妊娠中の厳しい体重制限は国際的にも批判の対象に

 では、低出生体重児はなぜ問題となるのか。それは、80年代後半以降、世界中の多くの研究から、小さく生まれた子が抱える健康リスクの高さが次々と明らかになってきているからだ(関連記事:若い女性の「やせ対策」が急務なワケ)。

 発端の一つは、オランダで第2次世界大戦中に飢餓を体験した妊婦から生まれた人たちを長期間追跡した研究。胎児期に栄養不足にさらされると、小さく生まれやすいうえ、食糧難でも生き延びられるように脂肪などの栄養分を蓄えやすいように遺伝子が変化した状態で生まれてくる。だが、そうした赤ちゃんも実際には食糧が十分にある環境で育つため、早い段階で生活習慣病などになりやすくなってしまうのだ。

 このように胎児期や新生児期の環境が将来の健康を左右するという考え方は、DOHaD(ドーハッド:Developmental Origins of Health and Disease)学説と呼ばれ、医学界で注目されるトピックの一つとなっている。

 さらに研究が進んだ今では、低出生体重児は大人になってからの生活習慣病リスクが増えるだけではなく、統合失調症、慢性呼吸器症候群、骨粗しょう症などさまざまな疾患になるリスクが上がること、また女性では妊娠した際に妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群を発症しやすくなり、低出生体重児を出産しやすくなることなども新たに分かってきている。

 つまり、低出生体重児の割合が高い社会は、様々な疾患のリスクの高い人が多い社会ということ。実は、以前からこの状況を早く改めなくてはならないという声は上がっていたものの、動きはゆっくりだった。それが今回、「妊婦の体重管理数値」の見直し機運を強く後押ししたのは、国際的に権威のある米科学誌「Science(サイエンス)」の記事だ。

 同誌18年8月号では、「妊娠中にスリムでいることが未来に与える代償は大きい」というタイトルのコラムを掲載。日本の妊娠中の厳格な体重制限が低出生体重児を増やし、胎児の将来の健康へ悪影響を与える可能性があると指摘したのだ(Science. 2018 Aug 3;361(6401):440.)。

サイエンス誌は、成人時点の日本人の身長が、1980年生まれ以降低下しているという成育医療センターの研究論文にも触れ、妊婦に対する厳しい体重管理や、やせた妊婦の多さが日本の子供の将来の健康に与える影響について、警告した(写真:稲垣 純也)
サイエンス誌は、成人時点の日本人の身長が、1980年生まれ以降低下しているという成育医療センターの研究論文にも触れ、妊婦に対する厳しい体重管理や、やせた妊婦の多さが日本の子供の将来の健康に与える影響について、警告した(写真:稲垣 純也)
[画像のクリックで別ページへ]

 既に、板倉教授らは今回の体重増加指導の目安の作成を提案していたが、このサイエンス誌の記事もきっかけとなり、日本産科婦人科学会は97年に出した体重増加の指標を撤回。「産婦人科診療ガイドラインー産科編」では、以前から「妊娠中の栄養指導に関して、現時点では厳しい体重管理を行う根拠となるエビデンスは乏しく、個人差を配慮してゆるやかな指導を心がける」と推奨されていたものの、なかなかそれが守られずにきた。今回発表された目安の数値は、厳格な体重制限をしない方針を具体的にしたものといえる。

 「今回の目安の公表で、妊婦さんと出産に関わる医療関係者に最も伝えたいメッセージは、病気のない、BMI30未満の妊婦さんには『無理な体重制限は必要ない』ということ」と板倉教授は話す。

 ただし、出産現場の妊婦の体重管理の指導が変わるだけでは、この問題は解決しないのが日本の抱えるもう一つの課題だ。