ホルモン治療を上手に活用

 さらに3つ目の体にやさしくない理由は、月経そのものの成り立ちにあるという。月経は体が妊娠の準備を行う一連のプロセスの中で起こる。排卵後、子宮内では女性ホルモンの作用で子宮内膜が厚くなり、受精卵の着床に適した状態に整えられる。そして妊娠が成立すれば子宮内膜の一部は胎盤となって胎児を育てるが、一方、妊娠が成立しない場合は子宮内膜を血液と一緒に子宮の外に排出する。これが月経だ。

 妊娠のために準備をし、妊娠しない場合は月経という形でリセットして、再び妊娠の準備を始める。当人が妊娠しようとしているか否かに関係なく、体は約1カ月周期でそれを繰り返す。どうしてこんな仕組みが出来上がったのかというと、それは「母体を守るため」との説が有力なのだという。百枝部長は次のように説明する。

 「妊娠すると胎児は胎盤から酸素や栄養素を取り込みますが、ヒトの場合、この胎盤が母体に対して非常に“攻撃的”にできています。『血絨毛胎盤』といって、胎児が栄養を取り込む絨毛が木の根っこのように母体の血液中にまで入り込む構造をしているのです。この絨毛は侵入する力が非常に強いので、下手をすると血管どころか、その先の子宮壁や筋肉層にまでもぐり込んでしまいかねません。そのため母体は子宮内膜を肥厚させることで自らを守ろうとしますが、厚い子宮内膜を常に維持し続けるのは大変です。そこで一定周期でリセットさせるほうが効率的とみなし、子宮内膜を定期的に剥がして体外に排出するという月経の仕組みを作り上げた……。進化生物学的には、そのような解釈が有力なのです」

 直立二足歩行に伴って脳が巨大化し、胎児の発育に多大なエネルギーを要するようになった結果、攻撃的な胎盤が生まれ、それに抵抗する形で月経が生まれた、というのである(もちろん仮説だが)。実は、このような月経はヒトとごく一部の霊長類(ニホンザルやカニクイザル等)などにしか見られない現象だという。「犬や猫にもあると思いがちだが、あれは発情に伴う出血であって月経ではない」(百枝部長)のだそうだ。

 壮大な話になったが、つまるところ月経を何度も繰り返すこと自体が女性の体にとっては負担になるというのである。

 「生涯の月経回数が50回程度だった昔なら、月経に伴う負担が問題になることもありませんでしたが、現代は妊娠・出産を目指していないときにも月経をほぼ毎月繰り返しています。つまり、“ムダな月経”が多いのです。そしてムダな月経にもかかわらず、前述したような月経痛やPMSに苦しんだり、病気になるリスクを背負い込んだりしています。ちょっと刺激的な言い方かもしれませんが、『ムダな月経は体に悪い』と言っても過言ではありません」

 そこで百枝部長が提案するのが、「月経に振り回されるのではなく、月経を上手にコントロールしよう」。今のところ最も効果的な方法は、ホルモン剤を使って排卵を止め、前述した子宮内での“妊娠の準備とリセット”の仕組みを一時的にストップさせることだという。これにより月経が止まり、PMSや月経痛などの症状も消失、もちろん妊娠もしなくなる。

 「妊娠を望まない時期はそうやって月経をコントロールし、いざ妊娠を望む段になればホルモン剤の使用を止める。そうすれば月経は自然に戻り、妊娠もできるようになります。ホルモン剤に対しては副作用を心配する声も聞きますが、近年は低用量化が進み、以前に比べると血栓などの副作用は格段に減りました。現代特有の多すぎる月経の弊害に対しては、ホルモン剤という多少不自然といわれる方法を使ってでも、ちゃんと対処したほうがいい。それが産婦人科医としての提案です。もちろん、対象となるのは月経痛などの症状がつらい人であり、困っていない人がそこまでする必要はありませんが」