔の動画から心と体の充実度を分析し「エネルギー余力度」「緊張・リラックスバランス」「滞在疲労リスク」、心拍数を表示する。結果に合わせて、美しい画面と音楽、振動がセットになったアートメニューを3種類表示する
[画像のクリックで拡大表示]

 「一方、昼間向けのオンタイムモードでは、忙しい人も多いため、状態分析も顔ではなく、親指の動画撮影で簡単に行えるようにしました。頭をクリアに活性化したい人のためのレッドモード、仕事の合間にリラックスするグリーンモード、イライラを鎮めて冷静な状態へと導くブルーモードの3種を用意しています」

2022年1月に一般向けリリース、自治体や異業種との連携も

 このアプリを使った実証実験を20〜50代の男女1487名に行なったところ「気持ちの切り替えがうまくできるようになった」と回答した人が約7割に上ったという。

 「さらに、このアプリを使い続けたいという人が73%、セルフケアへの意識が向上したという人が83%、もっと新しい体験もしてみたいという人が92%と、自分をケアしようという意識が大幅にアップすることがわかりました。このアプリはジェンダーレスなものですが、女性のほうがもともと “気持ちの切り替えができず、本来の力を発揮できない“と答える比率が高く、アプリへの効果実感も高い傾向にありました。家庭や仕事でタスクが多い女性が多いこと、そして女性特有の健康問題で心身が揺らぎやすいことも影響していると思います。コロナ禍以降、HSP(Highly Sensitive Person、非常に感受性が強く敏感な人)が話題になっていますが、こうした傾向に悩む女性や、産前産後などでナーバスな状態にある人などからも“このアプリがお守りになった”という感謝のコメントがありました」

 現在はさらに長期的な実証調査も行っており、1月中に無料アプリ(iOS限定、一部機能は有料)としてリリース予定だという。

 「40人の男女を対象に行った実証試験では、ストレスの指標となるコルチゾールの値が有意に低下し、副交感神経が優位になるというデータも得られました。すでに、働く女性を対象とした実証実験で徳島市と連携していますが、他にも、宇宙船という限られた空間の中で長時間滞在する際などのストレス分析やリスク軽減に活かせるのではと、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同研究の計画が進んでいます。さらに、ストレス下で気持ちの切り換えをサポートし、本来の実力を発揮しやすくするというコンセプトは、移動空間やオフィス、教育現場やエンターテインメントなどさまざまなシーンで活用できると考えられるため、家電や食品、生命保険会社など異業種との連携も検討しているところです。これからも化粧品という枠にとらわれず、心の豊かさや幸せを追求し、ウェルビーイングを実現するお手伝いができればと思います」

(タイトル部のImage:Getty Images)