妊娠中、健康的に体重を増やせる食品・アプリの開発を

 低出生体重児が減らないもう一つの要因は、20代~30代の出産適齢期の女性にBMI18.5未満のやせの人が多いこと。この世代はダイエット志向が強く、国民健康・栄養調査[19年]によると、20代女性の5人に1人(20.7%)、30代女性の6人に1人(16.4%)がやせで、栄養不足に陥っている可能性がある(図2)。

図2●20代、30代女性はやせが多い
図2●20代、30代女性はやせが多い
BMI18.5未満のやせに相当する女性は20代が最も多く、20年以上前から2割前後で推移している。30代もやせの割合が20代に次いで多い(厚生労働省「国民健康・栄養調査」を基に作成)
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 板倉教授は、妊娠前の女性の体形と、低出生体重児の発生率の高さの関係について、次のように話す。「妊娠前にBMI18.5未満のやせの女性は今回の目安通り体重を増やしたとしても、妊娠前から普通体重だった女性に比べて、低出生体重児の出産、早産、難産など周産期事象の発生率が高いことも分かってきている。つまり、いまBMI18.5未満の女性は、妊娠してから体重を増やすのではなく、妊娠をする前から栄養バランスを考えた食事を摂って、体重を“普通体重”にしておくことが大切」。

 近年、赤ちゃんの一生涯の健康は、生まれる前からのお母さんの体の状態にも大きく影響を受けるという事実が明らかになり、WHO(世界保健機関)なども盛んにプレコンセプションケア(妊娠前からのケア)の大切さを啓発するようになっている。

 厚労省が、今回の産婦人科学会の示した数値を盛り込んだ「妊娠前から始める妊産婦のための食生活指針」も、以前は「妊産婦のための食生活指針」だった。「妊娠前から」と明記したことは、重要な意味があるという。

 日本では、肥満はメタボリック症候群と強く関連し、心臓病、脳卒中のリスクを高めるだけでなく、妊娠・出産時には難産、巨大児出産のリスクが高めるなど、健康に良くないことは良く知られている。しかし、まだまだ、やせていることのマイナス面、特に、分娩・出産面ではその問題点が大きいということは周知されているとは言えない。このことをしっかりと出産現場、そして社会に浸透させる必要がある。

 さらにもう一つ目を向けるべきは、たとえそれに気づいたとしても、やせている女性が体重を増やすこと自体の難しさに対する対策の重要性だ。

 「やせている人の中はもともと食が細い人もおり、すぐに食べる量が増やせない場合も多い。また、妊娠中に12~15㎏もの体重増加が実現可能かどうかも、これから検証していく必要がある。今後は、ビジネス面でも、やせるためのダイエットではなく、食の細い女性が、妊活中や妊娠中に栄養バランスも考えつつ無理なく体重を増やすための食品や、アプリなどの開発が進んでほしい」と板倉教授。

 「やせることや妊娠中の体重制限は健康によいこと」という認識がしみついている日本の社会だが、その考え自体を改める機会づくりと、妊婦の適正な体重増加をサポートするサービスや製品が多く出てくることを期待したい。

板倉敦夫(いたくら・あつお)氏<br>順天堂大学医学部産婦人科学講座教授
板倉敦夫(いたくら・あつお)氏
順天堂大学医学部産婦人科学講座教授
1986年名古屋大学医学部卒業。同大周産母子センター助教授、埼玉医科大学医学部産科婦人科教授などを経て、2013年より現職。専門は周産期医療、ハイリスク出産管理。日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドラインー産科編 2020」作成委員長。同学会周産期委員会・これまでの用語や基準を見直す小委員会委員長として、「妊娠中の体重増加指導の目安」を作成。著書に、『産科Q&A-一つ上を行く診療の実践』(中外医学社)など
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(タイトル部のImage:Getty Images)

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