はつらつと元気に生きて社会や周囲の人々と関わり続けることが、認知症の発症予防や進行抑制につながるのはよく知られたところ。魅力あふれる活動で一人ひとりの生きがいづくりにも余念がないシルバー人材センターがあった。(庄子 育子=Beyond Health)

*以降の内容は、2021年1月27日に掲載した記事の再録です。肩書・社名、事実関係などは原則、掲載時のままとしています。

高年齢者が働くことを通じて生きがいを得ながら、地域社会の活性化を目指すシルバー人材センター。全国の市区町村を単位に置かれており、都道府県知事の指定を受けた社団法人が運営している。高齢者の働き方があらゆる意味で課題になっている今、シルバー人材センターの存在が見直され始めている。年間6億円以上の売り上げを誇り、会員総出演のゾンビ映画まで制作した門真市シルバー人材センター(大阪府)を取材した。

門真市シルバー人材センターの会員さんが出演するゾンビ映画。撮影現場での一枚(提供:門真市シルバー人材センター)
門真市シルバー人材センターの会員さんが出演するゾンビ映画。撮影現場での一枚(提供:門真市シルバー人材センター)
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 60歳以上で働く意欲のある人であれば原則、誰もが会員になることができるシルバー人材センター。高齢者の仕事や生きがいを得るための有力な選択肢となってきたが、全国の会員数は2009年の約79万1000人をピークに下がり続けている。

 理由は母体市町村合併によるセンター数の減少と定年延長の動きだ。55歳定年が当たり前だった昭和の時代から、2000年には企業に対して65歳定年制が努力義務とされた。さらに2006年には65歳定年が義務となり、今年の4月からは70歳までの延長が努力義務となる。歳を重ねても会社員として働き続ける人が増え、相対的にシルバー人材センターの会員が減ることになった。

 「定年が早かった時代は、会員さんも多く、センターの平均年齢も低かった。今後は70歳定年が既定路線化されていくことになります。ただ、これは我々にとってマイナスの面だけではありません」

 そう語るのは大阪府門真市にある公益社団法人門真市シルバー人材センター、常務理事兼事務局長の和多幸司郎氏だ。同センターは年々会員を増やし続け、全国的にも注目されている。

 「門真市は人口が12万人と少ないのですが、60歳以上の人口に対する会員数の数である入会率は4%。これは全国5万人以上市(586センター中)の8位の数字です」(以下「」内は全て和多氏)

会員増の秘訣は発信力

 そもそもシルバー人材センターは、1971年に制定された高年齢者雇用安定法のなかで定められた仕組みだ。60歳になれば入会できるのだが、昭和の時代と今とでは「高齢者」のイメージが激変している。

 「今の60歳は高齢者とはいえません。まだまだ現役バリバリ、第一線で活躍しています。かつては60歳になればシルバーといっても不思議ではなかったのですが、最近ではセンターへの入会を考え始めるのは主に70を過ぎてからです。当センターも会員さんの平均年齢は74歳くらい。定年が60歳だった時代は70歳を切っていました」

 2021年4月からは、いわゆる「70歳就業確保法」が施行され、定年を70歳まで伸ばすことが努力義務となる。今後は今以上にサラリーマンの会社員人生が長くなっていくはずだ。シルバー人材センターの会員事情にも変化があるかもしれない。

 「今回の法改正は、年を重ねても働き続けるという機運が高まっているということでもある。つまり追い風でもあるのです。実際、当センターの会員数は増加しているし、最近では60代の”若手”からの問い合わせが増えてきています」

仕事・ボランティアは楽しい

 全体のパイが減るなか、門真市シルバー人材センターはどうして会員数を増やし続けることができるのか。和多氏は「現役時代に近い労働者派遣の仕事や喫茶店の経営、伝統野菜(門真れんこん)の栽培・販売、内職軽作業をする認知予防福祉作業所の開設、ボランティア活動など、仕事やボランティア活動の内容を自由に発想し、仕事の楽しさを伝えること」と話す。

 職場を選ぶとき、そこがどんな場所なのか、事前に知ることが大きな手がかりとなる。活動がいくら活発でも、外向けのアピールが下手な組織には人が集まりにくい。門真市シルバー人材センターは、ホームページの随時更新や会報誌の発行など、外に向けての広報が盛んだ。

 「以前はチラシの配布やバスに広告を出すなど、普通の企業がやるうようなことをいろいろとやっていたのですが、なかなか会員数アップにつながりませんでした」

 和多さんたち運営側は、頭を悩ませた。

 「新規入会してくれる方の動機を分析すると、既存の会員さんの楽しそうな姿を見ることで決心した。というものが多いことがわかってきたのです。そこで、会員さんの生の声を伝える広報を心がけるようになった。最近は『見せる(魅せるの意味も)広報』ということで、頑張っている会員さんの声をホームページや会報などでどんんどん”見せて”いく方法に取り組んでいます」

