「せっかく治療がうまくいっても、長期間のリスクで患者と家族が不幸になったら意味がない。がん治療の目標は、苦痛のない有意義な人生の時間確保だ」。“幸せ”ながん治療人生を後押しするプロジェクトの発表会に登壇した宮崎善仁会病院 消化器内科・腫瘍内科 医師の押川勝太郎氏は、こう語った。(小谷 卓也=Beyond Health)

*以降の内容は、2019年10月15日に掲載した記事の再録です。肩書・社名、事実関係などは原則、掲載時のままとしています。

 「生まれ育った場所にもう一度行きたい」「子どもの結婚式に参加したい」──。

 がんなどで闘病中の患者の「やりたいこと」を実現し、支え生きるモチベーションを高める。そんなプロジェクトが2019年10月に始まった。医療情報サービス大手のエムスリーが開始する「CaNoW(カナウ)」だ。

 「限りある時間の中でやりたいことの実現を目的にして、人生を輝かせるためのお手伝いをする」。エムスリー CaNoW事業部部長の浅井有紀子氏はそう語る。

エムスリー CaNoW事業部の浅井氏(写真:Beyond Healthが撮影、以下同)
エムスリー CaNoW事業部の浅井氏(写真:Beyond Healthが撮影、以下同)
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製薬企業や保険会社などからの協賛金で事業運営

 医療資格を持つエムスリーのプランナーが中心となり、患者の希望を最大限優先しながらプラニングを行う。プランの実現には、医療機関との連携により医療・介護従事者の見守り、緊急時の支援体制を構築し、安全性を確保する。

 願いの実現にかかわる患者や家族の費用は同社が負担する。製薬企業や保険会社などの企業から集める協賛金で事業運営する。今度3年間で1000人以上の患者を支援していく計画。願いを実現できた患者の様子は記事や動画にまとめ、エムスリーの医療者や患者向けサイトで配信していくという。

 プロジェクト発足にあたり、映画「最高の人生の見つけ方」(©2019「最高の人生の見つけ方」製作委員会)のタイアップ企画として、10人の患者の願いを無料でかなえる。

 「CaNoWには、願いが“かなう”という意味と、“can now”(今できる)という意味を込めた。病気が治らなければ“負け”ととらえることなく、やりたいことを実現して人生をまっとうできれば“勝ち”だと思えることが大切。残された時間が限られているからこそ、前向きに日々を過ごすための彩りを、CaNoW事業を通して多くの人に届けたい」(浅井氏)。

がん治療の目標は「苦痛のない有意義な人生の時間確保」

 プロジェクト発表会見では、宮崎善仁会病院 消化器内科・腫瘍内科 医師の押川勝太郎氏の講演や女優の古村比呂氏とのトークセッションが行われた。

トークセッションの様子。右が宮崎善仁会病院の押川氏、中央が女優の古村氏
トークセッションの様子。右が宮崎善仁会病院の押川氏、中央が女優の古村氏
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 押川氏は抗がん剤治療と緩和ケアを主体としたがん治療に24年間取り組んできた一方、2010年に宮崎がん共同勉強会を発足し、約300回の患者勉強会を開催してきた。YouTubeを活用してがん治療や診断などについて患者や家族にアドバイスなどを行っており、これまでに300本以上のコンテンツを配信している。

 同氏はがん治療と患者勉強会に取り組む中で、「アクティブ緩和ケア」という考えを提唱している。「4人家族なら2人ががんを患う今、自分や家族ががんになることを想定のうえで、いざがんになったときの動揺や混乱を抑え、精神的・肉体的苦痛の緩和方法を知っておくべき」(同氏)という考えからだ。

 抗がん剤や、その副作用対策の薬剤の進歩などがん治療が進展しているが、「せっかく治療がうまくいっても、長期間のリスクで患者と家族が不幸になったら意味がない」と同氏は指摘する。がん治療の目標は、苦痛のない有意義な人生の時間確保だと説いた。「必要以上に自信を失っている患者に対して、自信を取り戻して幸せな治療人生を後押ししてくれることをCaNoWに期待したい」(同氏)。

 古村氏は、2012年に子宮頸がんの手術を受けた後、17年に再発、その後再々発し、今年1月まで抗がん剤治療を受けていた。同氏は「治療中は、何かをやりたいとの思いを抱けなかった」と長い闘病を振り返り、CaNoWを利用できたなら「迷惑をかけっぱなしだった家族と一緒に、私が生まれ育った北海道を旅行したい」などと話した。

(タイトル部のImage:Beyond Healthが撮影)