女性特有の悩みや課題を解決する「フェムテック」の広がりは、ますます勢いを増している。フェムテックのカテゴリーとしては、生理ケア(吸水ショーツや月経カップ、生理周期関連アプリ)、デリケートゾーンケア(コスメやサプリ)、不妊・妊活ケア(サプリや基礎体温・生理周期管理アプリ、ホルモン検査、卵子凍結サービス)、妊娠・産後・更年期ケア(オンライン健康相談サービスや漢方・サプリ、膣トレアイテム)、オンラインでの婦人科診療や低用量ピルの処方など多岐にわたっているが、今まで日本では見過ごされがちだった、女性のための「セクシャルウェルネス」(セルフプレジャーアイテムや性交痛軽減アイテムなど)も注目を集めているという。その波は、ついに百貨店をも動かした。

伊勢丹新宿店本館1階で行われた「センシュアルライフ〜わたしと向き合い、あなたとつながるフェムテック〜」の会場(撮影:齋藤 暁経、以下同)
伊勢丹新宿店本館1階で行われた「センシュアルライフ〜わたしと向き合い、あなたとつながるフェムテック〜」の会場(撮影:齋藤 暁経、以下同)
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伊勢丹新宿店で最大級のフェムテックフェア

 3月17日〜4月6日の3週間、伊勢丹新宿店本館1階プロモーションスペースにおいて、「センシュアルライフ〜わたしと向き合い、あなたとつながるフェムテック〜」と題したフェアが開催された。

 イベントのキュレーターを務めたのは、フランス・国立パリ13大学でフィトテラピー(植物療法)とセクソロジー(性科学)を学んだ、植物研究家の森田敦子氏。日本でいち早くデリケートゾーンケアを提唱、「パリでは一流百貨店の1階にセルフプレジャーアイテムが並び、マダムたちが堂々と購入している。女性が自分の性と向き合い、肯定的に受け止める流れを日本でも作りたい」と啓蒙活動を続けてきた。その思いに賛同したのが伊勢丹新宿店だ。デリケートゾーンを洗う・潤すケア製品、サニタリーグッズ、インナーケア、ランジェリー、光美容器、膣トレやバイブレーターまで、42ブランド155アイテムを揃えた最大級のフェムテックイベントとなった。

 製品の選定には、海外のフェムテックブランドの輸入代理などを行うアジュマ代表の北原みのり氏をはじめとする専門家も協力。自身の性と正面から向き合う重要性を伝えるため、日本産科婦人科学会専門医で東峯クリニック理事長の松峯寿美氏や、フランスの性医学の権威であるクロード・エスチュール氏から寄せられたメッセージも展示した。そこには、明るくポジティブに、でも正しく、知識と情報を身につけてほしいという森田氏の考えがある。

会場のキービジュアルは、現代アーティストのKAORUKO氏が担当。女性が美しい下着やコスメに彩られている作品が、フェムテック製品とともに展示された
会場のキービジュアルは、現代アーティストのKAORUKO氏が担当。女性が美しい下着やコスメに彩られている作品が、フェムテック製品とともに展示された
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1階で初のセクシャルグッズ販売にクレームは0件、カウンセリングでは涙を流す女性も

 伊勢丹新宿店ではこれまでも、デリケートゾーンを洗浄、保湿するようなアイテムや生理用品は、地下2階のビューティーアポセカリーなどで取り扱ってきた。だが、バイブレーターなどのセルフプレジャーテックの販売は、今年2月に行われたフェムテックフェアが初。しかも人通りが多く、注目度の高い本館1階での販売は初めてのことで、「正直、お客様からマイナスの反響があるかもしれない、と恐れていた部分もありました」と伊勢丹新宿店の婦人肌着アシスタントマーチャンダイザー、上西真由子氏は語る。

