2021年は3月19日だった、世界睡眠協会(World Sleep Society)が制定した「世界睡眠の日」。この日に合わせ、ヘルステックカンパニーのフィリップスが実施した睡眠に関する調査(全世界13カ国の成人1万3000人を対象)によれば、新型コロナウイルス感染症拡大により睡眠にネガティブな影響を受けた人の割合は、世界では回答者全体の37%、日本に絞ると48%だったという結果が出た(※1)。

睡眠不足や睡眠障害は心身に不調をきたすなど、ネガティブな影響があると様々な研究で示されている。逆に良質な睡眠が取れると、パフォーマンスが向上し、子どもなら体の成長や脳に良い影響を与えるという研究もある。

しかし子育て世代を見てみると、不眠の割合は高く、特に未就学児を育てる働く女性は、自身の睡眠が「全くとれていない」または「あまりとれていない」と感じている割合が高いという調査結果もあるほどだ(※2)。

親の睡眠不足は子どもの生活にも影響してくるだろう。また、「人生100年」において、幼少期から睡眠負債を抱えていたら、生活習慣病をはじめ、リスクが大きくなりそうだ。

乳幼児の睡眠問題についてのカウンセリング、育児支援者・医療従事者向け講座などを行い、夜泣き解決を通じて“自分軸の子育ての実現”をサポートする小児スリープコンサルタント、医師の森田麻里子氏に「親子の睡眠を改善する方法」について聞いた。

森田麻里子氏 医師、小児スリープコンサルタント
もりた・まりこ 1987年生まれ、東京都出身。2012年東京大学医学部医学科卒。亀田総合病院にて初期研修後、仙台厚生病院、南相馬市立総合病院にて麻酔科医として勤務。2017年の第1子出産をきっかけに、2018年より現活動を開始。2019年昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤勤務。乳幼児の睡眠問題についてのカウンセリングや、育児支援者・医療従事者向け講座などを行う。著書に『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』『子育てで眠れないあなたに』がある(写真提供:森田麻里子氏)

睡眠時間は大人でも7~9時間必要

コロナ禍により、乳幼児から就学児(小学生から高校生)によるデジタルメディアの視聴時間や接触時間が増え、就寝時間が遅くなるなど、睡眠に悪影響が見られるとの調査結果があります。こうした相談を受けることはありますか(※3)。

 新型コロナ禍由来の睡眠に関する相談はまだありません。また、子どもとデジタルメディアの視聴時間や接触時間の増加と、睡眠への影響を、新型コロナ禍と直接的に結びつけることはできないと思います。

 しかし、間接的には外出が制限されることで、日光を十分に浴びられず、脳の松果体のホルモンであるメラトニンが出にくくなる可能性はあります。催眠作用や睡眠リズムを調節する機能があるメラトニン受容体は、朝、光を浴びてから14~16時間後に上昇し始めて、催眠作用を発揮すると言われていますので、それが睡眠に影響する可能性はあるでしょう。

 ただ、以前から日本人は子どもも大人も睡眠時間の短さが際立っているため、新型コロナ禍が原因で睡眠時間が短くなったとは、一概に言えないのではないかと思います。

睡眠に特化して企業の健康経営の支援などを手掛けるブレインスリープ(東京・千代田)が2021年3月に発表した睡眠時間に関する調査結果では、日本人の平均睡眠時間は6時間43分。同社が行った昨年の調査よりは16分長くなっていたといいます。それでもOECD加盟国の平均睡眠時間8時間25分に比べると、まだ1時間42分短いことになります(※4)。そもそも、どれくらい眠ると良いのでしょうか。

 National Sleep Foundation(米国国立睡眠財団)では、昼夜合計の睡眠時間を以下のように推奨しています(※5)。

0~3カ月:14~17時間
4~11カ月:12~15時間
1~2歳:11~14時間
3~5歳:10~13時間
6~13歳:9~11時間
14~17歳:8~10時間
18~64歳:7~9時間
65歳~:7~8時間

 働き盛りの世代でも最低7時間、できれば9時間眠ったほうが良いとされています。

日本の赤ちゃんは世界の中でも睡眠不足

日本人の平均睡眠時間は、確保すべき最低ラインを切ってしまっているんですね。乳幼児期も睡眠時間が短いのでしょうか。

 研究者の岡田(有竹)清夏氏による「乳幼児の睡眠と発達」(※6)という論文には、「Mindellらが行った17の国と地域における0歳から3歳までの乳幼児を対象とした睡眠習慣についての国際比較によると、1日あたりの総睡眠時間が最も短かったのは日本(総睡眠時間:11.62時間)であり、次いでインド(11.83時間)、韓国(11.90時間)、台湾(12.07時間)、香港(12.16時間)とアジア諸国が占めていた(Mindell et al.,2010)」と示されています。

 つまり日本の赤ちゃんの睡眠時間は17の国と地域で最下位だったのです。ちなみに米国の総睡眠時間は12.93時間、最も長かったニュージーランドが13.31時間でした。この研究結果から11年が経ちますが、状況は大きくは変わってないでしょう。

 問題は、睡眠時間が短いアジア諸国の乳幼児の中でも、日本は夜だけでなく、午睡(お昼寝)時間も短いことです。大人も睡眠不足が常態化していますし、睡眠の優先順位が高い人が少ないですよね。「24時間働けますか」というマインドがあるのではないかと感じます。