市内で行われた清掃ボランティアの様子(提供:門真市シルバー人材センター)
市内で行われた清掃ボランティアの様子(提供:門真市シルバー人材センター)
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 また、日々の活動そのものも「見せる(魅せる)広報」の一貫だ。

 「地域の清掃ボランティアなどの活動はもとより、喫茶店を独自に運営するなど、当センター発のイベントなども開催。市民まつりなどにも積極的に関わるなどして、既存の会員さんの活動を”見せて”いくように心がけているのです。これが会員増に直結しているわけです」

ついにゾンビ映画まで

 そして最大の広報といえるのが会員総出で出演するゾンビ映画だ。

 「去年、当センターは創立40周年を迎えました。それを記念して何かやろうと、数年前から積立金もやってきました。でも何をやればいいのか、ずいぶん悩みました」

 歴史をまとめた冊子や記念式典など、誰でも思いつくようなものでは「自分たちらしくない(和多氏)」。自分たちのキャラクターを伝えるもっとも適したもの。1700人を超える会員がなるべく多く参加でき、さらに未来に残せるもの。

 「導き出した解が『ゾンビ映画』だったんです」

 ……笑ってはいけない。

 地元の映像制作会社に相談すると、制作費は積み立て金で賄うことができることがわかった。映像作品として未来にも残せる。ゾンビ映画のゾンビ役であれば演技力はさほど必要とせず、また大人数が出演できる。

 「当センターの40周年記念作品なのですが、実はゾンビ映画が日本で流行し始めてちょうど40年という節目でもあるのです」

 なるほど、たしかにサム・ライミ監督の『死霊のはらわた』シリーズ第1作は40年前の、1981年公開だ。

 「楽しんでやってもらう。その楽しさをどんどん外に向かって発信してもらう。それが狙いです。『ゾンビになってください』とお願いした当初は、会員の皆さんも面食らっていましたが、いざクランクインしてみると皆さんノリノリ。最初はぎこちなかったゾンビも、回を重ねるごとに、『もっと派手なメイクを』『もっと血糊を』と会員さんのほうから言ってくるようになりました」

ご安心ください。メイクです(提供:門真市シルバー人材センター)
ご安心ください。メイクです(提供:門真市シルバー人材センター)
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 作品は2020年12月にはクランクアップ。現在絶賛編集中だ。

 「毎年夏に例会があるのですが、そこで上映できるように頑張ってもらっています」

 こうした取り組みが実を結び、人口12万の小都市としては破格の会員数1779人(1月22日現在)。年間の売上は6億8000万円を超える。センターが稼ぎ出す売上の一部は地域の介護事業などに還元される。

 「平均では、月額3〜4万円程度ですが、植木剪定や、草刈り除草作業などで月によって多い少ないはありますが、月額収入が30万円を超える会員さんもいらっしゃいます」

数字が証明するシルバー人材センターの健康効果

 認知症をはじめ高齢者特有の疾病の導火線とも言われ、注目されているフレイル。自立し、健康に生活できているものの、要支援・要介護状態の予備軍の状態を指す言葉だ。2018年にこのフレイルとシルバー人材センターの活動の関係を調査した研究がある。「生きがい就業の介護予防効果に関する共同研究事業「公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団」がそれだ。

 「全国のシルバー人材センターにアンケートする形で調査は行われました。当センターも調査に協力しています。結果は良好で、センターの活動がフレイル予防になっていることがわかったのです」

フレイル状態の該当・非該当調査。対象は1万1427人(出所:ダイヤ高齢社会研究財団の資料より)
フレイル状態の該当・非該当調査。対象は1万1427人(出所:ダイヤ高齢社会研究財団の資料より)
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 同調査では、「バスや電車で1人で外出していますか」「日用品の買い物をしていますか」など25項目のチェックリストにしたがい、会員のフレイル状態を算定。各年齢層では上記のような結果となった。フレイル対象者は全体で6421人だった。

 同じ調査を1年後に行なったところ、このうち約30%が悪化せず現状を維持。さらに、10%は心身状態が改善したという結果が出たのだった。

 センターの売上を原資とし、少子高齢で衰退する地域社会を支えるための福祉有償運送や家事支援サービス事業の充実もはかられている。また健康増進効果は医療・介護の財政圧迫に歯止めをかけることも期待できる。シルバー人材センターの活動は、日本が高齢化社会を生き抜くヒントとなりそうだ。

庭師は人気の仕事。60歳代で弟子入りし、一人前になる人もいる(提供:門真市シルバー人材センター)
庭師は人気の仕事。60歳代で弟子入りし、一人前になる人もいる(提供:門真市シルバー人材センター)
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(タイトル部のImage:出所は門真市シルバー人材センター)