当事者目線の商品が少ない

 「認知症当事者のことを考えた商品って思っていた以上に少ない。ということを実感しました」

 そうしたなか、2017年にDFCパートナーズの取り組みにかかわるようになった。

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 「DFCは、暮らしの知恵とか商品、モノを認知症の当事者や家族とつなげることを進めています。父のこともあってそうした取り組みに興味を持ったのです」

 そして18年10月、オンラインショップ『dfshop』で展開するための商品開発プロジェクトが立ち上がった。

 「もちろん認知症当事者の生活を支えるための商品開発なのですが、コンセプトの中心に“介護用品ではないモノを作ろう”という思いがありました」

 専門店を覗けば介護のための道具はいくらでも並んでいる。ところがこれらに手を伸ばそうとしない要介護者は多い。

 とくに要介護度の浅いうちは「普通の商品でも大丈夫だ」「自分はまだ介護グッズを使う段階じゃない」といった気持ちが起こる。これはごく自然な感情だ。認知症をはじめとする心身の病を得たからといって、それまでと違う生活や道具の使用を強いられるいわれはない。日常生活のうえで、健常と疾病は地続きだ。工夫次第でそれまでの生活や道具の使用をある程度続けることはできる。そうした思いをベースに商品開発は始まった。

 「7年前に認知症の診断を受けた父の日常を見ていても感じたことですが、買い物での失敗は外に出ようという気持ちを萎えさせます。レジでお金を出すことに時間がかかると『後ろに並ぶ人に迷惑をかけているのではないか』と考えて気持ちが焦り、さらに失敗を重ねる。また、細かな計算が心もとなくなって、何か買うたびにお札で支払うようになり、やたらと小銭だけが財布の中に増える。そんなことが積み重なってきて、出かけるのが嫌になってくる」

 清水さんは、自分の父親のような人たちが便利に、そしておしゃれに使える財布の開発を決意した。家族のために働いて稼いで生活を支えてきた人たちにとって、お金の失敗は人間の尊厳に直結する大問題と言っていい。