睡眠時間を削ることを美徳とする傾向はまだありそうですね。親の就寝時間が乳幼児の睡眠時間に影響することはありますか。

 私自身も身に覚えがあるのですが、子どもを寝かせるときに、自分も一緒に寝てしまおうと考えるがために、寝るまでの間、子どもを親と同じ明るいリビングで過ごさせてしまい、子どもの就寝時間が22時、23時など遅くなるケースがあるのではないでしょうか。就寝時間が遅くなった分、起床時間を遅らせたいと思っても、親が仕事に行くのに合わせて子どもも起こさなければならないとなると、必然的に睡眠不足になります。

 また、子どもを寝かせようとしても、人には明るくなると目を覚ますという機能が備わっています。これは体内時計によるものです。体内時計(生物時計)の主な部分は脳内の視床下部の視交叉上核に存在しますが、24時間よりも少し長いサイクルで概日リズム(サーカディアンリズム)を刻んでいるため、通常の時計とずれが生じるのです。それを「同調因子」によって合わせている。つまり、目から強い光が入ると視床下部に信号が送られて、時刻が合わせられるようになっています。

 だから、どれほど遅く寝ても、明るくなると目が覚めるのです。就寝時間が何時であろうと、起床時間は世界的に朝の6時台という調査結果もありますが、これはそうした理由もあると考えられます。

肥満につながる乳幼児の睡眠不足

乳幼児期に睡眠時間が足りていないと、どのような問題が起きますか。

 睡眠コンサルタントとしての経験から言えるのは、乳幼児期、特に赤ちゃんの場合は、睡眠不足だと日中不機嫌になる傾向があります。ですので、何をしても泣く、どうやって泣き止ませたらいいか分からないなどの悩みがある場合、まず睡眠不足を考えるほどです。

 また、遅寝遅起き傾向の強い幼児で、「午前中はぼんやりしている」「怒ってものを投げる」などと言われたりする場合も、早寝早起きをさせ、睡眠時間を十分確保することによって、問題が改善されていくことがあります。

病気のリスクはありますか。

 睡眠不足だとBMIが高い、つまり肥満傾向になるという研究は数多く発表されています。「富山出生コホート研究からみた小児の生活習慣と肥満」では、3歳時の睡眠不足が小学校4年時、中学校1年時の肥満に影響しているという結果も出ています。同研究では、3歳児に早寝をしていた子どもの方が、小学校4年時にも早寝になりやすい傾向が多少あるとされています(※7)。

 また、先ほどお話ししたメラトニンは細胞を守り、規則的に眠気をもたらす他に、性的成熟を必要な時期まで抑える作用があるホルモンでもあります。一生の中で1~5歳くらいまでに最も多く分泌されるため、この時期を「メラトニンシャワーを浴びる」と表現されるほどです。少なければ、例えば初潮を迎えるのが早くなるなど、第二次性徴(思春期に起こる体の変化)が早まってしまいます。

メラトニンは光の刺激を受けて14~16時間後、暗くなると分泌されるとのことですから、夜明るいところで親が寝る時間まで一緒に過ごしていたら、メラトニンシャワーがどんどん減ってしまいますね。やはり、「寝かしつけ」の際に「添い寝」をするのではなく、子どもだけで眠れるようにトレーニングしたほうが良いということでしょうか。

 必ずしも添い寝がよくないということではありませんが、寝かしつけのときに親が側にいると、睡眠トラブルが多いというデータはあります。

 例えば「夜中起きる回数が多い」という現象は、主に授乳での寝かしつけが関連(影響)していると言います。また就寝時に1人で寝ていないこと、哺乳瓶を与えてする寝かしつけ、そして月齢も影響すると言います(※8)。

子どもだけで眠れるようにすることは、その後の人生にも大きく関わりそうですね。

 私がお伝えしているベストな方法は、「ずっと側にいる寝かしつけをしないこと」。深い睡眠から浅い睡眠へと移行するとき、大人でも少し目が覚めることがありますよね。乳幼児の場合、その時にそのまま入眠できればまだ深く眠れますが、例えば、寝かしつけの時に授乳が必要だったり、添い寝が必要だったりすると、夜中に目が覚めた瞬間、「添い寝してくれていない」「授乳してくれていない」と気づいて、驚いて泣いて親を呼ぶことになります。そしてまた、添い寝や授乳をしないと眠れないわけです。

 そうなると当然親も睡眠を妨げられますし、子ども自身も「泣いて親を呼んで、寝かしつけてもらう」という行程を経なければならなりません。1人で眠れるようになれば、ひと時目が覚めても、スムーズに入眠でき深く眠れるようになります。

 日中は元気に活動し、夜はぐっすり眠るという良い生活リズム、良い睡眠の習慣をつけておくことは、乳幼児期だけでなく、生涯役立つと考えられます。(後編に続く)

【今回のポイント】
  • 日本の乳幼児は世界の中でも睡眠不足
  • 親の就寝時間が乳幼児にも影響
  • 睡眠不足の子どもは肥満になりやすく、第二次性徴が早まる恐れ
  • 乳幼児期の子どもにはメラトニンシャワーが必要
  • 良い睡眠習慣=生涯役立つ習慣

(タイトル部のImage:WESTEND61/アフロ)