血液検査でアルツハイマー型認知症の兆候がわかる──。島津製作所からそんなニュースが飛び込んできたのは、今年6月。「世界初」の仕組みだという。米バイオジェンとエーザイが共同開発した、アルツハイマー型認知症の根本的な原因に直接作用する初の治療薬も6月上旬に米国で承認されたばかり。認知症の早期診断・治療に向けた技術革新が進む。(庄子 育子=Beyond Health)

*以降の内容は、2021年6月24日に掲載した記事の再録です。肩書・社名、事実関係などは原則、掲載時のままとしています。

 島津製作所は2021年6月22日、少量の血液からアミロイドβを計測する医療機器「血中アミロイドペプチド測定システム Amyloid MS CL」を発売した。アミロイドβは、アルツハイマー型認知症の原因とされるたんぱく質。認知症診断を支援する血液バイオマーカーとして、“血液1滴”という極めて簡便な手法で検査できるのが特徴だ。

島津製作所本社で記者会見を実施(写真:今 紀之、以下同)
島津製作所本社で記者会見を実施(写真:今 紀之、以下同)
[画像のクリックで拡大表示]

 記者会見に登壇した、同社 田中耕一記念質量分析研究所 所長 エグゼクティブ・リサーチ フェローの田中耕一氏は、「血液1滴からアルツハイマー型認知症に関わる変化が分かるまで来た」と感慨深く語った。今回の医療機器の実現には、同氏が2002年にノーベル化学賞を受賞した「マトリックス支援レーザー脱離イオン化法」(MALDI)寄与している。

今回の機器の原理を説明する田中耕一氏
今回の機器の原理を説明する田中耕一氏
[画像のクリックで拡大表示]

「本測定システムの結果のみで臨床診断や鑑別をしてはならない」

 今回発表した機器は、管理医療機器(クラスⅡ)として、2020年12月に製造販売承認済み。「革新的医療機器条件付早期承認制度」により、2020年6月の申請からわずか6か月で承認を受けたという。一般的名称は「アミロイドβ質量分析用セット」(医療機器承認番号:30200BZX00384000)、希望販売価格は1億円(税別)。

今回の機器のモックアップ
今回の機器のモックアップ
[画像のクリックで拡大表示]

 発表がこのタイミングになったのは、「指針の発行を待ったため」と田中耕一氏は言う。指針とは、日本認知症学会、日本老年精神学会、日本神経学会が監修した「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカーの適正使用指針」のこと。

 今回の機器は、あくまでアミロイドβを計測する機能を備えるもの。この出力値の臨床的意義は評価されていない。そのため、同指針では「本測定システムの結果のみでアルツハイマー病の臨床診断や鑑別をしてはならない」としている。認知症の専門医が、様々な診察や検査を基に総合的に診断する上での一つの情報にとどめることを明記した指針である。

受託解析サービスを実施

 今回の機器のインパクトの一つとして、これまで用いられてきたPET(陽電子放出断層撮影)検査の対象者を減らすことができるとしている。放射能を含む薬剤を用いるPET検査の代替手法として、脳内アミロイド蓄積との相関を推定できる可能性があるとする。

[画像のクリックで拡大表示]

 さらに、薬機法で承認された分析手法であることから、精度管理されたコホート研究や医薬品の薬事申請データとして利用できることも特徴だとする。

 機器単体は高価であること、かつ熟練した操作者による検査が必要になることから、機器単体の販売と並行して、受託解析サービスを実施する。受託分析子会社の島津テクノリサーチの「アミロイドMS受託解析サービス」において今回の機器を使用する。想定する受託者として、医療機関(認知症専門医)、製薬企業、医療系研究機関などを挙げる。

(タイトル部のImage:今 紀之)