 「でも蓋を開けてみると、クレームやお叱りの言葉は1件もなく、むしろ喜びの声が数多く届きました。膣トレを友人と一緒に始めようと思うとか、伊勢丹で扱っているバイブレーターなら安心、といったお客様も。私たちも、女性がより快適に過ごすための新しい健康家電のようなイメージでご提案させていただきました」(上西氏、以下「」内は全て上西氏)

 会場のデザインにも苦心したという。「クローズドにしすぎると、怪しげな雰囲気になってしまうので、明るくオープンにしたいと思い、外からも様子がわかるように設計しました。とはいえ、プレジャーテックを扱うので年齢制限もありますし、時期的に密になることや、興味本位の男性が入ってくるのを避けたいということもあり、入口でQRコードを読み取り、簡単なアンケートに回答していただいた上で入っていただく形に」。結果、通りすがりの女性も入りやすく、混乱やトラブルもなかったという。

明るくモダンな印象の会場内で販売されたデリケートゾーンケアや膣トレ、サニタリーアイテム
明るくモダンな印象の会場内で販売されたデリケートゾーンケアや膣トレ、サニタリーアイテム
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 来場者を年齢別で見ると、30代、40代が中心でそれぞれ約3割、20代が2割弱、50代以上が1割強だったという。

 「まず、デリケートゾーンを洗う、潤すケアや、最先端のサニタリー用品への興味が高かったです。シャンプーと洗顔、ボディウォッシュを変えるのと同様、デリケートゾーンも別にケアすべきという概念は、少しずつ浸透してきた印象があります。月経カップや吸水ショーツは、生理用ナプキンによるかぶれや不快感がある人にニーズがあるほか、ゴミの削減や災害対策としても注目されています。我慢や苦痛とセットだった毎月の生理とポジティブに向き合うことは、女性を解放する大きな手段になっています」

 一方で、骨盤底筋の緩みや尿もれに悩みを抱え、膣トレグッズを購入する人も目立ったという。月経カップや吸水ショーツに加え、バイブレーターなどのセルフプレジャーテックについても、専門知識を有する女性販売員が使い方を丁寧に説明。直接目で見て、手で触れて使用感などを確認できると、ハードルが一気に下がると好評だったという。

製品を売るだけではなく、共感できるメッセージの発信を

伊勢丹新宿店の婦人肌着アシスタントマーチャンダイザー 上西 真由子氏
伊勢丹新宿店の婦人肌着アシスタントマーチャンダイザー 上西 真由子氏
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 ユニークだったのは、輸入ランジェリーや真っ赤なリップ、ネイル、フレグランスまで会場で展開・販売されていた点だ。

 「デリケートゾーンを日々ケアすると、美しいランジェリーも自信を持って楽しめるようになります。さらに生理の苦痛から解放され、快感を追求できたり、尿もれを防げたりして、女性が女性であることをポジティブに受け止められるようになると、その延長線上でメイクやフレグランスへの興味も高まると考えたのです」

 また日本ではまだタブー視されがちな分野だからこそ、オープンに話せる環境を、という森田氏の想いから、辺見えみり氏や野宮真貴氏など幅広い世代のスペシャリストとともにインスタグラムでライブを実施。ビューティやファッションとともにフェムテックについて語り合った。

 さらに会場では森田氏による相談室を設け、期間中に24回、一人ひとりの悩みに直接向き合い、アドバイスを行ったという。「悩み、傷ついていた女性の多くが、心が楽になったと涙を流していたのが印象的でした」と上西さん。性の悩みや問題を誰にも打ち明けられず、一人で我慢している女性が多いというリアルな現実も浮き彫りになった。

 今後もデリケートゾーンケアや吸水ショーツなどのサニタリー商品の一部はビューティーアポセカリーやECサイトで販売するほか、反響の多かったフェムテック製品の取り扱いを継続したいと意欲を見せる。

 市場規模の大きさも注目されるフェムテックだが、一時的なブームではなく、女性が自分自身をいたわり肯定する文化として定着すれば、社会的にもポジティブな連鎖を生むだろう。

(タイトル部のImage:Getty Images)