5Gを利用できるようになれば…

 hinotoriをはじめとする手術支援ロボットの利用にあたって、今後大きく期待されるのが「遠隔指導」や「遠隔手術」である。これらを実現できれば、医療の地域格差の改善にもつながることになる。

 もちろん、米国や中国などと比べれば日本の国土はそれほど広くないため、手術の指導にあたって「飛行機や電車を利用しても、それほど膨大な時間がかかるわけではない」(藤澤氏)。しかし、現状のコロナ禍や緊急の災害時においては、離れた場所からの手術支援が大きな一助となるだろう。

 また、若い医師が非常に難しい手術をしなければならないケースにおいて、離れた場所から専門医師による指導や提案ができれば「確実かつ質の高い手術が可能になる」こともメリットだと藤澤氏は考える。さらに将来的には、国際連携によって海外の著名な医師に、困難な手術を担当してもらうようなケースもあり得るだろう。

 こうした遠隔指導や遠隔手術の実現において、大きな役割を果たすのが高速・大容量通信を可能にする次世代移動通信システム「5G」である。そもそも、現状では手術支援ロボットが置かれている手術室とそれを操作するコックピットは、同じ病院内にあって3~4m程度しか離れておらず、しかもそれぞれが有線でつながれている状況だ。しかし、5Gを利用できるようになれば、手術室とコックピットが遠く離れた場所にあっても、アームの操作や技術指導が可能になる。

5Gを利用した「遠隔指導」と「遠隔手術」のイメージ
5Gを利用した「遠隔指導」と「遠隔手術」のイメージ
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 藤澤氏はこれまでに、光ファイバーを利用した遠隔での手術支援を行った経験もあるそうだ。しかし、そのような環境でも「通信の遅延は起きた」そうで、「非常に問題だった」と振り返る。遠隔指導であれば「ゆっくり進めたり待ったりする」ことも不可能ではないが、遠隔手術では「この遅延が致命的になる」からだ。

 また、手術の状況を確認する映像の画質は現在「フルHD」だが、今後はさらに高精細な「4K」や「8K」になることが予想される。さらに、セキュリティの問題も避けては通れない問題だ。その意味で、高速かつ大容量な通信を可能にして「遅延を可能な限り小さくし、しかもセキュリティ対策も備えていることが、今後は求められる」と藤澤氏は指摘する。

 例えば、高層ビルなどの影響によって通信が一瞬でも途絶えるような環境だと、遠隔手術であれば安全性に影響する。それだけに藤澤氏は、まずは近場で模型を使った遠隔手術を実施し、「遅延なく操作できるか」「セキュリティに問題はないか」などを検証することを提案。そこで問題なければ、次のステップとして「動物での検証」や「より遠い場所」での遠隔手術に移行し、段階を踏んで最終的に患者での遠隔手術にたどり着くべきと考えている。そのため、実現までの道のりは「まだまだ長い」と訴える。